ナイトメアシンドローム

ブンカ工場長

夢から覚めて、また明日

―――…

「……い、お…ぃ。…きろ」

あぁ、誰かが遠くで呼ぶ声が聞こえる。

何だろう――

だれ…?

「こらっ」

パチリと私は目を開ける。

「やっと起きたか…」
「……」

そんな声に、私はぼんやりと開いた目をそちらへ向ける。すると目の前に一人の男の人がいた。
その人は私を見ると、安心するかのように小さくため息をついたようだ。

「こんな所で昼寝なんて不用心だぞ。もう学校は終わっただろうに…。帰り道か?」
「えっと…」

男の人にそう聞かれ、私は静かにうなずいた。

ああ、そうだ。私、帰る途中だっけ。
学校が終わって、いつもの道をいつものように一人で歩いていて…。
そしたら鳥居をくぐって、神社にたどり着いて……。

あれ――?神社?

私は改めて辺りを確認する。
するとそこはたしかに神社であり、学校からもそれほど離れていない、私もよく知っている場所だった。

「なら寄り道せずに早く帰りなさい。もうじき日も暮れる。
この辺りは外灯が少ないからすぐに暗くなる。こんな場所でこの時間に、子どもが一人で長居するのはよくない」
「…すみません」

男の人にそう注意され、私はおとなしく謝る。それを確認するとその人は立ち上がった。
後ろから差し込んだ西日に照らされて、その顔はよく見えない。

「…闇に魅入られて神隠しに合わないよう、早くお帰り」

最後にそう言うと、その人はくるりと私に背を向けそのまま神社を去っていった。
その後ろ姿は、群青色の羽織がオレンジの光の中に溶けていくようで、なんだか妙に印象的だった。
その人が立ち去った後も、私はまだ頭がぼんやりしていた。
どうやら私は、学校帰りに立ち寄ったこの神社で居眠りをしていたらしい。
どおりで頭が重いはずだ。それに長い夢を見ていた気がする。

ズキ…

(頭いたい…)

記憶をたどっていろいろ思い出そうとしても、頭痛がしてよく思い出せない。

「……」

でもなんか、ずっと誰かと一緒にいたような気がする。
よく覚えてないけど、知らない誰かと一緒に不思議な冒険をするような…。
どこにでもありがちでおとぎ話のような、そんな内容の夢。
私はこめかみに手を当てて考える。
だめだ。これ以上は思い出せそうにない。
その時、近くでカラスの鳴き声がして思わず肩がはねる。

そうだ、暗くならないうちに早く帰らないと…

我に返った私はすぐに立ち上がる。だいぶ日が傾いてきたようで、地面の影が細く伸びていた。
早足で神社の鳥居をくぐろうとした時、ふと足が止まる。

「…?」

そのまま後ろをふり向くも、誰もいない。私は首をかしげる。
変なの…。
でもたしかに今、誰かが私の名前を呼んだような…。そんな気がしたのだ。

ざぁ――…っ

ふいにどこからか大きな風が吹いた。
その風はまるですれ違うかのように私を通り抜ける。
そして鳥居を通過すると、そのままオレンジ色の空へと吹き抜けていった。

「……おかえり」

すると無意識にそんな言葉が口からこぼれて、私は少し驚く。
その風は優しくて、そしてどこか懐かしい感じがしたのだ。
カラスが飛んでいく空の下、私も家に帰るべく神社を後にした。

〈おわり〉

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