パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第6話 狂気

 時空の穴に入る。と……うわっ、ここの空気、何だか粘り気があるみたいで気持ち悪い。質量を持った空気がねっとりと体に纏わり付く感じだ。


「ここが、奴らのアジト……湿気というか汚い感じというか……なんだかゴ○ブリになった気分ね」


「や、やめて下さいレアナちゃん! 私、ごごごごゴキ大っっっ嫌いなんですから……!」


 ……何だかんだ余裕そうですね、チミ達。


 ギガントデーモンの手の中のように、辺りは闇で包まれてるが、光源がないのに俺達の姿はよく見える。戦いづらさはなさそうだが、平衡感覚や方向感覚は狂わされそうだな……。


「みんな、注意して進むぞ。シュユの気配はあっちだ」


 これはもう、感覚を頼りに進むしかない。気を抜くとはぐれかねないな。


 アンサラーを抜き、一歩ずつ、足元の感覚を確かめながら進む。レアナとリエンの気配も、俺の後ろをしっかりと付いてきている。


 闇の中を進み、進み……。


「……っ……ふぅ……」


 ……どれだけ歩いたのか、分からない。シュユの気配は近づいてるのは分かるが、距離感覚と時間感覚も狂わされてるみたいで、集中力が切れそうだ。


「ジオウ、何だか変よ……」


「ええ。嫌な感じが、します……」


「ああ……」


 このジワジワと疲労する感覚というか、蝕まれる・・・・感覚、どこかで……。


 ダメだ、思考がボヤける……。


 …………。


『お兄ちゃん、精神魔法、ですっ』


 ────っ!


「リエン、防御魔法!」


「はい!」


 一瞬でアンデッドマジシャンを十体召喚し、周囲に魔法阻害の防御魔法を展開。一体一体の力が重なり合い、通常の十倍の強度の結界が張られた。


 その結界の効果のお陰か、精神的なダルさみたいなものがなくなった。どうやら、完璧に防げてるみたいだ。


「はぁっ、はぁっ……た、助かった、クゥ」


『えっへん、です』


 そうか、これはセツナの精神魔法……この空間の異質さを利用し、俺らの誰にも気付かれないように、ジワジワと精神を蝕んでいたのか……。


 だが、リエンのアンデッドマジシャンのおかげで、今はもう何も感じない。最初から対策しておくべきだった、抜かった……!


「レアナ、リエン。大丈夫か?」


「何とかね……逆にスッキリした気分よ」


「むぅ……この私が魔法の発動に気付かないなんて……! 悔しいです……!」


 ほっ……良かった、大丈夫そうだ。


「……っ。不味いです、二人共! セツナの魔法が私の魔法を侵食しています……!」


 マジか……! アンデッドマジシャン十体の結界だぞっ!?


「急ぐぞ、走れ!」


空中歩法エア・ウォーク》!


 初速から全力で駆け出す。レアナとリエンも、そのスピードに難なく付いてきた。これにも付いてくるって、この二人どれだけパワーアップしてるんだ……。


「あと十秒でぶつかるぞ! 戦闘準備!」


「ええ! 行くわよ、レーヴァテイン!」


 レアナがレーヴァテインを抜くと、闇も照らす蒼炎が、まるで意志を持ってるかのように蠢く。


「エタちゃん、セラちゃん!」


 エタは猛毒竜ヒドラの大剣を、セラが金属で作られた弓矢を構え、更にアンデッドマジシャンが俺達の前に壁となる。


「五、四、三、二、一!」










「御機嫌よう、ジオウ君」


 ゾワッ──。


 突然背後に現れたセツナ。それと同時に、俺の首に回される細く、しなやかな腕。


 全く、見えなかった。──でも。


「っ!?」


 レアナとエタ、セラがそれに反応し、セツナと俺を引き離した。


「邪魔しないでちょうだい」


「お生憎様。いきなり大将を取れると思わないことね」


「ジオウさんに近付きたいのであれば、まずは私達がお相手しましょう」


 ……流石、頼りになるな。


「レアナ、リエン。そっちは任せたぞ」


 さて、俺は……。


 背後のセツナは二人に任せ、前を見る。


「へェ……あのセツナさんの動きについて行くとハ、あなたのお仲間は凄いですネェ、ジオウさん」


 相変わらずの薄ら笑いのクロ。その背後には、巨大な氷の中に氷漬けにされているシュユ。《縁下》の繋がりは切れてないから、生きてることは間違いなさそうだ。


 そして、クロの隣にいるやつ……。


「レイガ……」


「つぶっ……! こ……! ゴロ、ずっ……! じ、お……殺……!」


 白目を剥き、口から泡を巻き散らせながら俺に対して呪詛を口にする。顔色は信じられないくらい青白く、最早生きてるのか死んでるのか見分けがつかない。


「レイガさん、どうどウ。もう少しお待ちくださイ。あともう少しデ、あなたの手で殺させてあげますかラ。……さて、ジオウさン、少しお話をしましょうカ」


「話だと?」


「何故、エンパイオさんが王国を裏切ったのか。何故、セツナさんが私の元にいるのか……気になりませんカ?」


 …………。


 確かにエンパイオは言っていた。自分は王国への復讐を誓った身だと。それがどうして、こいつの所に来ることになったのか……気にならないと言えば、嘘になる。


 セツナに関してもそうだ。傀儡師パペット・マスターの異名を持つあいつが、こんな奴の手下になるなんて考えづらい。


 だが。


「悪いが、この話はシュユを助けてから強制的に吐かせる!」


 アンサラーを抜き、クロへ向かって駆ける。


「やれやレ。──レイガさン、やってしまいなさイ」


「ごおおおおおおおるぅおおおおおおおおずううううううううう!!!!!」


 レイガが剣を抜き、狂気に満ちた怒声を上げて迫って来た……!

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