ナイトメアシンドローム

ブンカ工場長

第11夢 ギブアンドテイク -1-


再びこの場所へ戻って来た優に、興が削がれていた水仙の心が再びうずく。
優は水仙を見て、それからすぐにキルトへ視線を移す。すると目が合ったものの、すぐにそらされてしまった。

「おっかえりーユウちゃん!どうやら無事にミッションクリアしたようだねー。
遅いから心配してたんだよ?」

白々しく言う水仙に、優はまっすぐ歩み寄る。そして手をのばした。

「ぶへ…っ!!」

ばちん!といい音が響くと同時に水仙の顔が歪む。キルトが目を丸くした。
優がビンタをかましたのだ。

「え…、え?ちょっと、えぇ…っ!何これ!!いきなり痛いんですけど!?」

突然のことに、面食らったような水仙が困惑気味に言った。

「……蚊」
「はい?」
「逃げちゃった…」
「いやウソでしょ!?」

そう白々しく言ってのけ、目をそらす優に水仙が食い下がる。
すると、優はすかさず手の甲を見せるようにして言った。

「頼まれたお酒はちゃんと届けてきました。
私は寄り道せず洞窟まで行き、そこであなたの友達に会いました。
これ・・はそのお礼にと、マクラが私にくれたものです」

すっ、と見せられた手首にあしらわれた美しい糸。水仙の目つきが変わる。

(これは、マクラの糸…)

その糸は水仙もよく知っていた。
たしかこれは、あの男にしか紡げないはず…。

「……」

まさかあの荒れくれ者が、こんな代物を自ら与えたというのだろうか。
水仙にとって、この展開は予想外のものであった。

「へぇ…、やるじゃん」

目を細め、水仙は不敵につぶやく。

「お見事だよユウちゃん!結構ハードなおつかいだったけど、でも君はこうしてちゃんと戻って来た。文句なしの合格だよ」
「なら約束…、わかってますよね」
「はいはい、わかってますよー。約束は約束だからね、いくらオレでもちゃんと守るからそんな怖い顔しないでよ!」

そう言うと水仙はキルトを拘束していた尾を解いた。
ようやく解放されたキルトは、足に力が入らずその場に崩れ落ちる。

「キルト…っ」
「平気だよ」

気遣う優をあしらうようにキルトが言った。
ぐっ、と奥歯を噛みしめると、彼はすぐに水仙から離れた。とくにケガなどはないようだ。

コメント

コメントを書く

「冒険」の人気作品

書籍化作品