純白の魔法少女はその身を紅く染め直す

細木あすか

6:実技試験


実践室は、今までにないほどの熱気を帯びていた。

「はい、次!」

筆記試験に合格し、実技に進んだのは半数以下の32人。残りの41人は、残念ながらまた来年の試験を待たなければならない。しかし、1年のブランクは大きい。そこで魔法使いの資格を諦めて去っていく人が、毎年のように出てくる。

「桜田ゆり恵です」

実技試験に進んだゆり恵は自分の名前を言うと、手を胸あたりで組んだ。
ゆっくりと目を閉じ、組んだ手から眩いピンク色の光を発する。その光景は、まるで祈りを捧げるシスターのよう。徐々に光が大きくなり、部屋全体を包み込んだ時、ゆり恵の目が開く。

「血族技、桜吹雪!」

彼女の声に反応するかのように、光が部屋の中心へと集まる。それは、そのまま桜の花びらに姿を変えた。ゆり恵は、そのまま大きく手を振りかぶり桜の花びらを操る。
血族技とは、その一族だけに受け継がれている魔法のこと。桜田一族には、この「桜吹雪」が代々受け継がれている。他の一族に、この魔法は使えない。

「ほぉ、これはすばらしい」
「美しい幻術ですね、しかも杖なしで」
「血族技がアカデミーで見れるとは」

部屋全体に舞い落ちる桜に、審査員から感嘆の声が漏れる。
通常、魔力が安定していない魔法使いは杖を必要としていた。しかし、杖を使わずそれを展開する彼女。高得点が期待できるだろう。

「桜田は演舞一族です。これも、その芸のひとつでしょう」

綾乃は、試験官の声に小さく解説を入れる。目の前で術を披露する彼女が、どれだけ苦労して演舞と向き合っているのかは知っていた。教師として、その事実は誇らしいもの。自然と微笑んでしまうのは、決して贔屓ではないだろう。

「終わりです、ありがとうございます」

いつのまにか、元の風景に戻っていた。
ゆり恵は、一礼するとそのまま部屋を後にする。彼女の姿が見えなくなると、審査員は用紙に合否を記録するべく一斉に下を向いた。
審査員は、綾乃、八坂を含めて5名。そこには、皇帝も居る。今日は、付き人の今宮はいないようだ。

「今年の生徒は、活気があるのう」
「えぇ、任務をすることが楽しみで仕方ない子が多いんです」

皇帝の言葉に、綾乃が笑った。

「そりゃぁ、結構じゃな」
「将来有望な魔法使いが誕生するかもしれませんね」

この試験では、何かを召喚し、幻術をしばらくの間視界に留めておくことが求められる。召喚されたものがどの程度の完成度を保てているのかも注目点。
細かい部分では、正確性を見る者もいれば、大胆さを見る者もいる。彼らの4名以上から合格を貰えれば、下界としてスタートをきれるというシステムだった。その中でも皇帝の点数は大きく、彼が合格を出せば大抵は下界に昇格できる。

「次の人、どうぞ」

試験は、問題なくすすんでいる。



***



「へぇ、ユキ君はカザグモ地方から来たんだね!」

その頃、ユキも問題なく実技室の待機場所で可愛い女の子に囲まれていた。……試験見学行かなくて良いんですかね。

「そうだよ。カザグモには君みたいな美人がいないから暇なんだ」

なんて、女子が見たらイチコロかと思われるような笑顔で話す。実際、その言葉で倒れた女子も居た。……何やってんですかね、本当。

「いやー、君たちとチームになれたら最高だなぁ」

と、何故か髪を掻き分けながら言った言葉に、集まった女子一同は、

「あたしも」
「私、あなたと同じチームに」
「私―――」

と、押し寄せること押し寄せること。待機場所は、100人は入るような大きなスペースだというのに、その場所だけ密集レベルが高い。

「たとえチームが別になっても、俺は君たちを忘れないよ」
「きゃーーーーー」
「ユキ様ーーーーー」
「一生ついて行きます!!!」

短時間でここまでのファンを作るユキはすごい。それを、取りこぼさずにウンウンと頷き全員と目線を合わせているところを見る限り、慣れているようだ。この才能を別のことに活かせれば良いのに、とは思うが。

「おい、真田。次、お前待機だって」

ユキは、待機場所に護衛対象であるまことがいることを知っていた。女子たちと楽しいおしゃべりしながらも、忠実(?)に任務をこなしている。

「ありがとう」

まことは、座席から立ち上がるとそのまま食堂を出ていった。それを横目で確認すると、

「じゃぁ、俺は試験会場に行ってくるよ。またお話しよう、かわいい子たち」

と、女子を見ながら言う。……ウィンクをしながら。星がいくつか飛んで再度気絶者を出したが、まあ割愛する。

「えー、そんな……」
「ユキ様まだ居てーーー」
「またお会いしましょうーー!!」

黄色い声を後ろに、ユキも食堂を出た。それを見た男子たちは、呆気にとられている。

「……あんなやつ、うちのアカデミーにいたか?」
「さぁ……」

女子の黄色い声は、その後もしばらく続いた。

          

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