ナイトメアシンドローム

ブンカ工場長

第9夢 とある誰かの謀 -1-


ゆらりゆらりと先へ進む火の玉が、やがて止まった。
それにつられて優の足も止まる。

目の前には洞窟。

それがぽっかりと大きな口を開け、まるで早く来いとでも言わんばかりに待ち構えているようだった。

「……」

水仙のいう友達とやらは、この中に住んでいるのだろうか?
だとしたらいったいどんな人物なのだろうか。
何より、本当にこの先にそんな人物がいるのだろうか…。

様々な思考がめぐる中、優は半信半疑で洞窟の入口に近づくと中を覗いた。
少し先からすでに薄暗く、その奥は闇で満ちている。
すると突然、火の玉が大きく燃え上がり、一瞬でそれがランタンへと姿を変えたのだ。

(これを使えってことなのかな…)

優はそれを手にすると、洞窟の中へ一歩足を踏み入れる。
ランタンからはやわらかいオレンジの明かりがにじみ出ており、辺りの闇をじんわりと照らしている。
とりあえず、なんとか先には進めそうだ。

「……っ」

ここで立ち止まっていてもしょうがない。先へ進もう。
優は手にした酒をいっそう強く抱え、反対の手にランタンを持つと洞窟の奥へと進んでいった。



洞窟の中は空気が生暖かく、踏みしめる地面は湿っていて苔やきのこが生えている。
あまり居心地が良いとはいえないだろう。

(このお酒を届ければいいわけだけど、その人、どこにいるんだろう…)

優は立ち止まり辺りを見渡す。

「すみません…っ」

声をかけると、音が反響して洞窟内に静かに広がる。しかし、それに応じる声はない。
まずはその友達とやらを探さなければならないようだ。
この洞窟のどこかにいるであろう、水仙のいう友人とやらを。
そうでなければ、おつかいが果たせない。そしたらキルトは……。
優はふと思った。

(…水仙に何かされてないかな)

思えばこうして自分一人で行動するのは、このおかしな世界に迷い込んで以来だろうか。
ここへ来て最初にたどり着いた迷宮のような町。そこで偶然出会ったのがキルトだった。
キルトと一緒に前へ進み、ようやく出口へのカギとなるかもしれない青ガラスへ届きそうなのだ。
もしあの時、彼と出会うことなく一人っきりだったら?
はたして自分はどうなっていたんだろう――。

「あの…、すみません、あの!だれかいませんか…っ!」

さっきよりも大きく、優は再び闇に向かって声をかけた。
洞窟の中は広い。むやみに歩き回って迷子になったら大変だ。
早く目的を果たして、あのキツネに成果を突きつけてやろう。
そう決心した優は一歩一歩を慎重に、さらに奥へと足を進めていく。
すると足元に何かが当たり、ふとそちらに明かりを向けてみる。

「い…っ!?」

優は思わず酒を落としそうになりあわてて持ち直した。

足元には白い塊――。
骨のようなものが散乱していたのだ。
それも一つだけではなく、他にもあちこちに散らばるように捨てられていた。
優が後ずさると、クシャリと嫌な音を立てて骨が潰れる。
何かの生き物の骨は、喰い漁られたように汚く散らかっていてよくわからなかった。
優は全身に鳥肌が立つのを感じた。嫌な予感しかしない。

この洞窟から早く出なければ危ない――。

そう直感し、酒を抱えている手にぎゅっと力をこめ、優は走り出そうとした。
刹那、鋭い視線が全身を貫いた。

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