パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第19話 話し合い

「……そんなことが……」


 俺の説明を聞くと、シュユは神妙な顔付きになった。


 それもそうだ。長年セツナを探し、再会したと思ったら、自分に対して死ぬかもしれない魔法を向けられたんだ。何も思わないはずがない。


「大丈夫か?」


「……大丈夫、と言えば嘘になる。だが、セツナ姉様が三〇〇年以上の間受け続けた辛さを思えば、心の傷を埋める存在クロに依存するのも、分からなくはない……」


 三〇〇年。俺には想像も出来ない、途方もない時間。


 もし俺が同じ立場でクロに出会っていて、その傷を忘れさせてくれると言われたら、恐らく……いや、間違いなくその手を取るだろうな……。


 だが、忘れさせてくれるだけじゃまだ足りない。


 エンパイオが言っていた。レアナの眼は、我ら全ての希望だと。


 そして散り際に言った、レーゼン王国への復讐という言葉。


 そのことから、クロがエンパイオやセツナ、レイガ達を仲間に引き入れる際に使った言葉は、容易に想像出来る。


『このままだと死ぬしかなイ。ですガ、私と契約すれバ、今より強くなれル。……復讐したくはないですカ?』


 こんな所だろ。


 エンパイオはレーゼン王国への復讐。


 セツナはこの腐った世界への復讐。


 レイガ達は俺への復讐。


 心のどこかに闇を抱え、復讐したい対象が明確であり、壊し、殺したい程の憎悪。


 そこに付け込んだ、甘い言葉。


 そうしてあいつは仲間を増やし、アビスを復活させるための負の感情エサを集めたんだ。


 全ては自分の主のためであり、あいつらは捨て駒。


 まあ、そのクロ自身も、最後はアビスに食われたんだが……自業自得だな。


 今までのことを整理しながら、クゥの案内で走り続ける。


「因みにだが、セツナに会ったらなんて声を掛ける?」






「無論、殴る」






「殴るの!?」


「当たり前だ。如何に操られていようと、セツナ姉様は、村や同胞達に被害を与えた。一発くらい殴らないと気が済まん」


 ふんすふんすと息巻く。今のこいつに殴られて、セツナの奴死なないか心配だ……。


 そのまま走り続けてると……何だか、周りの景色が異様になって来たな。


 淀んだ空。形を保っていない太陽。壊れた玩具。バラバラになった人形。食べ散らかしたお菓子。抉られた地面。


 それらが、時間が過ぎるごとに歪み、変化していく。


 不安定で、不確かな空間だ。長居すると、俺達も狂っちまいそうだな……。


『もう見えてくるはず、です』


「本当か!? セツナ姉様……!」


「あ、おいシュユ!」


 シュユは一気に加速すると、俺を上回るスピードで走る。やっぱりステータス四倍にもなると、俺では到底敵わないくらい速いな……!


『シュユねぇね、通り過ぎた、です』


「アホかあいつは!?」


 いや前からそうは思ってたけどさ!


『あと十秒でぶつかる、です。……三、二、一』


「《空中歩法エア・ウォーク》!」


 空気のクッションで、一気に減速ッ!


 ぐにゅーっとした感覚を全身で受け、スピードが全て殺される。


 よっ、と。上手く減速出来たな。


「さて……よう、セツナ」


 無数の玩具やお菓子に囲まれ、その中心で蹲っているセツナ。俺を見つめる瞳は酷く淀み、本当に俺を見ているのか分からない。


「なあ、ちょっと話そうぜ」


 セツナの横に座って、同じ方向を見る。


「……お互い、大変な人生だな。まあお前に較べたら、俺の人生の悩みなんてちゃちなもんだろうけど」


「…………」


 ……反応はなし、か。


「俺も、少し前までは最悪の状況でな……正直、この世の全てに見限っていた。何で俺ばっかりこんな目にって、そればっかり思ってたよ」


「…………」


「国中から疎まれ、蔑まれ、後ろ指をさされる毎日。愚鈍と呼ばれ、殺されかけた回数も……自分で死のうと思った回数も、片手じゃきかないだろう」


 話しながら、当時のことを思い出す。


 どこを向いても敵だらけ。逃げても、逃げても、逃げきれない。そんな絶望の日々。


「だけどな……俺のことを愚鈍と呼ばず、仲間に誘ってくれた女の子が現れた。古巣から逃げ、世間の目から隠れるように生きようとした俺に、あいつは……レアナは、笑って接してくれたんだ」


 あいつがいたから、今の俺があると言っても過言じゃない。


「…………あなたは……」


 ……セツナが、口を開いた。相変わらず、どこを見ているか分からないが。


「……あなたは、幸せ者ね……でも……私は……私には……」


「……確かに、俺は幸福だ。いや、運が良かっただけなのかもしれない。……でも、俺には絶望の中で、俺を心配し、探してくれる奴はいなかった。ただの一人も」


「…………?」


 お、そろそろ来るな。


 立ち上がり、前から来るあいつを見る。


「だけど、この三〇〇年お前のことを諦めず、生きてることを信じていた奴がいる。……たった一人の妹なんだろ。しっかり向き合えよ、姉ちゃん」


 怒ってるのか、急いてる気持ちを抑えてるのか、大股でずんずんと近付いてくるシュユ。


「セ、ツ、ナァ……!」


 その顔は、まさに悪鬼というか修羅を思わせる風貌だった。

「パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く