第37話　「「あ」」

　──リエンside──


　血を大量に流しながら、地面に倒れ伏すアリナと、三本の矢が突き刺さっても倒れないガレオン。欲を言えば二人とも倒したかったですが、贅沢は言いません。むしろ魔法の援護がなくなる分楽になったというものです。


　だけど、ガレオンと対抗するにはエタちゃんを直さないと……！


「セラちゃんっ、時間稼ぎです！」


　ただ強化した矢ではガレオンを抑えるのは難しい……なら！


　セラちゃんを操ると、弓矢を投げ捨てて手の平をガレオンに向ける。


「《永久なる氷河エターナル・アイス》！」


　全てを凍らせる氷の槍。願わくばこれで終わらせたいんですが……！


「ぶっ潰死！！！！！」


　ゴォッッッ！


　くっ！　あれを素手で砕くなんてありですか!?


「セラちゃん、連射です！」


　とにかく少しの間釘付けにさえできれば──


「炎最上級魔法、《黒炎壁ヘルファイア・ウォール》」


　……ぇ……？　こ、この魔法、まさか……！


　黒炎が二人を囲うように展開されると、《永久なる氷河エターナル・アイス》が跡形もなく蒸発した。


　その魔法の発生源は……今だに倒れている、アリナ。矢がまだ刺さってる状態で、ここまでの魔法を使うなんて……舐めてましたね……。


「痛い……痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぁぁぁあぁああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ！！！！！！」


「っ!?」


　魔力の暴走!?　今までの魔力を遥かに上回るなんて……これじゃあ、セラちゃんの魔法も……！


　噴き出した魔力により、アリナの体が浮かび上がって全身に刺さっていた矢が消し飛んだ。


　どす黒く、濃密で邪悪な魔力が可視化される。


　その魔力から感じるのは、負の感情。


　矢による痛み、怒り。それにこれは……悲しみと、後悔……？　何故このような感情を感じるの……？


「ジオウさん……どこ……謝る……謝りたい……殺す……殺したい……どこ？　……どこ？　……どこ……どこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこどこにいるのォ？」


　ゾッ──


「《六花の氷盾ダイヤモンド・ガード》！」


　直感的に氷属性最強の防御魔法を唱え、エタちゃんの時空間魔法でその場から離脱する。


　瞬間、私達がさっきまでいた場所を、純白の炎が覆い尽くした。距離にして約五十メートルは離れてるのに、なんて熱量……《六花の氷盾ダイヤモンド・ガード》も一瞬で溶かされましたか……！


　物陰に隠れ、二人の様子を伺う。まだこっちには気付いてないみたい……今のうちに考察しましょう。


　アリナの負の感情の爆発。それに伴う魔力の暴走と、明らかに精神に異常がありそうな行動、言動。あの時に心が壊れたと言う説明だけでは、納得出来ません。それに以前会った時に比べて大幅なパワーアップ……。


　……この四人が第三勢力としてここにいるとは考えづらい……敵軍の、それもクロの手下と考えるのが一番自然ですか。この四人もそうですが、シュユちゃんがセツナも強くなっていると言っていました。つまり、クロの手下は強くなる何かがある。


　それが能力によるものなのか、薬などによるものかは分かりませんが……。


「まるで、ジオウさんと私達みたいですね……」


　よし、考察中にエタちゃんの腕は直せました。これなら……。






「いたァ」


「っ!?」


　時空か──


「《七曜の光線セブンスレーザー》」


　ダメッ、間に合わな──






　◇◇◇◇◇


　雇用主が異種族と本契約を結びました。


　◇◇◇◇◇


「あ」


　──────────


　──レアナside──


　……私の眼を貰い受ける、ね……。


「言っておくけど、私の眼は安くないわよ」


「おいくらでしょウ。可能な限りお支払いしますヨ」


「あんたの命！」


「それは出来ない相談でス」


　足裏から炎を噴射して推進力にする。


　まずは手前の二人！　手負いのこいつらなら……！


「痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……」


「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い……」


「っ!?」


　待っ……！　さっきより速っ……!?


