ナイトメアシンドローム
-2-
「そんなことでは一生このラビリンスからは出られないよ。実際、君たちは幾度も吾輩の前を通り過ぎていったがね。
しかしこうしてやっと吾輩に気づけたんだ。偶然とはいえ良かったじゃあないか、お嬢さん?」
「……本当に出口を教えてくれるんですか?」
探るように優はたずねた。そして疑いを含んだ目で標がかしを見つめる。
彼は自身を出口への手がかりだと言うが、このかかしがいったい何をするのか、全く想像できなかったからだ。
そんな優の眼差しを受けながら、標がかしは答える。
「吾輩は標がかし…。迷える者に進むべき方向を示してやるのが我が役目なり。
さぁどうだい?一応聞いておくが、吾輩の導きを受けるかい?」
そして確認するかのように問いかけた。優は戸惑いながらも、軽く頭を下げると言った。
「お願いします」
「君はどうなんだね?」
すると、標がかしは優の後ろにいたキルトに視線を移すと同じく問いかけた。
「う…、おいらからも頼むよ」
キルトは目をそらすと、小さな声でつぶやいた。
それを確認した標がかしはフム、と納得したかのようにしっかりとうなずいた。
「よろしい。では君たちの進むべき道を、吾輩が導いてあげようじゃないか。
それでは諸君、吾輩の台座につかまりたまえ」
そう言うと標がかしは、何故か自らの立ち位置である台座を示した。
それは優の背丈を上回る大きさであり、優とキルトは半信半疑ながらも言われた通り、標がかしが佇む台座につかまった。
ひやり、と冷たい石の感触が肌に伝わる。
「そうそう、しっかりつかまっていてくれよ。吹き飛ばされないようにね…」
二人がつかまったことを確認すると、標がかしはふわりと宙に浮かび、その身体が台座から離れた。
「な、何する気だ…?」
その光景に、キルトは不安げに頭上に浮かび上がった彼を見上げる。
そのただならぬ雰囲気に、優も台座につかまる手に無意識に力が入る。
すると宙に浮かんだ標がかしは、くるりくるりとその身体を回転し始めたのだ。
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