パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第19話 《神隠し》破り

「……っ……うぅっ、頭ガンガンする……」


 ……あれ、ここどこだ……?


 いつの間にか寝てたのか、俺達三人揃って大部屋で寝かされてたらしい。服はいつも通り。武器もある。悪いのは体調だけだ。


「《浄化》」


 光魔法で体の中の毒素を浄化する。これで、大分楽になったな。二人にも掛けておくか。


 二人にも魔法を掛けると、青白くなっていた血色も良くなり、気持ち良さそうに寝息を立てた。まだ寝かせておいてやろう。


 音を立てずに部屋を出る。この感じ、どうやらアデシャ族長の家か。一応、挨拶しておくか。


 階段を登って昨日の部屋に向かう。


 ……いや待てよ。俺が今起きたばかりだし、まだ寝てるかもしれない。部屋で待ってて、少し経ったら出直した方が……。


『む? その気配はジオウじゃな。入って良いぞ』


 引き返そうとしたその時、扉の向こうからアデシャ族長の声が聞こえてきた。どうやら、もう起きていたらしい。


 お言葉に甘えて部屋に入ると、昨日と同じような格好でお茶を啜っていた。


「アデシャ族長、昨日はありがとう。楽しい時を過ごせた」


「気にする事はない。妾も久々に対等に飲めて楽しかったでの。特に男と飲むなど久々で、妾も羽目を外してしもうた。くかかかかっ」


 俺も、最近は忙しくて酒を楽しむ時間は無かったからな。ゆっくり出来て良かった。


 昨日と同じ位置に座ると、アデシャ族長が手を二回叩く。間髪入れず背後の扉が開き、エルフの女の子が俺にお茶を持ってきてくれた。


「ジオウ、楽にして良いぞ。正座は脚が疲れるじゃろ」


 正座……これのことか。ならお言葉に甘えて。


 足を崩して胡座をかき、お茶を啜る。うん、美味い。落ち着く味だ。


 無言でお茶を啜っていると、アデシャ族長が「それで、」と話を切り出した。


「ジオウ達はこれからどうするのじゃ? もし一度戻るのなら、シュユに送らせるが」


「いや、大丈夫だ。暫くは里を拠点に、レグド族とテサーニャ族の牽制と排除を行っていく」


「……奴らは毎日のようにやってくる。それに、《神隠し》を使われれば察知することは出来ぬぞ?」


「そこも対策は考えてある」


 大洋館の周りに打ち付けていた、魔法増大の杭。あれの小さい版の釘を用意してきた。それを使えば、ある探知の方法が使える。


「今から実演するけど、見に来るか?」


「ほう! 《神隠し》を破れるのなら、是非見てみたいものじゃ!」


「……失敗したらすまん」


「何を言う。魔法の発展に失敗は付き物じゃ。安心せい」


 そう言ってくれると助かる。


 俺はアデシャ族長の案内の元、里の中を歩いていく。既に太陽は高く昇っていて、里全体を太陽の温かさが覆っていた。


「あれ、族長?」
「嘘、族長が自分の足で歩いてる……?」
「しかも昨日見た人間も一緒に?」
「天変地異の前触れか……?」
「明日は台風かもなぁ」
「おーい、今のうちに家屋の補強しとけー」


 酷い言われようだな。


「あんた、普段歩かないのかよ」


「妾は面白い事以外に興味はない。今興味あるのは、魔法研究くらいじゃ」


 なるほどな。俺がこれからやるのも、魔法研究の一貫として興味を持っただけか。


 里の門を抜ける直前、アデシャ族長が《神隠し》で俺を包んでから里の外に出る。


 里から少しだけ離れると、綺麗な清流の小川が現れた。


「報告では、この辺がレグド族がよく現れる場所じゃ」


「分かった」


 なら、まずはこの辺に釘を刺しておくか。


 半径十メートルの円を描くように、釘を地面に刺していく。次にその釘に、探知結界の魔法を使った。


 釘による効果は三倍。これで準備は出来た。


「むむ? ただの探知結界のように見えるが……いや、釘のルーン文字……効果を三倍にするのじゃな。だがそれでは、《神隠し》を破る事は出来ぬぞ」


「ああ。俺も、この程度で捕まえられるとは思っていない」


 だけど、この探知結界の効果はそれだけじゃない。範囲を限定的にする事で、とある事を可能にしている。


 目を閉じ、意識を結界の境界と内部に集中させる。


 ただの探知結界では探知出来ないものまで、釘のルーン文字の効果で探知する事が出来る。


 じっと待つこと数十分。


 ────来たッ!


「《絶氷の牢獄ブリザード・プリズン》!」


 即、魔法を発動。


 足元から突然現れた、天高くそびえ立つ氷の柱。その中に人型の空洞が出来ていたが、《神隠し》が解けたのか一人の男エルフが姿を表した。


 どうやら上手くいったみたいだな。この方法なら、《神隠し》で隠れていても見つけ出せる事が分かった。……ただ、これが敵対部族かは分からないな。完全にランダムというか、下手したら仲間を捕まえる事になる。


「どうだ? これ、敵対部族か?」


「……あ、ああ。その通りじゃが……何故、捕まえる事が出来たのじゃ? 妾には何も分からなかったが……」


「簡単に言えば、探知結界で意識を集中する範囲を限定したんだ。ルーン文字で効果を三倍にし、更に風魔法の気流操作で一時的に結界内の空気の密度を均一にした」


 ここまで説明されて気が付いたのか、アデシャ族長は納得顔で頷いた。


「なるほどのぅ……均一にされた空気の中に異物が混ざり込んだら、その部分だけ均一ではなくなる。エルフ単体の探知ではなく、風の密度に着眼した方法というわけか」


「ああ。結果は見ての通り、成功だ」


 如何に《神隠し》が優れた魔法だろうが、そこに存在する・・・・という事象を隠すことは出来ない。この方法を攻略するには、存在すらこの世から消す必要がある。


 まあ、それはもう死んでると言っても同じだから、実質これを破る事は出来ないだろう。


「おぶっ!?」


 アデシャ族長は満足したのか、満面の笑みで俺の頭を撫で回した。


 止めろ止めろっ、頭頂部が禿げ散らかるだろ!


「くかかかかっ! やはり妾の目に狂いは無かった! ジオウ、お主素晴らしい才覚の持ち主じゃの! こんな方法思いもよらなんだ!」


「し、死と隣合わせの現場では、こう言う非常事態はざらだからな。試行錯誤なんて日常茶飯事だ」


「うむうむ! 妾はお主が気に入った! さあ帰って飲み交わすとしよう!」


 えっ、酒!? 今から!?


「ままま待て待て待て! まだ朝だぞ!?」


「酒を飲むのに時間など関係ないのじゃ!」


 いやお前らエルフはそうかもしれないけど、俺ら人間は朝から飲むもんじゃないからな!? 肝臓ぶっ壊す気かこいつ!?


「さあ、里に戻って魔法についての考察を肴に飲みまくるぞい!」


「はなっ、離せぇーー!」


 うへっ、エルフ力強くない!?

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