パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第6話 弱点

 その日の夜、気絶して動かなくなったネズヒコを客室に放り込み、俺達は執務室に集まっていた。


 集まってもらったのは他でもない。アデシャ族長の言っていた、黒ずくめの奴らの件だ。


「黒ずくめ……何でエルフの森にいたのかしら?」


「エルフ狙いの組織……ですかね?」


 まあ、エルフを欲してる奴は世界中にいるが、エルフの居場所は知られていない。ピンポイントでサシェス族の里付近にいるのは不自然だ。


「……とにかく、そいつらには注意するように。もし依頼中に発見した場合、即拘束、即尋問だ」


 俺達に害が無いなら放置だが、それを裏付ける決定的なものがない。


 エルフ族に仇なす奴らの可能性も捨てきれないし、慎重に越したことはないだろう。


 さて、それに関してはおしまいにして。


「話を変えよう。レアナ、ネズヒコの方はどんな感じだ?」


「弱音は吐くけど、根性はあるわね。何度か思いがけない動きで避けられたし、センスはあると思うわ。しかも、上手く急所を外して避けるのよ」


「……急所を外す? 本当か?」


「え? ええ……どうしたの、難しい顔して?」


「いや……」


 ……そうか……急所を外すのが得意、か。


 余り考えたくはないが、日常的にそういった環境にいなきゃ出来ない芸当だ。


 俺も似たようなことは出来るし、それを出来るようになる経緯も想像が付く。


 そして、それが招く最悪の事態も……。


「……分かった。シュユの方はどうだ?」


「うーむ……勘だが、ネズヒコは何か奥の手を隠してるように感じるな」


「奥の手?」


「あ、いや、本当に勘なのだ。恐らく、まだ本気ではないはずだ」


 ……シュユとレアナのあれを前にして、まだ本気じゃなかった、だと?


 ふむ……。


「……あいつがまだ本気を出したくないなら、それでいい。──本気を出させるまでだ」


「ジオウ君、とっても悪そうな顔よ……」


 おっと、いけないいけない。


 軽く咳払いをして、話を戻す。


「分かった。このまま、ネズヒコには避け勘を身に付けさせる。ちょっと気になることもあるから、明日の最初は俺がやる」


 急所避けの技術が本当なら……このままだとまずいからな……。


「じゃあ、次にミミさんから定時報告を頼む」


「はい。レアナさんの依頼に関してですが──」


 こうして、ミミさん、セツナ、リエンと定時報告を受け夜は更けていき……翌朝。


「つーわけで、今日一発目は俺だ」


「おっス、ジオウ先生!」


 一晩寝て回復したのか、ネズヒコの返事は清々しいものだ。


「何だ、やけに元気だな」


「……こう言っちゃなんっスけど、あのお二人に比べたら些か気は楽っス……」


 遠い目をするネズヒコ。まあ、あいつらと比べたらな……。


「安心しろ。俺はあいつらの報告を受けて、一つだけ確認するためにやるだけだ。少ししたらあいつらに変わるからよ」


「それならよかった……いやよくないっス!? じじじじジオウ先生っ、今日はずっとジオウ先生がいいっス……!」


「俺も暇じゃないんだよ。さあ、早速始めるぞ」


「うぅ……よ、よろしくお願いするっス……!」


 俺はアンサラーを抜かずに素手で構え、ネズヒコは腰を深く落として身構える。


 ……ふむふむ、なるほど。


「ネズヒコ、もっと全身の力を抜いて、俺だけに注視するな。全体を把握するように、気を散らすんだ」


「お、おっス……!」


 ……うん、さっきよりは全身の力は抜けたな。


「じゃ……行くぞっ」


空中歩法エア・ウォーク》で一気にトップスピードに持っていき、ネズヒコへ拳を繰り出す。


「くっ……!」


 まだ、今のは避けられるか。


 それなら……。


空中歩法エア・ウォーク》を複数回使い、更にスピードを上げる。


「速……!」


 拳、蹴り、掌底、掴み……その全てを避けるネズヒコ。


 が、素早く足を刈り──隙が出来た。


 上段からの貫手……!


「シッ──!」


「っ!」


 鳩尾へ向かって放つ。と……僅かに、腰を曲げて鳩尾の位置を操作した。


 だが、甘い。


 瞬時に軌道を修正……!


 鳩尾に、俺の貫手がクリーンヒットした。


「ゴハッ!?」


 ……今の動き……やっぱりな。


 リエンに合図し、ゲロを撒き散らしながらのたうち回るネズヒコに回復魔法を掛ける。


「かはっ! し、死ぬかと思ったっス……!」


 今程度で死ぬわけないだろ。


 だが……。


「思った通りだな。お前、日常的に攻撃を受けてただろ」


「っ!? ……な、何のことっスか……?」


「とぼけるな。今の無意識に急所を避ける動きは、日頃からダメージを受けてないと出来ないものだ」


 俺も、急所を外せば、生き延びていられると思っていた時期がありました。


「安心しろ。俺も同じだった」


「……ジオウ先生も……っスか……?」


「ああ。昔はいつ殺されるか分からない環境で、いつも攻撃を受けていた。それでいつしか、無意識のうちに急所を外す技術を身に付けてたんだ」


 当時のことは余り思い出したくないが……ネズヒコを見てると、そうも言ってられない。


「この避け方には致命的な弱点がある。分かるか?」


「い、いえ……何っスか?」


「俺の貫手が、もしナイフだった場合、急所を外しても、そこにダメージを受けたら……タダでは済まないだろう」


「あ……」


 気付いたのか、顔を真っ青にするネズヒコ。


 そうだ。拳や蹴りならいい。だが、武器や魔法に同じ戦法は通じない。受けた場所が急所になり、最悪の場合、死ぬ。


「いいかネズヒコ。避けろ。とにかく避けろ。無駄な動きを排除し、全て、全て避けきれ。お前は獣人だ。お前の身体能力と野生の本能があれば、絶対出来る」


「……おっス! 自分、やるっス!」


「その意気だ! さあ、レアナとシュユの所に行ってこい!」


「おっス! おおおっスーーーー!」


 ……ホント、単純なヤツ……。


「リエン、何かあったら頼むな。俺はちょっと、必要なものを探しに行ってくる」


「分かりました。どこへ繋ぎますか?」


「そうだな……」


 俺の探してるものを知ってるとしたら、あいつくらいか……。


「情報屋シュラーケンの店で頼む」

「パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く