純白の魔法少女はその身を紅く染め直す

細木あすか

3:獣の咆哮が観客を魅了する①



「ギルド」と呼ばれたそこは、やはり森の中にあった。
真ん中が広場になっていて、それを囲むように森が広がっている。そこを、街中同様カンコウドリが飛び交っていた。

広場の端には大きな掲示板が複数設置してあり、そこから任務を選べるようだ。ちらほらと、その前に立つ人がいる。各々戦闘服に身を包んでいるので、魔法使いだろう。

「ここだよ!」

ななみは、たくさんある掲示板の中の1つを指差してみんなを案内した。それは、他の掲示板よりも小さく、貼り付けられている用紙も少ない。

「これが下界用。で、あっちが上界、そっちが主界かな。あと、自由に参加できる任務もある……けど、報酬が少ないから受ける人はいないね」
「ただ、自由参加は他のチームと組めるから人脈広げに最適だよ」

と、ななみの説明に補足する風音。

「私たちの国にもそんなシステムありました?」
「いや、ここ独自」

早苗が、2人の話をメモに書き留めている。まこととゆり恵が、それを覗き込んでいた。
それに補足を入れようと風音が口を開くと……。

「賑やかだねえ」

そこに、ななみよりも露出が激しい女性が顔を出す。

その人は、風俗を連想させる濃いめの化粧、少し刺激の強い格好で現れる。それがまたよく似合う体つきをしていたため、誰もがその容姿に釘付けになった。
彼女は、しっかり出るところ出ていて、細さもある。完璧なプロポーションと言えるだろう。腰に当てた手が、さらにウエストの細さを強調させている。

「えっと……」

3人は、突然登場した女性に困惑した。なんなら、周囲の人たちが彼女に向かって敬礼をしている。それに、ヒラヒラと手を振って答える謎の女性。

「あ~、マナだ!」

と、ななみがその女性に向かって抱きついた。風音がその様子を見て目を見開いて驚いている。どうやら、彼も知っている様子。

「ななみ、ちゃんと案内できたか?」
「うん!」

ななみの答えににっこりと笑い、彼女の頭を静かに撫でている。
ななみは、その手に甘えるようにすりつく。が、やはり誰なのかわからない3人の頭の上にできた「?」は消えない。

「うーん、話で聞いていた以上に良い男だねえ」

撫で終わると、彼女はそう言って風音の方を向いた。艶かしい視線が、彼を捉える。

「お噂は予々。お初にお目にかかります。このような格好でお許しください、皇帝」

すると、風音は「マナ」と呼ばれた皇帝のそばに跪き差し出された手の甲へ、マスク越しに挨拶をする。

「皇帝!?」
「皇帝!?」
「皇帝!?」

と、まあ急な登場に3人は驚きを隠せない。それもそのはず。皇帝と呼ばれた彼女は、全員が想像していた年齢よりはるかに若い。多分、30代だろう。

「え、だめ!ユウトは私のだよ!」
「いいじゃないか、一晩くらい貸してくれたって」
「だめーーー!マナ、年下興味ないじゃん!」
「これだけ魅力的な男がいたら話は別だよ」

と、本人がいないところで話が進んでいく。なお、その話に置いていかれた彼は、マナにしっかりと捕まっていてその絡んだ腕は誰が見ても離れそうにない。
そして、その反対側にはななみがしっかりと胸を押しつけて身体を寄せる。モテ期到来か。

「……それはいいから。ななみ、説明」

話についていっていない3人は、その光景を見てさらにどう反応したら良いのかわからない様子。必死に思考をフル回転させ、状況を理解しようとしている。
それを見た風音が、両腕に抱えている(?)女性たちへ特に反応を見せずにリクエストを送った。するた、名前を呼ばれて上機嫌になりながら、ななみが口を開く。

「あ、ごめん。この人は、この国の皇帝マナ。魔力回復が」
「おいおい、年下には興味ないって。……うん、みんな良い目をしている」

何か言おうとしたななみの頭を小突き、3人を舐め回すかのように見るマナ。が、その視線に不快になる要素はない。どちらかというと、さっぱりしていて気持ちが良い。

「初めまして」
「こんにちは」
「よ、よろしくお願いしますっ」

遅れて、3人はマナと挨拶を交わした。すると、風音から離れた彼女はその身で1人ずつゆっくりと抱きしめていく。

「ん、よろしく!……おいユウト、この子らまだ交換できてないだろう」

と、急に「ユウト」呼びされて驚く風音。あまり名前で呼ばれないらしい。ななみが2人に増えたような悪夢が、彼の頭をよぎる。

「……広場借りれる任務受注してやるつもりです」
「なるほどな。……おい、ななみ」
「はいはい~」

マナが促すと、ななみはサッとギルドの受付に向かって1枚の用紙をもらってきた。タタッと軽い足音が、軽快に地面の草を揺らす。
その紙は、他のものと違って紫色をしていた。

「これかな」
「ん、いい子だ」

そう言ってチラッと紙を確認し受け取ると、風音に向かって紙を見せた。

「これでどうかな。さっきもこれ受けてたチームあったし最適だぞ」
「……問題ないです」

紙に書かれた必要事項を読み込み、彼は首を縦に振る。びっしりと書かれた文字を一瞬で読み込んでしまったことに驚くまことたち。
ゆり恵と早苗も、その紙を覗き込むも半分も読めなかった。

「こんな演習もあるんですね」

そこには、「魔力交換」と書かれていた。報酬額も微々たるものだが提示されている。
どうやら、彼女が任務の説明をしてくれるわけではなさそうだ。

「この国に来て、最初はみんなこれを受けるんだ。まあ、しきたりみたいなものだから頑張ってな」

そう言って、マナは豪快に3人の頭を交互に撫でていく。

「……」

その力強さに、「母」の暖かさを感じたまこと。少しだけその頬は赤く染まる。
露出は高いが、媚びるような人ではないらしい。それが、短時間で理解できた3人は特に警戒はしない。

「よし、移動してやろうか」

その挨拶が終わると風音の言葉に促され、ななみを含めた4人は広場へと足を進めようとする。すると、マナが

「夜にでも歓迎ディナーを用意しよう。ななみ、案内しておけ」
「はあい」

そう指示して、再度ななみを抱きしめると風音の方を向く。

「……」
「……え」
「……」

その場の空気が、一瞬止まった。
誰も、その光景を見て動けない。

油断も隙も無いとは、このこと。マナが、気に入ったのだろう彼のガスマスクをサッと外し顔を近づけたのだ。

「……!?」

その様子は、彼の外されたマスクで丁度隠されていて、こちら側の4人にはその口元は見えない。一瞬の出来事で、誰も風音のマスク下を見よう!とはならなかった……。

彼女は、風音と口でしっかりと挨拶を交わしマスクを戻すと、そのまま笑いながら去っていってしまう。

「あーーー!ちょっとマナ!」

ななみの怒りの声に、ひらひらと手を振るのが見える。が、決して振り向かない。勝ち逃げか。

「……かなわないな」

さすがの彼も、その行為に赤面せざるを得なかったようだ。ポツリと呟くと、

「うん……」

ななみも、それに同調する。マナには逆らえないようで、ブスッとして頰を膨らませるだけにとどまった。

「すごい美人だったね……」

最初に我にかえった早苗の言葉に、こちらも真っ赤になりながらコクコクと頷く2人。それ以外に、言うことが見つからない様子。

「悪い、行くか」

いつもの表情に戻った風音が、再度4人を促す。それに頷き、広場に向かって歩いていった。誰も、今の光景を茶化さない。

          

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