不遇の魔道具師と星の王
第29話 作戦前日
あっという間に拠点は立派なものになった。つい一昨日まではただ広いだけの土地にポツンと屋敷と工房が建っていただけなのだが、今は屋敷を中心に小さいがとても立派な建物が立ち並んでいる。
たしかに俺が自分たちの生活する住居を立てろとは言ったが、ここまで立派な町のようなものが完成するなんて誰も思わないだろう?
だから俺は悪くない…
「アルト!ちょっと俺の部屋に来てくれ!」
屋敷の玄関前でライムさんが俺のことを大声で呼んでいる。俺は急いで屋敷まで走って戻った。
何気に今までほかの人の部屋に入ったことはなかったので、少し緊張していた。前に一度だけメリッカさんの部屋に入ったことはあったけれどそこまでよく見ていない。
「さ、適当にくつろいでてくれ。」
ライムさんの部屋は、この国のずっと東のほうにある島国の調度品がたくさん置かれていた。しかし、完全に東洋の国のものばかりというわけではなく、この国のものとも一緒に置かれているので何ともミスマッチ感がすごい。
「あぁ、この国では菊の国のものはなかなか手に入りにくくってね。どうしてもこんな感じになっちゃうんだ。決して俺のセンスがおかしいわけじゃないぞ?」
ライムさんは俺の思っていることが分かったのかしっかりとセンスのなさを否定していく。俺も正直センスはないほうだと思っているのでこれ以上は突っ込まないでおく。
「早速だが、明日邪龍のいる地域に向けて出発する。メンバーはいつもの5人で、マリアさんとサーシャさんは留守でいいか?」
「それなんですけど、邪龍のいるところの近くまでは俺とマリアの二人だけで向かって、近くの安全なところで転送の魔道具を起動させて一時的にこの拠点に繋ごうと思ったんですけどダメですかね?」
ライムさんは俺がそういうとすぐに地図を机の引き出しから取り出してテーブルに広げる。
「そうするのであれば、邪龍がいるケレンケン山脈の2キロ手前にあるビマコという町に繋いだほうがいいだろう。そのあとはどうする?」
「ケレンケン山脈の反対にそびえたつミズ・ロックの裏に例の魔導兵器を設置してメリッカさんにはそばで準備してもらいます。それ以外の全員は邪龍を魔導兵器だけで倒しきれなかったときに備えてそれぞれが中距離で最大火力を出す準備をします。」
「なるほど、ちなみに例の魔導兵器をメリッカはちゃんと使えるのか?」
「その点は完璧です。メリッカさんには今例の山岳地帯で練習用に作ったもので練習してもらっています。今までメリッカさんが使ってきた銃火器とはまた一味違った使用感になってるのでさすがにぶっつけ本番というわけにもいかないでしょうし。」
「抜かりないな。分かった。君の案で行こう。もしメリッカの一撃で倒しきれなかったらすぐに君が指揮を執ってくれ。」
「分かりました。」
俺はライムさんの部屋を出て工房へと向かった。俺がいつも使っている工房は避難民の中にいた魔道具師の人たちと共同で使っている。そのため、いつも工房にはだれかが入り浸っている。魔道具師というのは優秀な人ほど寝食を忘れて作業に没頭してしまうものなのでいつも誰かが中に入ってきても一切手は止まらない。
工房に入ってきた俺に挨拶をしてくれるのはそれこそサーシャとレベッカ、それからカルテラからの避難民の魔道具師たちのリーダー格の男、ディナルドの3人くらいだ。
ディナルドは忙しい俺に変わってレベッカとサーシャに魔道具の基礎を教えてくれている。基礎を完璧に仕上げるだけでも格段に出来上がる魔道具の質を上げることができるのだ。俺はまずそこから教えたかったので、ディナルドにはかなり感謝している。なにせ俺は教えるのがかなり下手なのでもしかしたら誤った情報を刷り込んでしまう可能性があった。それに比べてディナルドはまるで一流の教師のようにものごとにきちんと順序をつけて丁寧に教えてくれている。
さすがはカルテラの魔道具師だな…と思った。
「あ、アルトさん。お疲れ様です。あとで時間があるときに見てあげてほしいんですけど、これ、アルトさんのリーパーに組み込めるかもしれないと思って作ったアタッチメントです。」
俺は集中して作業している魔道具師たちに変わって部品を差し出してくるディナルドからリボルバーのシリンダーのようなパーツを受け取り、パパっと鑑定する。
