ナイトメアシンドローム

ブンカ工場長

第1夢 青 -1-       


ある日の学校の帰り道。

その日もゆうは一人で歩いていた。
彼女は11歳の普通の少女である。
ちょっとほかの子と違うというのなら、それは冷静でどこか落ち着いているという個性だろうか。
涼しい顔立ちではあるが、本当は名前の通り優しい子である。

ただ少し人づき合いは苦手なようで、こうして通学路を一人で通ることは、彼女にとっていつもの日常であった。

「…!」

ふと、視界の端にあるものが映り、優は思わず足を止めた。

「あ…」

カラスである。
そこには一羽のカラスが電柱の天辺にいて、羽を休めているようであった。
しかし、そのカラスを普通と呼ぶには、どうも違和感があった。

それはいつも町の空を飛びまわっている黒いカラスとは違い、その羽色は青一色である。
その美しい青の身体と異色の存在感に、優は思わず声をもらす。青いカラスからしばらく目が離せなくなっていた。
するとその視線に気づいたかのように、青いカラスの首が優のほうへと向けられた。
羽色と同じ青い瞳に優の姿を映したまま、カラスはじっとして動かない。

カラスと少女。
両者のしばらくの静かな見つめ合いの末、先に視線をそらしたのはカラスのほうであった。
ふい、と優から顔をそむけると、そのまま羽を広げて飛び立った。

「!あ、待って…っ」

その様子に、優はあわてて駆けだした。

カラスの後を追って走り出す。
なぜそんなことをするのか?正直自分でもわからないまま、優は空を舞う青を無心になって追いかける。
青いカラスは一声鳴くと、高度を上げた。
蝶のようにふわりと飛んでいるが、優にとっては今にも変わりそうな信号機を急いで渡りきる程だ。
ただなんとなく、目の前のカラスが向かう先が気になったから――。
それだけのことなのに、優の足はもはや無意識に商店街を抜け、住宅地を抜け、路地を抜けていく。

そうやってだんだんと人気のない、辺りが不可思議な空気へと変わっていくのに、彼女は気づいていなかった。

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