パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第8話 野草シチューは劇物のお味

「…………ねぇ」


「……何だ?」


「……これ意味あるの?」


 草木も眠る丑三つ時。


 俺とレアナは、エルフの目撃情報があった森に潜んでいた。


 範囲型の《光学迷彩カモフラージュ》と《音響遮断カット》を使っているが、念の為茂みの中に隠れている。


 因みにリエンは大洋館でおやすみタイムだ。複数のアンデッドを使用しているから、めちゃめちゃ疲れてしまうらしい。


 そして、隠れている俺達の見つめる先にあるもの。


 勿論、お皿に入った、レアナ特性野草シチュー。しかも御丁寧にスプーンと『ご自由にどうぞ』という立て札付き。


「どこからどう見ても親切心の塊のようなトラップじゃないか」


「見るからに怪しすぎじゃない!? て言うか、自分でトラップって認めちゃったし!?」


 だって罠だもの。


 まあ、まだ本当に引っ掛かるかどうかは分かってないし、今は実験って事になるけど。


「……不味いとは言え、私の料理があんな扱い……ちょっと悲しいわ」


「じゃあ残りのシチューをどうぞ」


「私、他人に食べてもらうのが好きだから」


 おい、そっぽを向くな。こっち見ろ。


 じとーっとした目でレアナを見ていると、別の草むらから草木が擦れる音が聞こえた。


「っ! ……エルフか?」


「ちょっと待って……」


 レアナが眼を凝らす。


 俺のユニークスキル《縁下》のレベルが上がった事で、レアナの《鑑定眼》の力も上がったらしい。


 《千里眼》。半径五〇メートル圏内なら、どこに何が隠れていても視ることの出来る眼らしい。《鑑定眼》の能力の一つだ。


「……いえ、ただの草食魔物ね。シチューの匂いに惹かれてきたみたい」


「あんなクソマズシチューに惹かれたのか」


「私の料理にケチつけないでくれる!?」


「じゃあ美味いと思うか?」


「…………」


 おい、目を逸らすな目を。


 じっと草むらの方を見ていると、レアナの言う通り鹿型の魔物(通称、鹿)が姿を表した。


 その鹿がシチューの周りをうろ付き、匂いを嗅ぐ。


 そして……ぺろ。


「っ!? 〜〜〜〜っ!? ────っ!!!」


 ばたり……。


 …………。


「おいーーーー!? 鹿ーーーー!?」


「ちょっ!? 死んだわよ!? 鹿死んだわよ!?」


「落ち着け、まだ死んでねーよ(多分)! あれだ、美味すぎて失神してるだけだ(多分)!」


 がくがくがくがくがくがく。


「痙攣しだしたわよ!? マジで死ぬわよ!?」


「あれだから、美味すぎて馬になってるだけだから!」


「いや馬でも痙攣はしないわよ! とにかく助けなきゃ! 私の料理で無害な鹿が死ぬのは夢見が悪すぎるわ!」


 あ、レアナ! ……ええいクソ! 俺も行くぞ!


 レアナに続き、結界を解除して茂みから外に出る。


 その瞬間──


「ペルーーーー!? ……あ」


 ……え?


 …………。


 反対側の草むらから出て来た、一人の美少女。


 ……尖った耳。金髪のロングヘアーと翠眼。ちょっと間抜けそうだが絶世の容姿。


 …………。


「確保!」


「OK!」


「ちょっ!? 何だお前達! それよりペルを助けさせてくれ! ペル! ペルーーーー!」


 ──────────


 エルフの腰に荒縄を巻き、先をレアナの手首に巻き付ける事で取り敢えずは解放した。


 エルフは鹿──ペルと言うらしい──の側に座り、懸命に治癒魔法を使っている。


 その後ろでそれを見ているが……凄いな。体の中の毒素が、見る見ると外に排出されていく。人間も同じ魔法を使えるが、速度と効果が尋常じゃない。


 てことは、あの野草シチューはやっぱ毒認定されてたのか。


 暫く待っていると、ペルに翳していた手を退かした。


「ほっ……これで大丈夫だ、ペル。すまないな、あんな劇物食べさせてしまって」


「ジオウもだけど、あんたも失礼じゃないかしら」


「劇物じゃなければ私の魔法は反応しないぞ」


「うぐっ……」


 ……ドンマイ。ちょっとだけフォローしておこう。


「だが、レアナ……この子の作ったシチューは、エルフが好む野草で作ったものだ。毒は入っていないはずだけど……」


「確かに私達エルフは、野草シチューを好む。……恐らくそこに、エルフ族や草食魔物には毒になる野草を混ぜたレシピが、人間の間に広まっているのだろう。そう言う野草は、決まって無味無臭だからな」


