不遇の魔道具師と星の王
第30話 端緒を開く
しかし、道中の快適さと迷惑を考えなくてもよい道ではない単純な直線状を通り、魔導騎馬二騎で向かえば二日で到着できるだろう。その分たまる疲労はすごいが、その辺りは魔道具やポーションなどでいくらでもごまかせる。それよりも早く現場の町について状況を確認するほうが優先するべきことだろう。
道中時々湧いてくる魔物たちはマリアの《竜神魔法》によって生まれる使い魔という疑似生物が並走し討伐してくれる。マリアはその使い魔にも名前をそれぞれつけているようで、炎の猫は火車(キャシャ)、雷の蛇は別雷(ワケイカズチ)、水の妖精には橋姫(ハシヒメ)と呼んでいる。
各属性の使い魔がいるそうなのだがその中でもこの三体が最も移動速度が速く戦闘力もあるということで今はこの三体のみを顕現させているそうだ。《竜神魔法》を極めれば俺も使い魔が使えるようになるそうなので少し楽しみだと思っている。何せ黒龍からはいったい何が生まれるのか全く想像がつかない。使い魔も《竜神魔法》の使い手によって同じ属性でも違うそうなので余計に楽しみで仕方がない。
邪龍を討伐した後は本格的にマリアに竜神魔法を教わろうと思う。そのためにもこの作戦は誰一人かけることなく完遂しなければいけない。
無意識に俺は馬の速度を少し上げていた。
~~~~~~
休むことなく走り続けた結果、一日と半日でビマコの町へとたどり着いた。普段はこの時期黒曜花という真っ黒で艶やかな花が咲くことで有名らしいこの町も邪龍が放つ瘴気のせいでどんよりとした空気が漂っており、来たばかりだというのにとんでもない頭痛に襲われてしまう。
このままではまともに頭を動かすことはできないので異物遮断の指輪を取り出して身に着け、同じものをマリアにも渡す。さすがのマリアも気分が悪くなっていたようで顔色が優れなかったが指輪を身に付けた後はいつもと変わらない真面目な表情に変わっていた。
気を取り直して町へと入っていくと、地獄絵図という言葉がぴったりのようななかなかに残酷な現場がそこにはあった。邪龍の瘴気によって既に何人も死者が出てしまっているようで、町の広場には彼らの死体が無造作に並べられている。
町の人たちはみんな白い布で作った間に合わせのマスクのようなものを身に着けて少しでも瘴気が灰の中に入らないようにしながら、瘴気に侵されてしまった人の看病をしている。
俺とマリアは急いで町長がいるという町の中心にある役場へと走った。役場の中にも瘴気に侵された人たちが横に寝かされており、中にはもう虫の息になってしまっている人もいた。
俺はそう言った人に特製の正常化の魔道具、通称《メディポット》というハンコ型の魔道具を押して回った。そのハンコには異物除去の魔法陣が彫られており、その中に魔力を含んだインクを満たして簡単に病気や毒を直すことができるというかなりの優れモノだ。
しかし液体を使った魔法陣の技術はなかなか研究が進んでおらず、世間一般ではこのような魔道具は一切出回っていない、俺だけが現状作れる魔道具の一つだ。
この状況を実際に見てどうにかしてこの技術を広く公開して早くこの魔道具を作ることのできる魔道具師が増えてくれるような努力をしなければいけないと俺は強く思った。もしそのような魔道具師が増えて、このメディポットが量産されるようになれば、原因がわからない感染症なども一時的ではあるものの治療するとこができるようになる。
そんなことを考えながら俺とマリアは町長室へとやってきた。あらかじめ町長には今日明日中には尋ねるという連絡をしてあるのですんなりと部屋に入れてもらえた。
「大したおもてなしができず本当に申し訳ない。お二人にもご覧いただいたようにこの町も邪龍の瘴気によって体調を崩してしまう町民がたくさん出てしまい、町民総出でそう言ったものの治療をすることで手一杯なのです。」
「全然大丈夫です。それよりも早く今回の依頼についての話を詰めさせてください。」
「もちろんでございます。今回ドラゴンナイツの皆様にお願いしたいのは邪龍の討伐でございます。少なくてたいへん心苦しいのですが、私たちもこの町を立て直していくにはかなりの額の資金が必要なので50万ルードでお願いいたします。」
「そこなんですけど、こちらから提案があるのですがよろしいでしょうか?」
俺は本当に申し訳なさそうに頭を下げる町長に出発前にライムさんと相談した提案をする。町長は俺が報酬額の値上げを要求するとでも思ったのか少し身構える。
「私たちは邪龍の討伐と、この町の復興までをお手伝いさせていただきます。具体的に言うと瘴気に侵された方々の治療と停止してしまったこの町の経済が再開するまでのお手伝いまでですね。その代わりなんですけれど、この町に少し大きめの雑貨の店を開かせてください。その分報酬はいりませんので。」
「それは一向にかまわないどころか、私たちとしてもありがたい話なのですが、聞いたままとらえるとあまりドラゴンナイツさんにはあまり得のある話ではないように聞こえるのですが?」
「いえ、その雑貨の店の利益はドラゴンナイツにも入ってくるので、長期的に見ればこちらのほうが得です。それに、新しいものを作ってこの町の人に試しに使ってもらうことでたくさんの人の意見がもらえるのでよりいいものを作ることができる。」
「なるほど、そういうことでしたら断る理由はありません。ぜひその提案に乗らせてください。」
町長は立ち上がって俺に右手を差し出す。俺もたって町長の右手をつかみ、軽く握手を交わした。
「それでは、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
俺はマリアと一緒に町長室をでて転送の魔道具を広げるのにちょうどいい場所を探しに行った。
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