ナイトメアシンドローム

ブンカ工場長

第14夢 懺悔の時間 -1-

ソニアは何かの気配を感じた。
自分の領域を侵されたことにわずかないら立ちを感じながらも、焦ることなく悠然とつぶやいた。

「……何か用?ぼうや」

ゆっくりとふり返り、そこにいる侵入者を見つめる。

「あ、あの…、か、勝手に入ってきて、ごめんなさい主…っ」

キルトであった。

「ここに入って来られるのは気分悪いのよね。
それに、あなたの望みは叶えてあげたつもりだけど。今さら何か不満でも?」
「お、お願いがあって来ました…」

ゆったりとそう話すソニアだが、それとは裏腹に圧がひしひしとにじみ出ている。
キルトは動かなくなった優の姿を見つけると目を伏せた。
そしてかすかに震える足で踏ん張りつつ、呼吸を整えると言った。

「お願いです、優を元の世界へ帰してあげて下さい…っ!」
「……はあ?」

ピり――、と空気が変わった。

「おいらの願い…、この世界から解放してもらう代わりに身代わりを差し出す。そういう主との約束。
その約束を、まるごと優にゆずりたいんです!元の世界に帰るって願いは自分も優も同じなので…。
だからおいら、この願いを優へゆずります!
でも自分はどうなっても構いません。どんな罰でも受けます!だから、だから優は…っ」

そこまで言った時、キルトの身体が飛んだ。

見えない力で殴り飛ばされたかのように、その身体は勢いよく壁に激突する。
そのままキルトは床に崩れ落ちた。

「がふ…っ!」
「何勝手に決めてるの?それに話が長くてイラつくわ」

ソニアは倒れているキルトへ歩み寄る。

「つまり、気が変わったからやっぱり約束変えてくれってことでしょ?
いいえ…、約束じゃない。これは取引き・・・

ソニアはキルトを見下ろした。
その目は冷え切っていて刺すように痛い。

間近で感じるプレッシャーは凄まじく、覚悟を決めた思いは一瞬で凌駕されてしまった。
そう理解した時、一気に恐怖がキルトの中に湧き上がってくる。

「そしてこれは、元々あなたが持ちかけてきたものよ?
自分の身代わりになる人間を連れてきたら出口を教えてほしい…。そうあなたが必死に懇願してくるものだから、かわいそうに思ってその提案に応じた。
そしてアタシはお望み通り、ぼうやの求めた出口への道を用意した。
アタシにここまでさせておいて、ずいぶん都合のいい発想ができるのね」
「ご、ごめんなさい…、何でもします、ごめんなさい…っ」

キルトは小刻みに震えながら、消え入りそうな声で言った。

「で、自分の願いをあのコに譲るとか言ってたけど、それってまさか、あなたが彼女の身代わりになるってこと?」

うなずくキルト。
途端、彼の腹部に重い一撃が入る。

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