ナイトメアシンドローム
-3-
「それはそうと…。なんかさ、さっきから同じ場所ぐるぐる歩いてないか?」
「やっぱり、そう思いますか?」
そうつぶやくと、優も同様に辺りを見渡した。
先程から歩き続けているというのに、一向に景色が変わらないのだ。
そのことにうすうす違和感を感じていた。
「ちょっとこっちへ行ってみましょう」
優は方向を変え、細い路地へと足を進める。キルトはあわててその後を追った。
しかし――。
「え…」
路地を抜け、入り組んだ道を続く限り抜けたはず、なのだが。
「ここ…」
先程までと変わらない、優たちが立っていた場所であった。
同じ建物、見覚えのある街灯。見知らぬ異国のようなおかしな街中を、二人は未だに抜けられずにいたのだ。
「じゃあ、来た道を引き返してみようよ」
そう言うと、今度はキルトが逆方向の道を歩き出す。先に進めないのなら出発地点まで戻ってみようと、優たちは引き返してみることにした。
(たしかこのまま行けば…)
優の脳裏に朱色の鳥居が浮かんだ。まだ記憶に新しい、あのトンネルのように続く鳥居だ。
ひとまずあの場所に戻ってみれば、また何かが変わるかもしれない。そう思い、優は足を進めた。
「この通り、こんな長かったのか?」
「いえ、そんなはずは…」
キルトの問いに優は否定する。だが行けども行けども、同じ道が続くようで一向に街の入り口など見えてこないのだ。
「そろそろ鳥居が見えてくるはずなんですが…。私、そこ通ってきたし」
「ないぞ」
すっとキルトが指さした先には、ただ突き当たりの壁が広がっているだけであった。
「行き止まりっぽいな」
「そんな…。たしかに鳥居のトンネルがあったんです。私はそこをくぐってこの街に入ったはずなのに…」
「けどこの辺りそれらしいもんないし…。優が通ってきたっていう入り口は、きっともうなくなっちまったのかも」
「なくなるなんて…」
そんなことありえない。とでも言いたげなように、優は納得いかないような顔をする。そんな彼女にキルトはなかばため息混じりに言った。
「あのなぁ、さっきも言ったろ?ここはお前がいた世界とは別ものだって。
入り口がなくなるのはたしかにフツーじゃないけど、フツーとかジョーシキとか、そういうのはここでは通用しないんだよ。
出口だって簡単に見つかるなんて思うなよ。それができればこんな苦労しないっての…」
面倒くさいといった感じで、最後はひとりごとのようにぼそりとつぶやいた。
「頭固そうだもんなぁ…、優は」
「………」
そんなキルトの言葉に、優はかちんときたようで黙ってしまう。
煙のように入り口が消えてしまった今、やはり街の中を進むしかないようだ。
「こっちもだめとなると、やっぱ街の中を行くしかないかぁ…。きっとこの街のどこかに抜け道の手がかりがあるはずだ。そいつを探そうぜ」
そう言うとキルトは行き止まりに背を向け、再び街中へと歩き出した。
優はまだ腑に落ちない様子だが、仕方なくそれに続くしかなかった。
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