パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第20話 牙を剥く大洋館

 まずは、リエンのシノビを使って周囲を偵察させる。見たところ正面玄関が入口だと思うが、見渡すと窓ガラスが至る所にある。もしかしたら、そこから入れるかもしれない。


 そう思ったんだが……。


「……ダメですね。壁にも穴は空きませんし、ガラスも破れないようです。裏口も見当たらないですね」


「やっぱりダメか」


 ダンジョンの外壁は、どんな物理攻撃、魔法攻撃でも破壊することが出来ない。特にSランクダンジョンともなれば、七帝でも破壊することは出来ないだろう。


 自然発生型ではなく、居住空間がダンジョン化するケースは俺も初めてで、念の為にと思ったが……外からも破壊は無理だな。


「それなら正面突破よ。私とジオウ、リエンの死体が前。リエンと、あと護衛でエタが後ろ。これでどうかしら?」


「そうだな……俺達は当然最奥に向かうとして、それ以外の場所や安全地帯も把握しておきたい。リエン、二人一組を十組作って、ダンジョン中に分散させてくれ」


「分かりました」


 リエンが手を上に翳すと、周囲に二〇体のアンデッドシノビが現れた。


 それとは別に、俺達と行動を共にする、エタと似たようなメイド服を着たアンデッドが三〇体。


 目を凝らして見ると……一人一人の強さはエタには及ばないが……俺と同等か、それ以上に強いぞ……。


「相手はSランクダンジョン。もう少し増やしておきましょう」


 えっ、まだ増やすのか?


 そこから次々に現れる、討伐ランクA、Sの魔物のアンデッド軍。エルフ、獣人、ドラゴニュートなどの人型は勿論、獣型のアンデッドも山ほどいる。


「総勢一二五体。私がやられない限り侵攻を止めない、不死の軍団ですわ」


「……すっげ……」


「半端ないわね……」


 これ、俺達出る必要なくね?


「……あれ? 中途半端だけど、残りの七五体は出さないのか?」


「大きすぎて大洋館に入り切らないので出せません」


 ここに入り切らない魔物って、どんだけでかいんだ……。


 ……いや、今は考えるのはよそう。攻略に集中するんだ。


「よし……入ろうか」


 大洋館の巨大玄関の前に立つと、扉が独りでに開いていく。


「うぉ……!?」


 くっ……すげぇな、このどす黒い殺気……まだ玄関なのに足が竦むぞ。


 だけど……何だ? 殺気の中に、慈愛のような視線も混ざってる気がする……どういう事だ……?


「これがSランクダンジョン……とんでもないわね……」


「レアナちゃんは、初めてなんですか?」


「昇級して、直ぐに合流したから……これが初めてのSランクダンジョンよ」


 俺はもう何度か潜ったことはあるが……それでも、この雰囲気は通常のSランクとはものが違う。そんな気がする。


 コンバットナイフを構え、レアナとアンデッド軍を率いて中に入る。


 一番後ろから、リエンとエタが付いてくると、扉が勢いよく閉まり、轟音が館中に響き渡った。


 そして壁に付いているランタンが一気に燃えだし、館の中を薄暗く照らす。


 ……えらく、静かだな……。


「リエン、探索を頼む」


「はい」


 リエンの指示で、シノビ達が散り散りになって館の中へと消えていった。


 それから俺達は、ゆっくり、慎重に歩みを進めていく。この中でSランクダンジョンの経験があるのは、俺だけだ。俺が指示を誤れば、全滅も有り得る。気を引き締めて行こう。


「……静かですね……」


「Sランクダンジョンって言うから、守護森林みたいに敵がわんさか出てくると思ったんだけど、そうでもないのね」


「……Sランクダンジョンと言っても、ピンキリだ。確かに、敵の数が異様に多いダンジョンもある。だけど反対に、異様に少ないダンジョンもある。今回は後者なんだろう」


 でも、そういうダンジョンに限って、いやらしい罠が仕掛けられてたりするんだよな……。


「あっ、見て見て、ジオウ! これアダマント鉱石よっ、しかも原石!」


「えっ、マジか!?」


「マジマジ! 私の《鑑定眼》に間違いはないわ!」


 数百年前に世界中のアダマント鉱石が掘り尽くされてから、たった1gの欠片でさえ高値で取引されるという伝説の鉱石……しかも、両手で持っても抱え切れないほどのデカさとは……すげぇな!


「はっ、はわわわわっ……これっ、蟲王の死骸じゃないですかぁ……! 流麗な括れ、堅牢な外骨格、八本の長い脚、十数個の目は全て複眼で……あぁなんという美しさ……!」


 後ろからもリエンの興奮している声が聞こえてくる。


 グレゴリオ・アルケミスト。錬金術だけじゃなく、こんなものまで集めてたのか……俄然、俺達のものにしたくなったぜ。


 興奮し、そんな事を思いながらアダマント鉱石へ触れる。


 瞬間──。


 ビーッ、ビーッ、ビーッ──警告、警告──ビーッ、ビーッ、ビーッ──警告、警告──


「っ! 何だ!?」


 こんな耳を劈くような音、聞いたことないぞ!?


「! ジオウ危ない!」


「ぬおっ!?」


 レアナに押し倒される形で飛び退くと、俺のいた位置を白いレーザーが走った。


「お前達、二人を護りなさい!」


 リエンがアンデッドを操り、俺達の前に壁を作る。しかし、白いレーザーが十体のアンデッドを薙ぎ払った。


「っ、リンクが切れた……!?」


 そんなっ……! ネクロマンサーとアンデッドのリンクが切れる。それはつまり、アンデッドが一瞬でやられたことを意味する。


 しかもこの白いレーザー……俺の感知が間違ってなければ……!


「気をつけろ! あのレーザーは光属性と聖属性の混合魔法だ! アンデッドは浄化されるぞ!」


「くっ……!」


 リエンもそれを悟ったのか、アンデッドを一箇所に固まらせず分散させる。


 分散させたおかげで先が見え、そこにいたのは……。


「あいつは……蟲王、か……?」


 後ろで見たものとは違い、外骨格は茶色ではなく、金属・・で身を覆っている。


 だが……何だ、こいつは……全く生気を感じないぞ……!?


『侵入者発見。侵入者発見。排除シマス』


 目を赤く光らせ、無機質な、声とも言えない音を発する金属蟲王。


 それが、俺達の目の前に十数体といたのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品