パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第39話 悪足掻き

 ──ジオウside──


「拘束系の魔法か……小癪!」


 っ! 《光縄・呪縛カース・バインド》が一瞬で千切られた……! これ、俺の知る限りパワーで千切れるもんじゃないんだけどな……!


「ジオウ殿、どうする?」


「俺が前。シュユが後ろだ。ステータスが全体的に四倍になってるとは言え、現状のレベルじゃまだあいつには敵わない。避けつつ、得意の魔法で撹乱を頼む」


「分かった!」


 ペルに乗ったシュユが、目にも留まらぬ速さで俺から離れる。ペルはシュユの眷属みたいなものだから、ペルにも《縁下》の力が働いてるんだな。スピードだけなら、俺といい勝負出来そうだ。


「《アースクエイク》」


 っ、地割れの魔法か……!


 地平線まで広がる荒野。それを二分するかのように、超巨大な地割れが出現した。


 エンパイオと《ヒヒイロカネ・八岐大蛇ヤマタノオロチ》がいる一箇所を除いて、底が見えない……こんな巨大な地割れを一瞬で引き起こすなんて……つくづくバケモノめ。


 《空中歩法エア・ウォーク》で宙に足場を作る。ここからも空中戦がメインになるが、シュユの奴大丈夫か……?


「ペル、行けるな?」


「────!」


「よし……《巨大化》!」


 きょだ……え?


 ペルの体が淡く光る。それが徐々に大きく、大きく、まだまだ大きくなり……光が弾けて、そこには《ヒヒイロカネ・八岐大蛇ヤマタノオロチ》と同等のデカさのペルが現れ……って、え?


「……デカすぎんだろ……」


 巨大な牝鹿に、巨大な蛇……大怪獣戦争劇を見てるみたいだな……。


 巨大化したペルの頭の上にちょこんと乗るシュユ。……なんだ、このシュールな絵面。


「ペル、行くぞ! 《自然砲・連弾》!」


「《ロック・ガトリング》」


 ペルの口から放たれる光弾と、《ヒヒイロカネ・八岐大蛇ヤマタノオロチ》から放たれる《ロック・ガトリング》が互いに打ち消している。


 あの《ロック・ガトリング》を打ち消すって、なんつー威力の光弾だ……。


「《アースクエイク》」


 ペルの足元が割れて……!?


「シュユ! ペル!」


「案ずるな、ジオウ殿。私とペルに、最早不可能は無い! 《妖精の羽フェアリーウィング》!」


 エルフ族固有の風魔法、《妖精の羽フェアリーウィング》。それがシュユではなく、ペルの背中から現れた。


 空飛ぶ巨大牝鹿……。


「何でもありか!?」


 いやまあ、《縁下このスキル》はまだ謎が多い所はあるけど、可能性の塊過ぎじゃね!?


 ペルの変化に唖然としていると、エンパイオの肩がわなわなと震えてるのが見えた。え、なに怒ってる?


「……ふはっ、ふはははは! 俺とジオウの邪魔をした雌エルフかと侮ったが、流石ジオウの仲間だな! 面白い奴ではないか! ふはははは!」


 あ、違う。気に入ったみたいだ。


 《妖精の羽フェアリーウィング》で旋回しながら、エンパイオに光弾を撃ち込む。その全てが撃ち落とされてるが、こっちに《ロック・ガトリング》は飛んで来ない。


 ペル一匹であの数を対応してくれてるのか……気合い入ってんな!


 ペルの気合いに答えるためにも、仕掛けるなら今……!


 加速!


 アンサラーを構え、高速で跳躍。


 加速を、全てアンサラーに乗せる──!


「ジオウ。貴様を忘れてなどいないぞ」


 っ!? エンパイオの乗ってる頭だけこっち向いて……!


 ダメだっ、この加速で方向転換は無理……!


「《光縄・呪縛カース・バインド》!」


 シュユの拘束魔法が蛇の口を塞いで……!


「むっ!?」


「行けっ、ジオウ殿!」


「ああ! 最高だぜ、シュユ!」


 加速を乗せて、乗せて、乗せて……!


「貴様ら。俺が《ロック・ガトリング》しかない能無しだと思ってないか?」


 ……ぇ……?


「《岩縄・呪縛ロック・バインド》」


 い、岩の拘束魔法……!? 加速を止められた……!


「《多重アース・スピア》《多重アース・ニードル》《多重アース・アロー》」


 こ、これっ……この数っ、全部ヒヒイロカネの……避けきれない……!?


「ジオウ殿!?」


 やばい……やばいやばいやばいっ。死ぬっ、これ死ぬっ! 死、ぬ……!?


 ──走馬灯か。それとも死を悟って脳がフル回転してるのか……世界が、やけに遅く感じる。


 防ぐ。──無理だ。
 避ける。──無理だ。
 受けきる。──無理だ。
 突っ切る。──無理だ。


 どうする?


 どうする??


 どうする???


 ──俺にこれを打開する術はあるか?


 ない。


 ──なら死を受け入れるか?


 それこそ論外だ。


 引っ張りだせ、過去を。経験を。知恵を。


 これを切り抜け、生き延びる術を。


 捻りだせ。絞りだせ。


 その先に生きる道があるなら──掻き集めろ……!














『──汝、試練を受けるか?──』














 ……ぁ……。


 …………。


「《夢現ユメウツツ》」


 頭の中に浮かんだ言葉を口ずさむ。


 ──カチッ──


 頭の中で、そんな音が響いたのを聞いた。


 その瞬間、まるで頭の中がぼやけ、心地の良い夢の中にいるような浮遊感に見舞われ──いつの間にか、エンパイオの背後を取っていた。


「…………は?」


 俺とエンパイオの目が合い、一瞬の間が出来る。理解できないだろう。うん、俺も理解が追いつかない。


「《光縄・呪縛カース・バインド》!」


 だが、シュユだけがこの状況に固まらず、エンパイオの体を拘束した。


「ジオウ殿、行けェア!」


「しまっ──!?」


「っ! お、おおおおおおおおおお!!!」


 鎧の上から、アンサラーを突き立てる。


 まるで紙のように抵抗なく鎧を貫き、そのまま心臓を貫いたのを感じる。


「…………がふっ……何、だ……今のは……」


「……教えねーよ」


「ふは……まあ、それもそうか……」


 エンパイオが力なく笑う。それに伴ってか、《ヒヒイロカネ・八岐大蛇ヤマタノオロチ》も徐々に崩れだした。


「……俺は、負けたのだな……」


「…………」


「負け、か……久しく負けていないが……やはり心地よいものではないな……」


 ……エンパイオの生気が無くなるのが分かる。心臓を貫いたんだ。もう長くはないだろう。


「……ジオウ、お前に一つ教えてやろう……」


「……何だ?」


 エンパイオが俺の肩を掴む。


「……俺達は……クロ殿の配下は、負の感情により力を増す……それは、死を前にした恐怖も同じだ」


 …………ぇ……?


「痛っ……!?」


 ち、力が徐々に強くなって!? に、逃げられな……!


「俺は、王国への復讐を誓った身。それを成し遂げられない悲しみ。怒り。貴様への憎しみ。そして死の恐怖。──貴様を道連れにするには、これは以上はない」


「待っ──」


「悪足掻き、させてもらうぞ──《終焉の爆光エンド・ボム》」


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