ナイトメアシンドローム

ブンカ工場長

-2-

「さ、まずはジコショーカイから!あたしはねぇ、オルカっていうの!こっちはリクロック。
リックって呼んでね」
「…よろしくー」

優をイスに座らせ、目の前で少女たちが丁寧にあいさつする。
オルカと名乗った少女は、ワンピースの裾をつまんで優雅にほほ笑んだ。
長いきれいな髪には大きめのリボンがあしらわれ、目は紅くどこか神秘的だ。
色素の薄い肌は陶器のようで、まるで外国のお人形のような。そんな表現がぴったりであった。

「優です、よろしく…。こっちはキルト」
「優にキルトね、よし、おぼえた!」
「…あの、それであなたたちは?」
「うん?だから、あたしがオルカでこのコがリックよ!」

優の問いかけにオルカはきょとんとしてまたくり返す。

「いえ、そうじゃなくて…。あなたたちの正体というか…、ここに住んでるんですか?」

うまく言えずに優は遠回しにそう聞いた。
先程オルカは自分を見て人間か、と。そう聞いたのだ。
まるで自分はそれ以外の何かのような、そんな風に感じさせるものだったからだ。
オルカは数回まばたきをすると、すぐにっこりと笑ってうなずいてみせた。

「あ、そーいうこと。えぇそうよ。あたしたち、もうずっと前からここにいる。
あたしもリックも、もともと外の世界にいたんだもの」

「外から…?」

優の反応にオルカがうなずく。

「優は正体がなんとかっていうけど、教えてあげる。
あたしたち、人に作られたモノだったの。命も体温も持たない、無機質な存在…。
あたしはオルゴールでリックは時計として生まれたの。
長い間、人間の暮らしに寄りそってきたけど、でも形あるものはいずれ朽ちるし、主人がもういらないっていえば捨てられる。そういうもんよね」

そう話すオルカの表情は、少しだけ寂しそうに見えた。

「そしてあたしたちもそう…。行き場をなくして途方に暮れていたとき、ここに迷いこんだの。
そして新しい主ができた」
「新しい主?」

優の言葉にオルカは嬉しそうな声で言った。

「この世界の支配者…、とでもいうのかしら?うん、えらい方よ!
あの方の魔力であたしたちは今の姿になったの。
あたしたちからすれば、拾ってくれる主ができるのは何よりも光栄なことよ。
だからあたし、主に感謝してるの。この場所があたしたちの今の居場所だから」

オルカはまるで神様にお祈りでもするかのように、安らかに言った。
よほどその主のことを慕っているようだ。

「そうなんだ。私も、もともと外から迷い込んできた…、人間です」
「うわぁ、やっぱり!なんだか懐かしいにおいがしたもの。それで?優たちはどうしてこの聖堂に?」

そう首をかしげるオルカに優はこれまでのこと――。
標がかしや、彼から言われたことなど全てをありのままに話した。

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