パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第40話 喪失

「……か、ふ……!」


 ……どこだ、ここ……。


 ……体、動かない……いや、感覚すらない……。


 あぁ、思考がぼやける。何があったんだっけ……。


 アデシャと酒を……いや、違う。瞑想をして……違う、そうじゃない……。


 ……あぁ、そうだ……エンパイオと戦って、シュユと契約して……奴に自爆されたんだ……段々と思考が戻ってきたな。周りは見えないけど……。


「……ぁ……ぅ……」


「き、気付いたかっ、ジオウ殿!」


 この、声……シュユか……? っ……左耳だけ、聞こえない……それに聞こえたとしても、酷く遠くに聞こえる……。


「ぅ……」


「ま、待っていろっ。今すぐリエン殿の元に連れていくからな!」


 何をそんなに急いでるんだ……? 俺、そんなに重症なのか……?


 分からない……なんだこれ……暗い……怖い……。


 どうなってるんだ、俺の体は……。


 っ……右腕が、寒い……凍えたように寒い……。


「しゅ……ゆ……さむい……右、が……」


「っ……待っていろ。リエン殿なら……リエン殿なら、何とかしてくれるはずだ……!」


 どういう、事だ……? リエンなら、て……。


 俺は一体、どうしちまったんだ……?


「……っ! いた!レアナ殿、リエン殿ぉ!」


「え? ……ぺ、ペルが空飛んでる!?」


「空飛ぶ鹿……個体として進化したのでしょうか?」


「そんなことはどうでもいいのだ!」


「っ!?」


 ……見えないけど、ペルが「そんなこと!?」って顔をしてる気がする……。


「リエン殿っ、ジオウ殿を助けてくれ! このままだと……!」


「え? ……っ!? こ、これは……!」


「……そ、んな……ジオウ……?」


 何だよ……何をそんなに慌ててるんだ……。


「ぁ……ぁ……」


 あぁ……ダメだ……口が回らない。それに、意識も……。


「っ! 二人とも呼びかけろ! ジオウ殿の生気が希薄になっている!」


「じ、ジオウ! あんた、こんな所で死ぬんじゃないわよ! 気をしっかり持ちなさい!」


「死なせません、絶対に! ジオウさんの死体が欲しいとかもう言いませんから! だから死なないで!」


 …………。


「ジ……ど……! ……殿……!」


「ジ……ウ……! ねぇ……オウ……!」


「目を……て……! ウさ……!」


 …………。


 ……………………。


 ……ぁ……ん……。


「……っ……ぁ……」


 ……痛み……引いてきた、な……。


 ゆっくり目を開く……あぁ。みんな、そこにいるんだ……。


 美女三人に泣かれるなんて、男冥利に尽きるなぁ……。


 ……よく見ると、アンデッドマジシャンが総出で俺の治癒をしてくれてる。通りで、メキメキと活力が湧いてくるわけだ。


「……リエン。もう大丈夫だ。流石だな」


 思考もクリア。魔力も、体力も、痛みもない。ほぼ万全の状態だ。俺のスキルレベルが上がったことで、アンデッドマジシャンの治癒魔法の力も上がったのかもな。


「じ、ジオウ……! よかった……ホントに……よかったよぉ……!」


「うわっ!」


 れ、レアナっ、くっ付くな! 普通に恥ずかしいし、あと涙と鼻水汚ぇ!


「……よ、かったです……助けられました……」


「リエン殿。お疲れであった……」


 腰が抜けたのか、全身から力が抜けているリエンをシュユが労う。


 ……本当に、心配かけたみたいだな……。俺も今回は、流石にヤバかった……。


 ……あっ。


「そうだっ、クロは……クロの手勢はどうなった……!」


 聞くと、リエンが答えた


「クロは私達が撃退し、逃げました。それに……今回、【白虎】がクロの手下に加わっていたのです。メンバーはレイガ、リリ、ガレオン、アリナだけでしたが……」


 っ……!? ……あいつら、生きてたのか……。


「……それで、どうなった?」


「……ガレオン、アリナは私が。レイガ、リリはレアナちゃんが相手をしました。ガレオン、アリナ、リリは死亡を確認。レイガだけ、腕を負傷した状態でクロが連れ帰ってしまいました」


 ……そう、か……。


 …………。


「……よくやった、二人共。エンパイオの口振りから、奴らも相当強くなってたみたいだが……無事勝ててよかった……」


 ほっと息を吐く。……あれ。何か忘れてるうな……?


 …………。


 ……そ、そうだっ。アデシャ族長の所に行かねーと……!


「三人共、まだ動けるな? 今からアデシャ族長の所に向かう。セツナと交戦中らしいが、押されているらしい。行くぞ」


「い、行くって……その状態で!?」


 ……何をそんなに驚いてるんだ? その状態って……俺はもうピンピンしてるぞ。


「じ、ジオウ殿。ここは我らが行く。ジオウ殿はもう休んでいてくれ」


「そうです。今のあなたの体で、戦場に向かわせる訳には……!」


 ……おかしな奴らだな。今は休んでる暇はないんだぞ。


「リエン。アデシャ族長の所に時空を繋いでくれ。急ぐぞ」


「だ、だからジオウさん……」


「急ぐぞって言ってるんだ。下手するとアデシャ族長も死んで、実も奪われるぞ。そうなったらクロの思うつぼだ! とにかく急いで加勢に……!」


「ジオウさん!!!!」


 っ! ……何だよ、一体……。


「……現実を受け止めたくない気持ちは分かります。でも……でも、こればかりは私でも治せなかったんです……!」


 ……治せなかった……? 何が……?


 見ろ。こうして五体満足で……五体……ぇ……?


「…………右、腕……が……?」


 右腕が……ない……!?


 ローブにはダメージはないように見える。けど……上から触っても、ない。右腕が……肩からなくなってやがる……。


 エンパイオの最後の悪足掻き……俺の腕を持っていきやがったのか……!


「……クソが……!」


 無意識に、肩から先を動かそうとする。だけど、さっきまであった俺の右腕は……もう、ない。


 ……落ち着け……落ち着け、俺。深呼吸だ。よく考えてみろ。あの爆発魔法から無事生還出来たんだ。右腕が犠牲になったけど、それでも俺は生きている。俺が生きてる限り、《縁下》の効果は切れない。何も問題はない。


「……すまなかった。もう大丈夫だ」


 ほっとする三人を後目に起き上がる。っと……異様に右側が軽いな。腕がなくなった影響か。


「リエン、頼むから繋げてくれ。今の俺は戦力にならなくても、俺達四人ならアデシャ族長を助けられる。頼む」


「……はぁ。分かりましたよ。でも、前衛は私達。後衛はジオウさん。これは譲れません」


「……分かった」


 よし……行くぞ。

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