不遇の魔道具師と星の王

緑野 りぃとる

第22話 新たな依頼

「ということで、今日から俺と一緒に働いてもらうことになったサーシャです。」
「皆さん、よ、よろしくお願いします!」

 俺は早速拠点にいるみんなにサーシャのことを紹介することにした。ドラゴンナイツは王国の中でもかなり有名なパーティーであり、俺も彼女に彼らと一緒に活動していることを言い忘れてしまったため、彼女は非常に緊張していた。

「はじめまして。このパーティーでリーダーをやっているライムだ。ようこそ、ドラゴンナイツへ。」

 ライムさんはいつも通りのさわやかな笑顔と共にサーシャに右手を差し出した。サーシャは恐る恐ると言った感じでその手を掴み握手した。

「で、アルト。彼女にはここで何をしてもらうのかな?」
「とりあえずはメリッカさんの魔道具の整備をお願いしようか思ってます。」
「ランページとリーパーを整備してもらうの?」
「リーパーは僕のですよ?」
「いや!アタシが持ってるからもうアタシのよ!」

 メリッカさんはリーパーを抱えながらそう言った。俺も冗談で言ったし、他の人もそれが分かったからか、みんな可笑しくて声を上げて笑ってしまった。

「冗談ですよ。でも、しばらくはリーパーは返してください。いろいろと手を加えたいこともあるので。それが済めばすぐにまた返しますから。」

 俺はメリッカさんを説得してリーパーを一度返してもらう。そのリーパーをみたサーシャはとても珍しいものを見たかのような表情をした。

「先生、それは?」
「これは超高威力対物ライフル『リーパー』だよ。あんまりにも威力が高かったからこのパーティーに入るまではずっと隠してたんだ。」
「ちょっと失礼しますね。」

 サーシャは俺からリーパーを受け取ってまじまじと観察を始めた。

「ボディーは鉄製、内部は風属性が微量付与されたクロムとニッケルの合金…。随分と中の機構も一般的なものとは違った特殊なものになっていますね。弾の発射をより正確かつスムーズに行うための工夫がされています。少し重いですが、その欠点を考慮しても私が知っている魔導銃の中では一番実用的な銃だと思います。」

 リーパーを観察しながらすらすらと言葉を発し続けるサーシャ。しかも彼女が言っていることはすべて俺が意図して改変した設計だったりするので余計に驚いてしまう。

「う、うん。その通りだよ。いろいろと試してその設計になったんだ。ニッケルとクロムの合金だけでも耐摩耗性は十分なんだけどより摩擦を減らしつつ弾に回転を加えるために風の魔力を付与したんだ。そうすることでより長い距離を弾は直進してくれるし、銃の寿命も長くなるからね。他にも排莢部にも風の魔力を付与してコッキングしやすくしたり、いろいろと魔力を付与して最適化してある部分はたくさんあるよ。」
「なるほど、ただ魔力を付与するのではなく、その部品に最適な属性を最適な量だけ付与するんですね。勉強になります!」

 彼女はメモを取り出してさらさらとメモを取り始めた。非常に勉強熱心な彼女だからすぐにランページの機構も理解してより正確な整備をしてくれるだろう。

「さて、アルト。師弟の会話を遮ってしまって悪いんだが、明後日から緊急の依頼に出発しなければいけなくなった。そのための打ち合わせを始めたいんだかいいかい?」
「すいません。どうぞ。」

 ライムさんはポーチから依頼書と地図を取り出してテーブルに広げた。

「今回届いた依頼は王宮からの依頼だ。内容は王国の北部に位置するモグリット山に突如出現した邪龍の討伐だ。邪龍が放出している瘴気によって近隣の村落の住民はかなりの被害を被っているそうだ。王都の魔導師隊はいま別件で王都を離れており、俺たちドラゴンナイツ単独での作戦になる。邪龍についての情報は一切ない。王都に存在するあらゆる文献にも邪龍の記述はないため、偵察から始めないといけない。」

 ライムさんが真面目な表情で説明している中、メリッカさんはギッツさんにちょっかいをかけて遊び、ギッツさんはそれに必死に耐えながら真面目な表情を保っていた。

「あの、発言してもよろしいでしょうか?」
「マリアさん、遠慮しなくていいんですよ?」
「では失礼して。これまで邪龍は我々ヴァルハラの一族が討伐してきました。人々に邪龍の存在を知られることで起こる災禍を防ぐために。」
「災禍?」
「はい。龍種に異端者の血が混ざりこむことで邪龍へと変わります。邪龍に変わってしまった龍種は理性がなくなってしまい、暴走状態になってしまうため、通常の龍種よりも危険な存在になります。邪龍に変わってしまったとはいえ龍種であることには変わりはありません。人間の伝承の中には龍の肉を喰らうことでさらなる力を得ることができるといわれていますが、龍種の肉を喰らうことでそれ以上の力を得ることができてしまいます。」

 マリアは飛んできたハエをつかみ、説明を続ける。

「しかし、それによって得られる魔力は龍種の肉を喰らって得られるものとは比べ物にならないくらい莫大な量で、とてもにんげんの許容量に収まり切れません。そして許容量を超える魔力を摂取してしまうと…」

 マリアがつかんでいたハエが突然爆散する。

「このように破裂してしまいます。ですが、それよりもっと恐ろしいのが魔人が誕生してしまうことがあることです。」
「魔人は知っているぞ。人の何十倍もの魔力を保有し、自身の破壊衝動に従って破壊の限りを尽くす存在。それが生まれてしまうのか?」

 ギッツさんが身振り手振りしながら話に割り込んでいく。

「その通りです。今まではその魔人が生まれてしまわないように我々ヴァルハラの一族が陰で邪龍を討伐してきました。しかし…」
「そのヴァルハラの一族がもうマリア一人になってしまったわけだ。」

 ライムさんがマリアの話の核心をついていく。

「マリアさんはこの中で一番戦える人間だ。正直なところこのメンツで勝てると思うか?」
「・・・」

 ライムさんの問いに黙り込んでしまうマリア。

「正直なところ、火力不足は否めません。ライムさんは対人、一対多には長けていますが、対龍となってくると圧倒的に火力が足りません。アルトさんは火力は十分ですが、その火力を出すための訓練がまだ足りていないので出し切れるかどうか怪しいので必然的に前衛は私とライムさん、タンク役にギッツさんの三人になってしまいます。どれほどアイラさんの治癒魔法が優れていても前衛を三人だけで回せるとは思えないのが今の正直な意見です。」

 ドラゴンナイツの拠点に非常に重たい空気が流れてしまうのであった。

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