ナイトメアシンドローム
-4-
「この世界で新たなモノに生まれ変われなかった分、きっと命への執着があったんだと思う。
特に血の通ったあたたかな命なんて魅力的だもの。
人間の優にはそれがあるから…。だから彼らはあなた目がけて追いかけてきた」
本能的にね――。
オルカは優を指さしてそう静かに告げた。
「でもこうして無事逃げてこれたみたいだしよかったわ。
もしも捕まっていたら、きっと命を吸い取られていたでしょうね」
「え?」
真面目な顔でオルカが指摘する。優は背筋が寒くなるのを感じた。
たしかに思い当たるところはあった。
怪物に追い詰められた時、身体中の体力と体温が奪われていく感覚があった。
あれはすでに生気を吸い取られている最中だったということだ。
オルカの言うよう、もしあのまま捕まっていたら…。そう考えると、優はじっとりと嫌な汗が流れるのを感じた。
「だからあたしは、ここで演奏を続けるの。あのコたちの浮かばれない無念を鎮めるために…。
ほんの少しでも、安らぎを与えられたらいいなって…。それがあたしの願いなの」
そう言ってオルカはふり向くと、にこりとほほ笑んだ。
その姿はあたたかくて、光に照らされたようにきれいだと優は思った。
「…きっと救われると思います。あなたの演奏は優しくて、聞く人の心を幸せにしてくれると思う」
「ありがとう!」
優の言葉に、オルカはよりいっそうほほ笑んだ。
その笑顔は人間の少女と変わらないもので、きっと彼女は思いやりのある優しい子なのだろう。
仲間のためにこれからもずっと。オルカの奏でる安らかな音色があれば、あの怪物もきっと静かに眠れるだろう。
優は素直にそう感じた。
「あ、そうだわ。せっかくだし、優たちにこの聖堂のなかを案内してあげる!」
すると、ふいにひらめいたようにオルカが言った。
「この奥には素敵な部屋があるの!見せてあげるわ」
オルカはウインクをして促す。
優はキルトを見ると、彼は察したように言った。
「……危なくなきゃ別にいいけど」
そうして二人はオルカに案内されるまま聖堂の奥へと進んでいく。
離れる際に大きなステンドグラスを、キルトは名残惜しそうに見つめていた。
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