パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第1話 右腕

 翌日。俺、レアナ、リエンは、揃ってアデシャ族長の家の客室にいた。


 アデシャ族長とエスタル族長は現在生死の境をさ迷っている。それに、レグド族とテサーニャ族の族長も、昏睡状態らしい。


 神樹デルタの実はセツナに奪われた。エルフ族は無駄な争いはしないのか、戦争は直ちに終結。一日も経たないうちに、レグド族とテサーニャ族は撤退していった。


 今サシェス族とリスマン族は、復興に向けて力を入れている。


 問題は、俺達だ。


「ジオウ。どうする?」


「無論、助ける」


 レアナの問いに間髪入れず答えた。


 シュユ救出の猶予まであと四日。シュユはまだ生きているのは、《縁下》のお陰で分かる。どこにいるのかも、把握出来ている。


 だが、問題は俺達とあいつらの戦力差だ。


 レアナとリエンのステータスは四倍になっている。だが、二人がかりでもセツナに苦戦するだろう。


 セツナの戦闘センスに加え、数百年に及ぶ努力。それにクロのスキル、《悲憤慷慨の契り》によるステータス上昇。何もかもセツナに劣っている。


 それに俺は右腕を無くした。戦力としては数えられない。


 どうしたもんか……。


「ジオウさん。私のアンデッド軍は、今や四〇〇体に増えました。力も上がっています。物量で押し潰すのはどうでしょう?」


「それは考えた。だがセツナも光魔法を使う。浄化の魔法を使われたら、大量のアンデッド軍も使い物にならなくなっちまう。やるなら、量より質だ」


 とは言っても、レアナとリエンと同レベル以上の奴なんて宛はない。俺と仮契約を結んだとしても、俺の力を無闇に外部に漏らすだけだ。


 どうする……どうするっ。


「ねぇ、ジオウ。聞いていいかしら?」


「え? あ、ああ。何だ?」


 レアナの問いかけに、思考を中断する。


「セツナが、《夢現》って言ってたでしょ? あの力って、私の眼でも鑑定しきれなかったわ。何なの、あれって?」


 ああ、そのことか。


「《夢現》は、魔法とはちょっと違う力なんだ。簡単に噛み砕いて言えば、今現実に起こってることを《現》とし、俺の考える理想の結果を《夢》とする。そして、《現》と《夢》を入れ替えることで、現実を書き換えることが出来るんだ」


「そ、そんな凄い力なら、この状況も……!」


「レアナちゃん、落ち着いて。そんなに凄い力なら、デメリットの一つや二つあるはずですよ」


 流石リエン。冷静だな。


 お茶を一啜りし、唇を濡らす。


「……リエンの言う通り、この力にはデメリットが三つある」


 人差し指を立てる。


「一つ目。この力を発動する条件。それは、俺の命が危険に晒された場合。相手の攻撃を避けきれず、残り数秒の命って時に、この力を使うことが出来る。端的に言えば、延命魔法と言ってもいい」


 中指を立てる。


「二つ目。改ざん出来る結果が、俺の力で成し遂げられることに限定される」


「……どういうこと?」


 まあ、これだけじゃ分かりずらいか。


「例えばエンパイオ戦の時、俺は奴の連撃で死にかけた。そこで改ざん出来る結果として、その連撃を避けきり、奴の背後に回り込むこと。結果は見事改ざんされ、俺はエンパイオを仕留めることが出来た。まあ、その後の自爆攻撃で見事に死にかけたわけだが……」


 その時に分かったのは、実際に俺が死にかけてる時は《夢現》を使うことが出来ないってことだ。使うことが出来る時は、死にかける事象の一歩手前まで。なんともシビアな力だが……。


「なるほど……だからセツナに首を絞められた時は、ジオウの力で実現出来る結果……つまり、バックステップで距離を取るという結果として、現実が改ざんしたのね」


「その通りだ」


 そして最後。薬指を立てる。


「三つ目。ある意味これが一番のデメリットだ。……一回の使用につき、寿命が五年減る」


「「っ!?」」


 レアナとリエンが唖然とする。


 当然だ。能力発動で有名なデメリットと言えば、スピード鈍化、連発不可など、一時的なものに過ぎない。寿命が減るなんて恒久的なデメリットがあるなんて、初めて知った。


「エンパイオで一回。セツナで一回。合計二回使ったから、俺の寿命は十年分減っている状態だ。残りの寿命が十年後なのか、二〇年後なのか……もしかしたら、今回のセツナやクロとの戦いで死ぬかもしれないな」


「死なせないわ、絶対」


 ……レアナ?


