ナイトメアシンドローム
-4-
「まさか出口を作ったんですか?」
「ふふふ…、言っただろう? 吾輩こそが出口への手がかりだと、ね」
驚く優に標がかしは隠れた口元で笑うと、少し自慢げにつぶやいてみせる。
もはや優たちを悩ませていた迷宮の街はそこにはなく、すっかり姿を変えていた。
「まじかよ…」
「さぁ、吾輩の導きはおしまいだ。あとは君たち次第…。
もちろんこの先に何があるのかは吾輩にもわからない。鬼が出るか、蛇が出るか…。
それでも、進むかい?」
そう言うと、標がかしは台座の上から二人を見つめる。優はキルトと顔を見合わせると言った。
「…行きます。ここで立ち往生していてもしょうがないし。ねぇ」
「おいらは…っ、優が行くなら行くぞ」
優に見つめられたキルトは素直にうなずいた。そんな二人を確認すると標がかしはフム、と納得する。
「なるほど、では健闘を祈ろうじゃないか。
言わずもがな、その一本道を進んでいくといい。通る際は道が開けるまで、後ろはふり向かないのが吉だ」
「わかりました。ありがとうございます」
優はお礼を言うと、言われた通り目の前に広がる一本道へと歩み寄る。
道の先はどこまでも続いていて、彼が言うように何があるのかまるでわからなかった。
「あ、待ちたまえ」
優がその道の中に足を踏み入れようとした時だ。ふいに標がかしが声をかける。
足を止め、優はくるりとふり返った。
「最後に一つ、吾輩から忠告をしておこうか。そうだな……、迷子のおぼっちゃん」
そう言うと標がかしは、優の隣りにいたキルトを見つめた。
「な、なんだよ…」
「左腕に気をつけたまえ。君のその部分に影のようなものが視える…。いずれケガをするかもしれないってことだよ」
不吉な言葉にキルトはぎくりとする。そして警戒するように標がかしをにらんだ。
しかしそんなこと彼は特に気にせず、しれっとした様子で言った。
「忠告は以上だ。先へ進むといい」
「……行こう、優」
キルトは標がかしに背を向けると、そのまま足早に一本道へと進んでいく。
優は戸惑いながら一瞬だけ標がかしを見つめるも、すっと軽く頭を下げるとキルトを追って道の中へと進んでいった。
「迷子はまだ終わらないけどねぇ。真の出口は……。ま、がんばりたまえ」
少しずつ小さくなっていく二つの影を見つめながら、標がかしはぽつりとつぶやくと再び目を閉じた。
もちろん、影がふり向くことはなかった。
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