「なるほど、このアタッチメントを組み込んで弾丸の性質を変質させるのか…。これだと3種類、追尾、雷撃、拡散かな?ちょっと面白いね。あとはこのアタッチメント単体だけじゃなくて銃本体に与える負荷を軽減できれば完璧かな。例えばシリンダー状じゃなくてレバー式にしてみるとかかな?」
俺は鑑定の済んだアタッチメントをディナルドに返した。いつの間にか俺の鑑定結果に聞き耳を立てていた魔道具師のみんなは嬉しそうな表情をしていた。彼らはここに来てからはアイデアを膨らませて魔道具を作っては俺に見せて意見をもらったり感想をもらったりしている。
「さて、みんな作業中に悪いけど手伝ってくれ!」
俺は工房全体に届くような大声で呼びかける。
「明日邪龍の討伐に出るから準備を手伝ってほしい。」
「自分たちは何をすればいいんでしょうか?」
「魔導兵器を収納の魔道具に格納してほしい。とんでもなく重いから何人かで一緒にやってくれ。サーシャとディナルドは俺と一緒に来てくれ。」
俺は手短に指示を出した後、2人とレベッカを連れて工房を出た。レベッカを子供部屋に連れて行ったあと、そのまま屋敷の俺の部屋まで戻りみんなに座ってもらう。
「それで、何かあったんですか?」
「ディナルドとサーシャには邪龍の討伐の依頼を手伝ってもらおうと思う。」
「といいますと?」
俺は邪龍が放っているという瘴気についてマリアから聞いた通りに話した。
「…という風に、邪龍は結構厄介な瘴気を放出している。しかも今回のは運の悪いことに邪龍が山脈の上にいるせいで、山おろしの風に乗って瘴気が人間の住む町にまで届いてしまっている。地元の療養所の人たちが治療してくれているだろうけど、それも持つか分からないしもしかしたらもう崩壊してるかもしれない。そこに君たちも治療を手伝いに行ってほしいんだ。」
「なるほど、でも先生、私はそこまで医学の知識は持っていないんですが?」
「そこは何とかなる。俺が二人に診察用の魔道具を渡すからそれを使って適切な魔道具を用いて治療してほしい。」
「分かりました。」
「それじゃ、二人に魔道具を渡しておくからお願いね。」
俺は二人に医療関係の魔道具をすべて渡し、自分も工房のみんなと一緒に準備に向かった。
たしかに俺が自分たちの生活する住居を立てろとは言ったが、ここまで立派な町のようなものが完成するなんて誰も思わないだろう?
だから俺は悪くない…
「アルト!ちょっと俺の部屋に来てくれ!」
屋敷の玄関前でライムさんが俺のことを大声で呼んでいる。俺は急いで屋敷まで走って戻った。
何気に今までほかの人の部屋に入ったことはなかったので、少し緊張していた。前に一度だけメリッカさんの部屋に入ったことはあったけれどそこまでよく見ていない。
「さ、適当にくつろいでてくれ。」
ライムさんの部屋は、この国のずっと東のほうにある島国の調度品がたくさん置かれていた。しかし、完全に東洋の国のものばかりというわけではなく、この国のものとも一緒に置かれているので何ともミスマッチ感がすごい。
「あぁ、この国では菊の国のものはなかなか手に入りにくくってね。どうしてもこんな感じになっちゃうんだ。決して俺のセンスがおかしいわけじゃないぞ?」
ライムさんは俺の思っていることが分かったのかしっかりとセンスのなさを否定していく。俺も正直センスはないほうだと思っているのでこれ以上は突っ込まないでおく。
「早速だが、明日邪龍のいる地域に向けて出発する。メンバーはいつもの5人で、マリアさんとサーシャさんは留守でいいか?」
「それなんですけど、邪龍のいるところの近くまでは俺とマリアの二人だけで向かって、近くの安全なところで転送の魔道具を起動させて一時的にこの拠点に繋ごうと思ったんですけどダメですかね?」
ライムさんは俺がそういうとすぐに地図を机の引き出しから取り出してテーブルに広げる。
「そうするのであれば、邪龍がいるケレンケン山脈の2キロ手前にあるビマコという町に繋いだほうがいいだろう。そのあとはどうする?」
「ケレンケン山脈の反対にそびえたつミズ・ロックの裏に例の魔導兵器を設置してメリッカさんにはそばで準備してもらいます。それ以外の全員は邪龍を魔導兵器だけで倒しきれなかったときに備えてそれぞれが中距離で最大火力を出す準備をします。」