　レーヴァテインに《ウォーターボール》を当て水蒸気を作り出し、視界を奪って二人から離れる。


　二人して片腕が無いのに、このスピードとパワー……さっき《鑑定眼》で見た事は、間違いないみたいね……。


「ふむふム、中々の速サ……大人しく眼を差し出すつもりはないみたいですネ」


「何を今更」


　でも……これは不味いわね。この二人に加えて、まだ力が未知数のクロを相手にするのはキツすぎる……とにかく、元凶のクロ一人でも戦闘不能に……！


「ではお二人共、生死は問いませン……眼を奪いなさイ！」


「「ガッ!?　ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！！！！」」


　っ！　魔力が跳ね上がった……!?


「シッ──！」


「くぅっ……！」


　女の剣がさっきとは比べ物にならない程荒々しく……！　それにこの魔力のせいで、レーヴァテインの炎が乱される……！


「《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》《爆裂》ゥア！！！」


　なっ!?　そんな《爆裂》を使ったらこっちの女も……！


「《陽炎の炎壁フレア・ウォール》！　レーヴァテイン！」


　私の持つ中で最強の防御魔法と、レーヴァテインの炎を重ねがけて何とかその場から離脱する。けど、残された女は《爆裂》をまともに受けた。


「あぐあぁぁぁぁあぁああぁあああ!?　いだいいだいいだいいだいああああああ！！！」


「ふふふふフ。良い鳴き声ですネェ……とても良い甘美な声。アァ、ゾクゾクして来ましタ……」


　へ、変態だああああああああ!?


　ここまでドン引きしたの、リエンに最初に会った時以来ね……。


「おや、そんな惚けていてよろしいのですカ？」


「ぁっ……？」


　嘘っ……!?　あの《爆裂》を受けてもう目の前に……!?


「いづああああああああああ！」


「キャッ……！」


　女の蹴りをレーヴァテインの腹で受けるも、衝撃を殺しきれず吹き飛ばされてしまった。またパワーが上がってるのは、気のせいじゃなさそうね。


「これがあんたの力ね……」


「おヤ？　その眼で見たのですカ。やはり素晴らしい眼ダ……その通リ。この駒も、エンパイオさんも、セツナさんも……全て、私の契約下にあル」


　にちゃあ……と口の端が裂け、この世の悪意を煮詰めたような笑顔をするクロ。


「契約した者の“負の感情”を増大させ、それに伴い全ステータスが倍増する。怒り、悲しみ、痛み、憎しみ、嫉妬、羞恥、絶望、虚無、殺意……負の感情が強ければ強い程、倍率も上昇するバフ系スキル。《悲憤慷慨ひふんこうがいの契り》……」


「ご説明どうモ。ダメージを受ければ受ける程、彼らの力は倍増するのでス。そうですね……レイガさんは3.67倍。リリさんは3.72倍と言った所ですカ。ジオウさんのスキルとは違い、徐々にしか上がって行きませんガ……それでも、今の貴女を圧倒するには十分でス」


　くっ……！　た、確かにキツい……！


　男レイガからの遠距離魔法と、女リリからの近接攻撃の連携は杜撰ずさんだ。でもレイガからのダメージを受けて、リリのパワーもスピードも少しづつ上がってきてる……！


「あはははハッ！　どうしましタァ？　防御するだけで精一杯じゃないですカァ！」


　腹立つ！　腹立つけどっ、あいつの言う通り攻撃に移れない……！　それに、段々リリの剣が私に当たるようになってる……！


　う、腕も限界ッ……も、ダメッ……！


「……そろそろ限界のようですネ。レイガさん、リリさん、終わらせなさイ」


「「ぉぉぉぉああああああッッッ！！！」」


　レイガの《爆裂》を背後から受け、リリの剣から、今までにないドス黒い魔力が噴き出す。


　あぁ……ダメね、これは避けられないし、レーヴァテインでも受け切れるかどうか……。


　ごめんジオウ、リエン、シュユ。ぬかったわ──。






　◇◇◇◇◇


　雇用主が異種族と本契約を結びました。


　◇◇◇◇◇


「あ」