ナイトメアシンドローム
-4-
「これ、お酒…?」
「そーだよー。大事な酒だからしっかり届けてね。あ、道ならオレの狐火が案内するからそれに着いてけばいいよ。親切でしょ?」
水仙は手のひらから火の玉を出すと宙に放った。
それが優の目の前まで下りてきて、青白い炎がゆらゆら動いている。
どうやらこれが目的地まで導いてくれるらしい。
「わかりました」
「これ果したらちゃんと教えろよ…っ」
「わかってますってー。オレはギブアンドテイクはきっちり果たす主義なの!ほら、日が暮れる前にさっさと行きなよ」
ひらひらと手を払って急かすように水仙が促す。そんな彼を、キルトはキッと睨みつける。
面倒なことさせるな。そんないら立ちを含んだ目である。
それはほんのわずかな時間であった。キルトは水仙に背を向け、優の後に続こうと歩き出した。
「だーめっ!キミはこっち~。おつかいはユウちゃんに任せて、人形クンはオレと一緒にお留守番だよーん!」
「はぁあああっ!?」
突然、後ろから伸びてきた3本の尾がキルトの身体に絡みつく。
そして強い力で引き寄せられ、あっという間に水仙に捕えられてしまった。
「おい…っ、なんのまねだ!」
「ごめんねー、ユウちゃん。オレの友ダチちょっとばかし神経質で人見知り激しいんだわ。
だから、おつかいはキミ一人にお願いするよ。その間、彼はオレが預かっておくからさ。
ねぇ、いいでしょ?」
水仙は優にそう言うとうっすらと笑う。
キルトは足をバタつかせ抵抗するも、むなしく空をきるだけだった。
優は静かにうなずいた。
「いいの?悪いねー。じゃ、気をつけていってらっしゃい!」
水仙がひらひら手を振ると、優はすかさずスッと指をさす。
自分に向けられたその指を水仙は不思議そうに見つめると優が言った。
「あなたのおつかい、ちゃんと果たします。だから、青ガラスの居場所…、ぜったい教えてもらいますから」
目を丸くする水仙に、それから…、と続ける。
「キルトにひどいことしないで」
優は水仙の頭上で拘束されているキルトを見ると小さくつぶやいた。
水仙は吹き出すと、おもしろそうに口元を歪める。
「アハハっ!別に食べちゃったりしないよー!このコまずそうだもん。わかったわかった、キミの望むようにしますよー」
「約束…」
まっすぐ水仙を見つめ、念を押すように優は言った。
そして渡された酒を手にしっかり抱え直すと歩き出した。
「優っ!!」
すると、突然キルトが叫んだ。
優は足を止めふり返ると、尾の中で捕われているキルトが何か言いたそうな顔でこちらを見ていた。
「その…、えっと…っ」
もごもごと口を動かすも何と言ったらいいのかわからず、キルトは懸命に次の言葉を探していた。
しかし、すぐに黙り込んでしまった。
「大丈夫」
「え?」
その様子に、優がふいに口を開いた。
「ちゃんと戻ってきます」
「……うん」
まっすぐキルトを見つめながら、宣言するかのように優は言った。
その迷いのない口調にキルトはただ小さく、短くうなずいた。
「美しいねぇ…」
そんな二人のやり取りに、水仙が冷ややかな表情でぽつりとつぶやく。
歩き出した優が再びふり返ることはなく、やがてその姿は見えなくなった。
キルトは複雑そうな顔でその方向を見つめていた。
少々、面倒な展開になってしまったもんだ――。
「さてと…」
優の気配が完全に消えたのを確認すると、水仙は拘束したままのキルトを目の前まで持ってくると、言った。
「さあ人形クン、しばらくヒマだし、オレとお話しよっか!男同士で話したいこともあるし…、ねぇ?」
その目には、動揺するキルトの姿が映っていた。
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