「なるほど、ちなみに例の魔導兵器をメリッカはちゃんと使えるのか?」
「その点は完璧です。メリッカさんには今例の山岳地帯で練習用に作ったもので練習してもらっています。今までメリッカさんが使ってきた銃火器とはまた一味違った使用感になってるのでさすがにぶっつけ本番というわけにもいかないでしょうし。」
「抜かりないな。分かった。君の案で行こう。もしメリッカの一撃で倒しきれなかったらすぐに君が指揮を執ってくれ。」
「分かりました。」
俺はライムさんの部屋を出て工房へと向かった。俺がいつも使っている工房は避難民の中にいた魔道具師の人たちと共同で使っている。そのため、いつも工房にはだれかが入り浸っている。魔道具師というのは優秀な人ほど寝食を忘れて作業に没頭してしまうものなのでいつも誰かが中に入ってきても一切手は止まらない。
工房に入ってきた俺に挨拶をしてくれるのはそれこそサーシャとレベッカ、それからカルテラからの避難民の魔道具師たちのリーダー格の男、ディナルドの3人くらいだ。
ディナルドは忙しい俺に変わってレベッカとサーシャに魔道具の基礎を教えてくれている。基礎を完璧に仕上げるだけでも格段に出来上がる魔道具の質を上げることができるのだ。俺はまずそこから教えたかったので、ディナルドにはかなり感謝している。なにせ俺は教えるのがかなり下手なのでもしかしたら誤った情報を刷り込んでしまう可能性があった。それに比べてディナルドはまるで一流の教師のようにものごとにきちんと順序をつけて丁寧に教えてくれている。
さすがはカルテラの魔道具師だな…と思った。
「あ、アルトさん。お疲れ様です。あとで時間があるときに見てあげてほしいんですけど、これ、アルトさんのリーパーに組み込めるかもしれないと思って作ったアタッチメントです。」
俺は集中して作業している魔道具師たちに変わって部品を差し出してくるディナルドからリボルバーのシリンダーのようなパーツを受け取り、パパっと鑑定する。
「なるほど、このアタッチメントを組み込んで弾丸の性質を変質させるのか…。これだと3種類、追尾、雷撃、拡散かな?ちょっと面白いね。あとはこのアタッチメント単体だけじゃなくて銃本体に与える負荷を軽減できれば完璧かな。例えばシリンダー状じゃなくてレバー式にしてみるとかかな?」
俺は鑑定の済んだアタッチメントをディナルドに返した。いつの間にか俺の鑑定結果に聞き耳を立てていた魔道具師のみんなは嬉しそうな表情をしていた。彼らはここに来てからはアイデアを膨らませて魔道具を作っては俺に見せて意見をもらったり感想をもらったりしている。
「さて、みんな作業中に悪いけど手伝ってくれ!」
俺は工房全体に届くような大声で呼びかける。
「明日邪龍の討伐に出るから準備を手伝ってほしい。」
「自分たちは何をすればいいんでしょうか?」
「魔導兵器を収納の魔道具に格納してほしい。とんでもなく重いから何人かで一緒にやってくれ。サーシャとディナルドは俺と一緒に来てくれ。」
俺は手短に指示を出した後、2人とレベッカを連れて工房を出た。レベッカを子供部屋に連れて行ったあと、そのまま屋敷の俺の部屋まで戻りみんなに座ってもらう。
「それで、何かあったんですか?」
「ディナルドとサーシャには邪龍の討伐の依頼を手伝ってもらおうと思う。」
「といいますと?」
俺は邪龍が放っているという瘴気についてマリアから聞いた通りに話した。
「…という風に、邪龍は結構厄介な瘴気を放出している。しかも今回のは運の悪いことに邪龍が山脈の上にいるせいで、山おろしの風に乗って瘴気が人間の住む町にまで届いてしまっている。地元の療養所の人たちが治療してくれているだろうけど、それも持つか分からないしもしかしたらもう崩壊してるかもしれない。そこに君たちも治療を手伝いに行ってほしいんだ。」
「なるほど、でも先生、私はそこまで医学の知識は持っていないんですが?」
「そこは何とかなる。俺が二人に診察用の魔道具を渡すからそれを使って適切な魔道具を用いて治療してほしい。」
「分かりました。」
「それじゃ、二人に魔道具を渡しておくからお願いね。」
俺は二人に医療関係の魔道具をすべて渡し、自分も工房のみんなと一緒に準備に向かった。
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