パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第5話 突入

 クゥを囲んでいる二人を落ち着かせると、執務室の端に寄せていたソファーに座る。


 俺の前にレアナ。その左隣にリエン。で、俺の上にクゥ。


 ……いや何で?


「クゥさんや。俺の右側に座りなさい」


「クゥ、気にしない、です」


「気にする気にしないの問題じゃないの。前を見ろ」


「前、です?」


 そう、前。


 何でか知らんけど、レアナとリエンからゴミを見るような目で見られてるんだよ。俺の精神衛生上、早くどいてほしい。


「ジオウ、鼻の下伸びてるわよ」


「私ジオウさんと十年来の友人ですが、今日ロリコンだという新事実を知りました」


「鼻の下伸びてないしロリコンでもねぇ!」


 俺の尊厳がゴリゴリ削られてるんだけど⁉︎


「お兄ちゃん、ロリコン違う、です」


「クゥ……!」


 何故か知らんけどクゥがフォローしてくれた。そうだ、俺はロリコンじゃない!


「お兄ちゃんの好みは身長150センチ以上160センチ以下。胸は大きめ。普段は強くてカッコイイけど時折見せる儚さと家庭的な面があるギャップのある女性が好み、です」


「クゥさん何で俺の好みのタイプ大暴露してるの!?」


 てか何で知って……あれか!? 俺をしゃぶった時の《解析》でそう言うのも全部筒抜けか!? 俺のプライバシーはどこへ!?


「胸……」


 レアナ、自分の胸をぺたぺた触っても育たないぞ。


「レアナちゃん、ドンマイ」


「ちちちちっがうわよ! そう言えば私の胸育ってないなーって思っただけだから!」


 うん、びっくりするくらい真っ平らだもんな、お前……ちょっと同情すら覚える。


「そ、れ、よ、り! ジオウが思いの外早く起きたから、今日も含めて後三日の猶予があるわ。この後どうする? 私達の方は準備万端よ」


  三日……と言うことは、俺がギガントデーモンの右腕に入ってから、まだ一日しか経ってないのか。これは嬉しい誤算だ。


「勿論、今から乗り込む。セツナの奴は五日後なんて言っていたが、もしかしたら五日後までに全てが終わってるかもしれない。早めに乗り込んでおいた方がいいだろう」


「あら? エンパイオの時は待ってませんでした?」


「奴とは少ししか話してないが、奴は誇り高い騎士だった。そんな誇り高い騎士が、約束を違えるとは考えづらかったからな」


 だが、セツナの行動は読めない。セツナはクロに心頭し切っている。五日後、と言うのもクロのつかせた嘘かもしれない。


「……それは、今考えても仕方のないことだ。俺達は今やるべきことは、シュユの救出。そしてクロの悪事を食い止める。いいな?」


「了解よ」


「分かりました」


「シュユ、お兄ちゃんの仲間、です。なら、クゥの仲間、です。やるでーす」


 よし。待ってろよシュユ。絶対助けてやるからな……。


「ところで、場所ってどこなんですか? エタちゃんの時空間魔法でも行ける場所ですかね?」


「ああ、問題ない。むしろリエンには庭みたいな所だ」


「私にとって?」


 ああ、リエンの古巣……。


「霊峰クロノスだ」


    ◆◆◆


 エタの時空間魔法により、俺達はリエンが昔住んでいた、霊峰クロノスの頂上に移動した。


 久しぶりに来たが……特に代わり映えのない、岩だらけの世界だ。


「ここが霊峰クロノス……頂上なんて、初めて来たわ」


「まあここに用事がある奴なんて、人の目から隠れたいような奴だけだからな」


「あれ? 今の私に対して言ってます?」


「気のせい気のせい」


 リエンがブーブー抗議してるのをスルーして、シュユの気配を辿っていく。気配からすると、この辺のはずなんだが……。


『お兄ちゃん。ここに時空の歪みある、です』


「時空の歪み?」


 俺の右腕に引っ込んだクゥからアドバイスをもらったが……時空の歪みってどういうことだ?


「ジオウ、どうしたの?」


「ああ。クゥのやつが、ここに時空の歪みがあるとか……」


「時空の歪み?」


《鑑定眼》を発動させたのか、レアナの瞳が金色に光る。


「……歪み、かどうか分からないけど、この辺の空間が少しぼやけてるようには見えるわ。強化された私の眼でも、薄らしか分からないくらいに……」


 レアナの眼でも鑑定し切れないのか……間違いなくここに何かあるな。


 レアナの指さす位置を触れようとするが、やっぱり何もない。エルフの《神隠し》で消えてる感じではなさそうだし……。


「ジオウさん。もしかしたらですけど、時空間魔法じゃないですか?」


「……時空間魔法?」


 リエンが操作したエタが、空間に触れるように手を挙げる。


「レアナちゃんも見たかもしれませんが、奴はエタちゃんと同じ転移の時空間魔法を使いました。そして恐らくこれは、時空を歪めて別の時空を作り出す最上級魔法、《異界創世ルーム・クリエイト》だと思います」


 なるほど……確かに最初にあいつにあった時、エタと同じ時空間魔法で姿を消していた。もしあいつの時空間魔法の力がエタと同じかそれ以上なら、別の空間を作り出すことも出来るだろう。


 レアナも思い当たることがあったのか、腕を組んで頷いていた。


「なら、エタの魔法でその別空間に入ることは出来るの? ほら、同じ時空間魔法じゃない」


「ジオウさんのスキルレベルが上がったことで、エタちゃんの力も上がっています。やったことはありませんが、試してみる価値はあるでしょう」


 リエンが指先の思念糸に集中すると、エタの魔力が右手に集まる。《世界時計ワールドクロック》の時と同じように膨大な魔力が練られ、空間が目に見えて歪む。


 高密度の魔力を纏った右手が、レアナが指し示した空間に触れ……吸い込まれるように、空間に突き刺していく。


「行きますよ……んっ!」


 気合と共に右手を振り下ろす。瞬間、空間が切り裂かれ、人一人が通れるほどの穴が空いた。


 直後、ねっとりとした質量をもった空気が漏れ出し、俺達の肌を撫でる。


 何だ、この嫌な魔力は……ギガントデーモンの手を最初に見た時と同じか、それ以上の禍々しい魔力だ……!


「これは……《鑑定眼》を使わなくても分かるわ。絶対に、やばい」


「私、こんなものが隠されてる場所で生活してたんですね……最初から知ってたら、こんな場所に住んでなんていませんでしたよ」


 分かる。俺もこれを知ってたら、リスクを負ってまでリエンを仲間に引き入れようなんて考えなかった。それ程までに、ここから漏れ出る魔力は常軌を逸している。


 ……もしかしたら、霊峰クロノスにアンデッドが多いのは、この魔力が少しずつ漏れ出ていたのが原因だったのかもな……。


『? お兄ちゃん、大丈夫、です?』


「あ、ああ。なんとかな……クゥは平気なのか?」


『……懐かしい感じ、です』


 懐かしい感じ? クゥが懐かしい感じっていうことは……何だかやばい予感しかしないんだが……。


「……三人共、覚悟決めろよ」


「うん」


「はい」


『がってん、です』


 深呼吸を一回、二回。


「よし……GO!」

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