 なるほど……。


「知らなかったとは言え、すまなかったな」


「本当だ! 私が食べたら危うく即死だったぞ! だから人間は愚かで低脳なのだ! エルフの好みの野草くらい調べておけ!」


 と言われてもな……エルフの好きな物なんてそうそう調べられないだろ。


「じゃあ何でペルに食べさせたんだ?」


「休んでる間に爆睡してしまって、目を離した隙に……」


 こいつ……もしや阿呆か?


 なんか妙に疲れたな……。


 ゲンナリとしていると、エルフはふんっ、と胸を張った。服の上からでも分かる。大きすぎず小さすぎず、大変素晴らしい形だと思います。


「それで、私をどうするつもりだ? 言っておくが、私を犯そうとしても無駄だぞ。私達エルフは、神樹デルタの加護が付いている。私達に手を出そうものなら、それ相応の神罰が下るだろう!」


 ほう、神樹ね。


「でもその神樹、今活性化してる途中だろ?」


「……そうなのだ……だから栄養を沢山供えなければならないのだが、中々見つからず……」


 はい確定。


「レアナ、メモしろ。エルフの探してるのは、神樹デルタの栄養だ」


「はーい」


「なっ!? 謀ったな!?」


 自分で言っておいて今更何を。


「ふ、ふん! それを知った所で、人間程度にはどうも出来まい! 私達エルフを留めておく事など、出来ると思うな!」


 エルフが魔法を使ったのか、一瞬で姿が見えなくなった。側にいたペルも、一緒に消える。


「……《光学迷彩カモフラージュ》かしら?」


「いや、恐らくもっと高位の魔法か、エルフ固有のものだろう。……だけど」


「ええ、分かってるわ」


 レアナが自分の手首に巻き付けていたロープを思い切り引っ張る。


 するとその先の輪っかが、エルフの腰に括り付けた形のまま物凄い勢いで俺達の足元に飛んできた。楕円の形を保ってることから、多分まだ繋がっているんだろう。


「生憎、私にパワーで勝てるとは思わない事ね。このまま締め上げて口から内臓吐き出させてやろうかしら」


「待って待って待って!? 分かった、逃げない! 逃げないから!」


 お、姿が見えた。


 相当苦しかったのか、若干涙目だ。


「くっ……殺せ! 辱めを受けるくらいなら、死んだ方がマシだ!」


「せっかく見つけた手掛かりを誰が殺すか、バカタレ」


 俺はエルフの前に座り込むと、一枚のカードを切った。


「神樹デルタ、それを狙っている組織が存在する」


「……馬鹿な。神樹デルタはエルフ以外見つけられん」


「その組織に、セツナというエルフがいると言ったら?」


 俺の言葉に、エルフが目を丸くして惚ける。


「……生きて、いるのか……? セツナ姉様が……?」


 姉様……という事は、姉妹になるのか。


「十中八九」


 俺の言葉を吟味するように思案する。


「……どこだ……セツナ姉様はどこにいる……?」


「おっと。これ以上の情報開示は出来ない」


「貴様……!」


「その代わり、俺の願いを何でも一つ聞くという条件で、俺達の知る全てをお前に教える。何なら、一緒に救い出す手助けをしてもいい。どうだ?」


「……エロいことはしないと約束するか?」


「勿論だ。俺は性欲を解消するためにお前を捕まえたんじゃない。もっとでっかい野望のためだ」


 その言葉に一瞬たじろぐが、覚悟を決めた顔をして手を差し伸べてきた。


「シュユ。それが私の名前だ。この子はペル」


「俺はジオウ。さっきも言ったが、こっちの子はレアナ。よろしくな」


 その手を握り返す。


 こうして俺達は、エルフ族のシュユという強力な味方を手に入れたのだった。

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