ナイトメアシンドローム

ブンカ工場長

-5-

***

それからしばらくしてリクロックが目を覚ました。
無事に元の状態に戻っており、破壊された悲惨な部屋も、彼の時間操作の力によって全て元通りになった。
優はそろそろ先へ進むことを伝えると、オルカが寂しそうに眉を下げて言った。

「短い時間だったけど、久しぶりに人間のお客さまとお話できて楽しかった。またヒトと関われるなんて、思ってなかったから…。あたし、優と会えてよかった!」
「私も…、楽しかった」

優は少し照れたように言った。

「ここから先はどこへ向かうの?」
「特にあてはないけど、青ガラスを追いかけようと思います。なんとなく、それが意味があるような気がして…。
ここにたどり着く前にも会いました」

優は拾っておいた彼のものと思われる青い羽を取り出して見せた。
初めて出会った時、青ガラスは優に帰り道は自分で探すようにと言った。
その言葉に従い、自分なりにキルトと共に出口への手がかりを探して進んできたつもりでいた。
しかし、適当に進めてきた足も、どこかで彼が誘導しているのではないだろうか?
優の中に、うすうすとそんな思いが芽生え出していたのだ。

もしそうなら、再び追いかけてみるしかない――。

「あのカラスさんを?それはいいかもしれないわね。彼、ミステリアスでわからないことだらけだけど…。
でも聞いた話では、こちらとあちらの世界を自由に行き来できるんだとか。大体はこちら側への一方通行なんだけどね。
でもあのカラスさんだけは、唯一それができる存在みたい」
「そう、なんだ…。あの、以前こちら側に迷いこんだ人たちは、無事に帰ることができたんでしょうか?」
「さぁ、それは…、わからない。
ここは思っている以上に複雑で、形があるようでないような…、そんなはっきりしない場所だから。
帰り道を探すのは、きっと簡単じゃないと思う」

オルカは難しい顔で言った。優は口を閉ざす。

「でも彼ならそのヒントを知っていると思うわ。やみくもに探しても出口は見つけられないけど。
あのカラスさんを追いかけるのが、案外正しいのかも…」

それに、と彼女は続けた。

「彼は主に一番近い人物だって聞くわ。だれよりも主に忠実で、本当は外の世界に憧れを持っているみたいだけど、必ずこちらへ戻ってくる。
主にとっても特別な存在みたいだし、優が思うように、あのカラスさんには何かあるのかもしれないわね」
「……わかった。青ガラスを探してみます」

決心したように、しっかりと優はうなずいた。

「あ、あのさぁ…」

すると、黙って二人の様子を伺っていたリクロックがおずおずと口を開いた。
優が彼の方を見る。

「そのカラスのひとを追いかけたいなら、ボクの力で送り届けてあげられる、かも…」
「え…、本当?」

思いがけない言葉に優が目を丸くすれば、リクロックは小さくうなずいた。

「その青い羽、わずかに気配を感じる…。それをもとにカラスのひとが向かった場所でここから一番近い場所へなら、キミたちを移動させられるよ」

優の手の中にある羽を指さして彼は言った。気配など優には少しも感じられなかった。
もし本当にそんなことができるのなら、手がかりのない今の状況を大きく変えることができるかもしれない。

「リック、その提案はいいけど…。あなたそんな大技使って、身体は大丈夫なの?」

そんな彼に、オルカが心配そうにたずねた。

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