パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第13話 地帝のエンパイオ

 っ、騎士崩れ……あの時の奴らと同じか……!


「敵の強さ、恐らくAランク……いえ、Sランクかと思われますっ」


「何だと……!?」


 一応御者に聞こえないように話しているが、これには驚きを隠せない。


 何でAランク程の強さを持つ騎士がこんな真似をしてるんだ……? それにSランクなら、騎士団長として活躍してもおかしくないだろう。


「敵の数と場所、分かるか?」


「敵は一人。場所は右側で、馬車と並走しています」


 なるほど、よし。


「俺が行ってくる。リエンはここで、馬車とレアナを守ってやってくれ」


「大丈夫ですか? 恐らく、ジオウさん以上に強いと思いますが……」


「分かってる。だけど、女の子ばかりに任せてもおけないだろ?」


 コンバットナイフを取り出すと、馬車を飛び降りて騎士崩れがいる森の中へ入っていった。


 森の中での戦いは慣れている。むしろ、森の中でのことを考えて、コンバットナイフを使ってるくらいだ。長い剣や槍は、狭い場所だと不利だからな。


 遮音結界と不可視の結界を纏い、森の中を駆けていく。


「……いた……!」


 リエンが言っていた特徴と一致している。あいつが騎士崩れか……!


 遮音結界と不可視の結界で、俺の位置はばれていない。殺すなら今……!


 縮地の歩法で一気に背後を取り、その首に向けて刃を振り下ろす──。


 キィーンッ! 振り向きもせず、ナイフが剣で止められた。


「っ、防がれ……!?」


 体を翻して迫っていた刃を避ける。が、右袖が僅かに斬られた。


「チッ、結界は貼ってるのに……!」


 騎士崩れのおっさんは、構えを解いて俺の方を真っ直ぐ見据えた。まさか、見えてるのか……?


 ゆっくり時計回りに移動する。それでもおっさんは、俺の方から目を離さない。


「ふむ……見えんな。遮音結界と不可視結界の併用か。面倒な」


 ……見えてない、だと……? なら何で俺の位置が分かるんだ……!?


「あえて教えてやろう。貴様の殺気は分かりやすすぎるのだ」


 ……俺から漏れ出てる殺気で、俺の場所を特定してるのか。チッ、化け物が……。


 右胸のエンブレムを確認する。


 確かに白薔薇の紋章があり、それを囲むように星が七つ刻まれている。


 ……待てよ、まさか……その七つの星は……!


「動揺が伝わってくるぞ。我が何者か、理解したようだな」


 おっさんは剣を地面に突き刺すと、兜を脱いで顔を見せた。


 えげつない程の傷跡に、深く刻まれている無数のシワ。そして特徴的な、白髪のオールバック。


「我が名はエンパイオ・フランキス。元レーゼン王国七帝、地帝のエンパイオ。訳あって、貴様の連れ、レアナ・ラーテンの首を貰い受ける」


 七帝……地帝のエンパイオ……!?


 レーゼン王国最強の七人に与えられる称号で、今代は剣帝、炎帝、獣帝、嵐帝、狂帝、破帝、瞬帝が帝を背負っている。


 地帝は先々代……二〇年前に与えられた称号で、地属性の魔法を極限にまで高めたことに由来する。


 だが十五年前、その地帝が王国に反旗を翻したのは、当時六歳だった俺もはっきり覚えている。それほど、帝の裏切りは衝撃的だった。


 裏切りの理由は定かではない。既に死んだという噂も流れてたが……生きていたのか。


 俺は結界を解くと、エンパイオの前に姿を表した。


「……お初にお目にかかる、地帝のエンパイオ。俺はジオウ・シューゼンだ。……レアナを狙う理由、教えて貰えないか?」


「笑止。我は依頼を受けている身。依頼主のことを話すことなど出来ん。聞きたければ力ずくで聞き出してみよ」


 そりゃそうだ……。


 地帝相手に力ずくとか不可能だろ。……ここは、ある程度時間稼ぎして逃げるしかないか。


 覚悟を決めてナイフを構えると、エンパイオも剣を引き抜いて構える。


 クソが。構えてる姿に隙がない。地帝なんて呼ばれてたんだから、地属性魔法だけ極めてろよ。剣も強いとか反則だ。


「……ふっ!」


 速……!


 間一髪サイドステップで躱す。


 振り下ろされた刃は地面を数十メートル・・・・・に渡って斬り裂いた。


「そんなんありか!?」


「我ら七帝は、万物を極めんとしている。その中で特筆したものの称号が与えられているだけで、不得意というものは無い」


「反則が過ぎるぞ!」


 縮地の歩法で近づき、鎧の隙間を狙って攻撃するが、その全てを弾かれてしまう。


 こんな狭い森の中でここまで剣を振るえるとか……つくづく化け物だな。


 なら、隙を作るしかない!


 スピードと手数を活かして、四方八方から攻撃を仕掛ける。


「速いな。お主、ランクはSか?」


「残念! Aランクでも出来損ないの方だよ!」


「この強さでA。しかも出来損ないとは──面白い」


「っ!?」


 無造作の一振りで押し返された……!


「どれ、こっちから仕掛けるぞ。受けてみよ」


 エンパイオが剣撃を繰り出し、それを避け、防ぎ、いなす。……けどっ……速すぎる上に一撃が重い……!


「どうした。ここで引けば、お主の大切な仲間が死ぬことになるぞ」


 っ! レアナ……!


「おおおおおおおお!」


 光初級魔法、《フラッシュ》!


「む?」


 単純な目眩し魔法を使い、視界を遮る。


 その間に距離を取り、魔法を発動させた。


「風水混合──氷魔法、《氷結の宝剣ブリザード・ソード》!」


 俺が出せる最大数──八〇本の《氷結の宝剣ブリザード・ソード》を出し、気流操作で浮かばせる。


 行け……!


「──なるほど。面白い作戦だ」


 ……え?


 何だ、今……何が起きた……?


 《氷結の宝剣ブリザード・ソード》が全て……粉々にされた……?


「ふぅ。我ももう歳だな。思うように体が動かん」


「嘘だろ……」


 全盛期じゃないのにこの力……やばいな。


 俺、死ぬかも?

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