 二人の方を向くと、いつになく真剣な顔で俺を見ていた。いや、睨み付けていると言ってもいい。


「あんたが何でその力を得たのかは分からない。でもその力は、あんたが今ここで死ぬべきじゃないと言ってるように感じる。私の魔眼でも鑑定しきれない超常の力を使ってでも、あんたはここで死ぬべきじゃない」


「レアナちゃんの言う通りです。あなたは私達【虚ろう者】の核で、心臓なんです。あなたを失えば、私達は弱体化し、シュユちゃんを助けることも出来なくなります。ここは私達に任せて、ここで療養していてください」


 ……そうだよな……ステータスが軒並み四倍に上がった二人に比べれば、俺は利き腕を失って寧ろ弱体化ししてる。一緒に行ったとしても、足でまといになるのが関の山だ。


 だけどな。


「レアナ、リエン。お前達は俺の立場の時、今の言葉を聞いてどう思う?」


「そ、それは……」


「……何が、言いたいんですか……」


 苦虫を噛み潰したような顔をする二人。


 そうだ、その感情で間違ってない。


「答えはクソ喰らえだ。俺も行くぞ」


「っ! あんたって奴は……!」


 レアナが激昂する前に止め、左手で右肩を握り締める。


 すると。


「話は聞かせてもらったーーーー!!!!」


 どっかーーーーーん!


 扉が爆破されたんじゃないかってくらいの勢いで開かれた。


 そこにいたのは……。


「と、トルエ?」


「はーいどーもどーも。リスマン族次期族長候補(仮)のトルエちゃんだよー。みんな、お久ー」


 いや(仮)かい。てか軽いな。


 レアナが呆れたようにため息をつくと、席に座るトルエに話しかけた。


「そう言えば、戦争中あんたどこにもいなかったわね。どこに行ってたの?」


「いやー、ボクって見ての通りちゃらんぽらんでしょ? あんな戦争に巻き込まれたら間違いなく死んじゃうからね。ちょっとサボ……隠れてたんだよ」


 おい、こいつ今サボってたって言ったか? 言ったよな?


 三人の白い目を向けられながらも、トルエは何食わぬ顔でテーブルの上のチョコレットを口に運んだ。


「んーっ、うまー」


「……トルエ。話は聞かせてもらったとか言ってたが、何かいい案とかないか? 何でもいい」


「ん? ないよ? 聞いてただけ」


 こいつ……。


「まあまあ、そんなに怖い顔しないで。そうだなぁ……いっその事、移植しちゃえば? リエンちゃんのアンデッドの腕とか使ってさ」


「それは考えましたが、移植したとしても満足に動かすには相当の時間が掛かります。ましてや、猶予はあと四日。とても間に合いません……」


 トルエの案に、リエンが項垂れる。


 だが……移植……移植か……。


「……そうか……そうか、移植だ!」


 多分、俺の考えが上手く行けば、直ぐにでも前線に立てる。いや、もしかしたら今まで以上の力を手に入れることもでにる……!


 それが吉と出るか凶と出るかは賭けだが……今はやれることをやるしかない。


「リエン、無理を承知で頼みがある」


「……はぁ。あなたの頑固っぷりは、昔からですもんね……。分かりました、私に出来ることがあれば、何なりと」


 ……すまないな、いつもわがままを聞いてくれて。


「トルエ。お前のおかげでいい案が思いついた。ありがとう」


「どいたまー」


 はは、相変わらず軽いな、こいつは。


 席を立とうとすると、トルエが俺のローブの裾を引っ張った。


「……シュユちゃんを、よろしくね」


「……ああ、任せろ」


 俺はレアナとリエンに向き直り、口を開く。


「これから大洋館へ戻る。残り四日……いや、三日で腕を生やす」

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