冷遇タンク 〜魔王軍に超高待遇でヘッドハンティングされた〜

赤金武蔵

第8話 堕天使の事情

 四天王との顔合わせと対決を終えた俺は、メネットの案内で自室になる部屋へ案内された。


 場所としては、魔王城の最上階。転移陣でしか行き来できない、隠された部屋だ。


 理由は二つ。


 一つは、四天王のように、まだ魔族には人間をよく思ってない奴が多いこと。下手に同じ場所にいると、いざこざが耐えない可能性があるから。


 もう一つは、俺のタンクスキルで魔王城全域を覆ってほしいとお願いされたから。


 確かにここなら、魔王城を覆う程の防御スキルも使うことが出来る。


「申し訳ありません。本来なら、客人をこんな場所に押し込めてはいけないのですが……」


「いや、大丈夫だ。ここから見る眺めは最高だしな」


 部屋からテラスに出て、下界を眺める。


 広大な荒野も、海も、海の反対側に見える人間界も一望出来る。


 こりゃあ、絶景だ。


「レトさん、これを」


「ん?」


 何だこれ、指輪?


「プロポーズは嬉しいが、俺はまだタンクのことしか考えられない。すまない」


「かかかっ、勘違いしないで下さい! ぜんっっっぜん違いますから!」


 何だ、違うのか。……って、そこまで否定されると俺だって傷付くんだけど……!?


「これは転移の指輪です。この指輪を右手中指に嵌めて念じれば、例え世界の裏側でも、直ぐここに戻って来れます」


「へぇ……便利な指輪だな。ありがたく使わせてもらおう」


 指輪を受け取り、右手中指に嵌める。まるで、誂えたみたいにピッタリだ。


「師匠、いいなぁー」


「いいなぁー」


「ふふ。二人にもありますよ」


「「おー! やったー!」」


 ……え、二人?


 二人は指輪を貰って、嬉しそうに走り回っている。が……。


「メネット、二人にはいらないだろ。親御さんや自分の家とかあるだろうし」


「ああ、二人に親はいません。強いて言うなら、私が親代わりです」


 ……え?


 メネットは、走り回るムニとエルを聖母のような笑みで見つめる。


「二人がまだ幼い頃、孤児として私が引き取りました。本当の両親はどこにいるか分かりませんが、恐らくもうこの世にはいないでしょう」


「そうだったのか……」


 何だか、地雷を踏んだな……。


 俺も二人を見ると、笑顔でこっちに走って来て俺の腰に抱き着いてきた。


「にへぇ〜」


「むふぅ〜」


「ふふ。二人もすっかりレトさんを気に入ったみたいですし、問題ありませんよね?」


 ……まあ、二人がそれでいいなら、別にいいか。


「……はぁ、分かった。ただし、俺と寝食を共にするなら、生活の全てがタンクの為に費やされると覚悟しろよ」


「「はいですの!」」


 返事だけは一丁前なんだから、こいつら……。


   ◆◆◆


 その日の夜。二人を備え付けの風呂にぶち込んで、俺はテラスで一人星空を見上げていた。


 魔界も、人間界も同じ世界にあるから、星空は変わらず美しい。見ていて飽きない、大自然の芸術だ。


「……人生、何があるか分からんな……」


 代々タンクの家系に生まれ、タンクとして育てられ、タンクとして生き、タンク復興を目指した結果、今こうして魔王軍にいるとは……。


 自分の境遇に苦笑いしていると、背後に気配を感じた。


「誰だ?」


「──流石ね。まさか、私の隠密が見破られるなんて」


 ……この艶のある声に、気配……。


「堕天使か」


「ルシファーよ。みんなからはルシって呼ばれてるわ」


 堕天使ルシファーは、昼間と変わらない格好で俺の部屋に佇んでいた。


「ここは、転移でないと来れないと言われたはずだが」


「ええ。私も転移で来たわ。魔王様にお願いして、特別に許可を頂いたの。……あなたと、お話しがしたかったから」


 俺と話しだと?


 ルシはテラスへ出ると、俺の隣で星空を見上げる。


「……ここから見上げる星空は綺麗ね」


「下でも変わらんだろ」


「下は、いつも魔王軍の誰かしら騒いでるからうるさいのよ。主にリオンとか」


 ああ、あの獣人か。確かに、あの時も何か吠えてた気がする。


「……ねぇ、えっと……レト君?」


「何だ?」


 ルシは、星空から俺へと視線を向ける。


「……レト君のステータスについて聞きたいの。あのステータスを得るまで、何を捨てて来たのか」


 ……ふむ……。


「逆に聞くが、何故それを知りたい?」


「……私には、どうしても殺したい奴がいる。でも、私の今のステータスじゃ殺せない。……だから欲しいの、圧倒的な力が……!」


 ……憎悪の、塊のような眼差しだな……。


 …………。


「なるほど、よく分かった」


「じゃあ……!」






「俺は貴様に、何一つ教えるつもりはない」






「……ぇ……?」


 言うに事欠いて、誰かを殺すだの、圧倒的な力だの、物騒な奴だ。


「いいな、この力は誰かを護るための力だ。誰かを殺すためじゃない。敵の脅威から、敵の害意から、敵の攻撃から、大切な仲間を護るための力。それがタンクだ」


「…………っ」


「この力を攻撃値に応用しようと考えているなら、俺は何も教えないし、教えるつもりもない。分かったら出ていけ」


 ルシに背を向けて部屋に入る。


 全く。防御専門の俺が極限まで極めた力を、悪事に利用しようだなんて、ふてえ奴だ。


「待って。なら取引しない?」


「は? 取引?」


「私の体を好きにしていいわ。どう?」


 ……こいつの体を?


「自分で言うのもなんだけど、私って美人で、スタイルもいいわよ。この体を好きにさせてあげる。だから──」


「失せろ、ビ〇チ」


 何だ、結局こいつも、クソガキユウの所にいた魔法使いビ〇チと同じか。


 全く、無駄な時間を過ごした。


「……によ……」


 ……え?


「……によ……なによ……何よ、何よ、何よ! ちょっと強いからっていい気になって……! ムカつく……ムカつく、ムカつく、ムカつく!」


 え……えぇ……何逆ギレしてんのこいつ……?


「見てなさい! あんたなんかに頼んなくても、絶対! ぜーーーったい! あんたなんか倒してやるんだからぁ!」


 ルシは大粒の涙を目に溜めると、転移を使ってどこかへ行った。


 ……何がしたかったの、あいつ?

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