パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第9話 コンビネーション

 リエンの身に付けているホープジュエリーは、ネクロマンサーが身に付けるとアンデッドとの繋がりを強くする装備。


 でもそれとは別に、もう一つ効果がある。前まではリエンの実力が追いついてなかったけど……今は《縁下》で強化されてるから、その効果を十二分に発揮している。


 ホープジュエリーに使われている、ソロモンの涙と呼ばれる宝石は、数百万年の年月を経て凝縮された魔力の塊……魔石だ。


 しかもだだの魔石じゃない。高純度の魔力から更に不純物を取り除き、超高圧で作られた、星の奇跡とまで謳われる魔石。その中に秘められている力は膨大で、解放すれば並のネクロマンサーだと魂諸共消滅してしまう。


 でも、リエンの才能と《縁下》による強化で、完璧に使いこなしている。


 今のリエンにとっては、召喚している三五〇体のアンデッドは、息をするより簡単に、正確に操作することが出来ることでしょうね。


「さあ、あの勘違いメンヘラ女とそのおもちゃを殲滅するのです」


 くいっ。指を僅かに動かす。それだけで、全てのアンデッド達は命を与えられたかのように一斉に動き出した。


「……その程度でいい気にならないことね。そのくらい、私にも出来るんだから……!」


 苛立ちを滲ませたセツナ。だけど、その苛立ちが命取りよ!


 アンデッドに紛れるように移動し、近くの傀儡を纏めて燃やし尽くす。


「そんな……何故……何故私の攻撃が当たらないの……!?」


 ふふふ、もっと苛立ってるみたいね。


 苛立てば苛立つほど、ほんのわずかだけど傀儡の操作に支障が出る。そこら辺の奴なら、その程度ではなんの支障にもならないでしょうね。


 でも、この私の眼の前には、そんな小さな苛立ちでさえ致命傷になる。僅かな隙、僅かなミスでさえ見逃さない。


 加速する思考と、《鑑定眼》による動体視力。更にリエンの完璧な援護のおかげで、かすり傷一つ負わず傀儡を倒していく。


 それに焦るセツナが、また操作ミスを連発し、リエンのアンデッドがそれを蹂躙する。


 いえ、これはもう蹂躙ではなく……殺戮ね。


「……はぁ……こんなことで苛立つなんて、私もまだまだね……んっ!」


 セツナの指が激しく動く。その動きに合わせるように、傀儡の体が更に大きくなり、背中に刺が生えて凶暴さを増した。


「もう、さっきみたいには行かないわよ」


 どうやらそのようね……さっきまでと違って、動きに一切の無駄がない……。


 傀儡同士の連携で、攻撃に移れず防戦一方になる。《鑑定眼》と加速する思考のおかげでなんとか防ぎきれてるけど、攻撃の量が尋常じゃないわ……!


「レアナちゃん、援護は私に任せて、あいつをサクッとやっちゃって下さい!」


「そんな簡単に言わないでよ!? これ、結構きついわよ!」


 クロの《悲憤慷慨の契り》でパワーアップしてる上に、五体の傀儡が完璧なチームワークで攻撃してくる……! 捌ききれてるだけでも褒めて欲しいわよ……!


 ああもう! めんどくさい!


「リエン、あれ・・よ!」


「えっ!? でもあれは、一度やって失敗しましたよ!?」


「それでも、今やるしかないでしょ!」


 本当なら、時空間魔法の《世界時計ワールドクロック》に頼りたい。でもあれを使うと、リエンの魔力が底を尽きてしまう。


 私にしか使えない方法だけど、それと同じ効果のある技を、前に考えていた。


 パワーもスピードも互角。そんな奴らがこんなにいて、それを倒すにはあれしかないわ!


「っ……分かりました、行きますよ!」


 リエンが指を動かし、アンデッドマジシャンの一体が私に向けて腕を伸ばす。


「《クイック》!」


 単に、素早さを強化するバフ魔法。それが私に付与されたことにより──私以外の世界が、極限にまで遅くなった。


世界時計ワールドクロック》は世界を遅くし、自分の速さは変わらない魔法だ。


 でもこの方法は、思考、動体視力、反射、肉体反応。その全てを一・五倍に引き上げる。


《クイック》と私の素の身体能力を掛け合わせる。そうすることで、《世界時計ワールドクロック》の効果と同じ効果を得られる。


 脳がぎゅーーっと締め付けられるような感覚。でも……耐えられる……!


「《千里眼》!」


 更に《鑑定眼》の力の一つである《千里眼》を発動。半径二〇〇メートルの範囲内にいる全ての傀儡の位置を把握する。


《縁下》の効果が三倍の時は使いこなせなかったこのコンビネーション。四倍になった今なら……行ける!


「すうぅぅーーーー……んっ……!」


 息を止める。
 思考をフルに回転させる。
 全意識を傀儡に集中させる。
 レーヴァテインから吹き荒れる蒼炎を操り、圧縮し、超高熱の炎をレーヴァテインに纏わせる。
 地面を踏み締め、レーヴァテインを握り……翔る!


「宝舞神楽・蒼炎剣──死道」


 超高熱に圧縮した炎は、蒼炎から白炎へと変わり──触れた傀儡を、蒸発させる。


 また蒸発。蒸発……。


 蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発蒸発。


 私の通る道が、死の道に成る。


 時間にして十秒。一〇〇体近くの傀儡を蒸発させていく。と……。


 ズキィッ──!


「痛ッ……!」


 あ、頭が割れそう……!


「れ、レアナちゃん!」


 リエンが《クイック》を解いたのか、世界のスピードが元に戻る。


 くっ、全身の痛みと頭痛で、体が動かない……!?


「へぇ……凄い技ね。でも、もう動くことも出来ないみたい」


 セツナの指が動いたのが目の端に見えた。このままじゃ、傀儡に捕まっちゃう……!


 くっ……動け、動け、動け……!


「エタちゃん!」


 リエンの声が聞こえると、いつの間にかリエンの側に瞬間移動していた。助かった……今のは危なかったわ……。


「ありがとう、リエン」


「いえ。今治しますね」


 アンデッドマジシャンの一人が私に治癒魔法を掛ける。幾分か痛みは引いたけど、それでも精神的な疲労感は拭えない。


「スキルで強化した肉体を、更に《クイック》の魔法で強化する……面白い発想だけれど、まだお嬢さんのレベルじゃ扱いきれなかったみたいね」


 っ……セツナ……!


妖精の羽フェアリーウィング》で飛翔し、私達の上に滞空するセツナ。


「さぁ……クロ様のために、お前の眼を差し出しなさい」

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