ナイトメアシンドローム
-3-
『路頭に迷えば道標。向かう先に光はあるか?
それとも鬼か蛇がでるか。鬼門は避けて導きしるせ、方角方位道標――』
呪文のような言葉を唱えながら、標がかしの宙を舞う身体は徐々にスピードを増していく。
するとそれに反応するかのように、辺りに立ち並ぶ建物が次々と動き出したのだ。
ゴゴゴ…と重い音を響かせながら、そのまま宙に浮かび上がると空中を舞いだした。
「目がまわる…っ、何がどーなってんだ!?」
二人の頭上では彼が回るごとに発生した風によって、まるで竜巻に巻き込まれるようにあらゆる物が吸い上げられていく。
優とキルトは暴風に巻き込まれないよう、必死に台座にしがみついた。
「そぅら――っ!」
風によって空高く舞い上がった建物は、標がかしの動きに呼応しそのまま空中でカードのようにシャッフルされていく。
すさまじい風と舞い上がる砂煙に、優は固く目をつぶる。
「見えた…っ!」
カッ、と目を見開くと標がかしは回転をやめ、それと同時に風もおさまった。
ズドドドッ、と轟音をあげ、風に巻き上げられていた建物も一斉に空から落ちてきた。
「フムフム、なるほど…。見えたぞ、君たちの行く先が」
立ちこめる砂煙の中、標がかしがふわりと台座の定位置へと下り立った。
「フムフムじゃねーよ…。死ぬかと思ったぞ」
キルトは彼に聞こえないよう小声でつぶやくと、しがみついていた台座から離れた。
「気持ち悪い……」
優は口をおさえてよろよろと台座にもたれかかる。
船酔いでもしたかのような感覚であった。
「北西の方角…、ここから北西へ進んでみるといい。そこから何かの縁を感じる」
ふらふらの優とキルトをさしおいて、標がかしはけろりとした様子でそう言った。
「北西ったって…。この出口のみえない街中をどう進めばいいんだよ?それにそっちの方向は行き止まり――…、ん?」
彼のアドバイスに、キルトがすかさず反論する。
しかし、標がかしの示した先に目を向けたキルトは思わず言葉を失った。
「出口が、できてる…?」
優たちの目の前に広がっていたのは、立派な一本道であった。
先程までは確かに存在しなかった道がそこにはあったのだ。いや、道だけではない。
よく見ると建物の配置や上下の向きなど全てがバラバラであり、まるでつみ木のおもちゃのように街の景色がガラリと作り変えられていた。
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