パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第23話 リスマン族へのお使い

 セツナの奇襲から数週間が経った。今のところあれ以上のアクションは無く、多少の緊張感はあるが穏やかな時間が流れている。


 やぐらも急ピッチで直され、陥没した地面も元に戻した。当然俺達も復旧作業は手伝ったし、他のエルフと一緒にアデシャ族長の護衛もして来た。


 そして今日。俺達はアデシャ族長の頼みで、シュユと一緒にリスマン族の里へと向かう事になった。約一ヶ月後に控えている、神樹デルタへの祈りの儀式の為だ。


 本当ならシュユにエタを付ければ良いんだが、そもそもエタはレアナの護衛も兼ねてもらっているからレアナも同行させた。


 それに俺もギルドマスター組織の長として、リスマン族に挨拶するのが筋だと思い、同行する事にした。


「シュユ、リスマン族の里って、ここから遠いのか?」


「今から出発し、徒歩なら丁度三日目の朝に着くぞ」


「走ったら?」


「走……いや、いくら何でもそんな長距離を走るなんて不可能だと思うが……ペルも、流石にそんな距離を走り続けるのは無理だぞ」


 それが、不可能じゃないんだな。


「俺の身体能力はローブに掛けてある身体強化魔法のお陰で上がってるし、レアナとリエンも俺の《縁下》で強化されてる。シュユの案内さえあれば……そうだな、多分二、三時間で到着すると思うぞ」


「にさ……!?」


 唖然とするシュユ。そんなに驚かなくても、俺達と一緒にいたここ数週間を考えれば、納得出来そうなきもするんだが……。


「レアナ、シュユをおんぶしてやってくれ。シュユを背負ったまま俺らのスピードに付いて来れるのは、レアナくらいだからな」


「え? 喧嘩売ってる?」


「お前の力を認めてるんだ。頼むよ」


 俺が背負って手の平や背中から伝わる感覚を楽しんでもいいけど、その後の空気の悪さを考えたらレアナにやってもらうのが一番だ。


「むぅ……分かったわ。その代わり、空気抵抗とか風圧は考えず走るわよ」


「そこは私がどうにかしよう。これでも風魔法は得意な属性だからな」


 よし、決まったな。


 門の前で、俺らのやり取りを待っていたアデシャ族長に向き直る。


「族長、行って参ります」


「うむ、待っておるぞ。念書はちゃんと持ったな?」


「はい、ここに」


 シュユは鞄に入れていた念書を取り出して再度確認する。


「よし。ではジオウ、レアナ、リエン。この旅路は、毎度レグド族とテサーニャ族が邪魔をしに来る。くれぐれも用心して欲しい」


「安心しろ。奴らに俺達のスピードに付いてこれるとは思えん」


「……四日の距離を、二、三時間は流石のあ奴らでも無理か。一体どういう体をしてるんじゃお主らは」


 アデシャ族長は苦笑いを浮かべると、俺らから離れて護衛達と門の内側に戻って行った。


「アデシャ族長、念の為に里の周りにリエンのアンデッドを配置している。何かあったらエタの時空間魔法で戻ってくるからな」


 セツナの奇襲には最大限の警戒はしてるとは言え、また予想も付かない方法で侵入してくるかもしれないからな。念には念を入れてだ。


 シュユは申し訳なさそうにレアナの背におぶさる。それを確認し、俺達はリスマン族の里の方向を向いた。


「先頭は俺、真ん中はレアナ、後ろがリエン。これで行くぞ」


「了解よ」


「分かりました」


 それじゃあ……。


「GO!」


 脚に力を込めて、蹴り込む。


 瞬間、周囲の景色が流れるように後ろへ流れていき、今目の前にある景色が全て過去のものへと変わる。


「は、速い……!」


「大丈夫? 空気抵抗とかちゃんと軽減してる?」


「あ、ああっ。何とか上手くいっている……!」


 なら、この位のスピードで維持して行くか。


「──む?」


 攻撃の気配?


 ……あ、気配が消えた。速すぎて諦めたっぽいな。


「レグド族とテサーニャ族は、俺らのスピードに付いて来れないみたいだ。リエン、里の方は今のところ動きはないな?」


「はい。敵対部族も、例の組織も何もして来ていません」


「分かった。このまま一気に行くぞ」


 木々をすり抜け、川を飛び越える。


 目の端に魔物の姿が見えるが、それも全て無視して進む。


 スピードを落とさず、休憩も挟まず進むと、


「そろそろだ! 止まってくれ!」


 お? もうか?


 一気に急ブレーキを掛けるのではなく、ゆっくり、しっかりとスピードを落としていき、ようやく止まった。


「ふぅ……凄まじいな。もうここまで来てしまったのか……」


「時間的には三時間くらいしか経ってないから、まあ妥当な速さだと思うぞ」


「思いっきり常識外れだが……まあいい。こっちだ」


 シュユの案内の元、リスマン族の里に向かって歩いていく。俺らからしたらサシェス族のある森となんら変わらなく見えるが、シュユ達からしたら全く違うらしい。何がどう違うのやら……。


 木々の間を縫うように進むこと二〇分。一つの岩の前で足を止めた。


「あったぞ。この岩がリスマン族の里へと通じる道だ」


 シュユは鞄から念書を取り出すと、岩にかざす。


「我が名はサシェス族のシュユ。サシェス族族長、アデシャの遣いで来たものだ」


 一瞬の間が開くと、岩が光の粒子となって消えた。この仕掛けは、サシェス族と同じみたいだ。


 そしてその向こう側に現れた丸太の柵と門。その手前には、十数人のエルフ達が列を作って待ち構えていた。


 その先頭に立つ一人のイケメンエルフ。そいつが、左胸に手を当ててお辞儀をして来た。


「お待ちしておりました。私がリスマン族族長、神樹デルタとの交信者。名をエスタルと申します」


 ……族長自らお出迎えとは……どっかのサシェス族族長とはえらい違いだな。


(呼んだか?)


 呼んどらん。

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