パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第10.5話 【白虎】のその後②

 ──【白虎】side 雷竜討伐、道中──


「ハァッ……ハァッ……ハァッ……クソッ、なんだよこれ……!」


 足元に転がるジャイアントベアーの死骸。討伐ランクは高々Aの、雑魚のはずだ。


 たった一体。このたった一体に、俺達のパーティーの半数は傷を負った。正直、傷は治せても、後遺症を残すほどのダメージを受けた仲間もいる。


 残り半数も、かなり疲弊しているみたいだ。


 クソが、一体何なんだこいつは!


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ……まさか、これがギルマスの言ってた、強すぎる魔物かしら……?」


 リリが汗を拭きながら俺の隣に立つ。


 確かに、こいつの強さは異常だ……普段のジャイアントベアーなら、うちの弱いメンバーでも一撃で倒すことが出来る。それなのに……。


 剣を鞘に収めて周囲を見渡すと、あちこちから治癒の効果が薄いという声が聞こえてくる。


 まさか、突然変異した魔物は、治癒を遅くする毒とか持ってるのか……?


「リーダー、どうする? 正直このまま進んでも、雷竜討伐どころか辿り着くのも……」


「馬鹿言ってんじゃねぇ! 俺達は最強のパーティー【白虎】だぞ! 依頼未達成、しかも辿り着けずに帰るなんざ有り得ねぇんだよ!」


 この馬鹿リリ、ふざけたこと吐かしやがって……!


「おいテメェら! 今あるポーションをありったけ使え! どうせポーションなんざ街で買えるんだ、こんな所で贅沢に使おうが問題ねぇ!」


「「「「「りょ、了解!」」」」」


 ジャイアントベアーの上に座り、ポーションを使って回復していく仲間を見る。


 俺も持っていたポーションを飲んで、体力を回復させた。


 何故だか分からないが、体の方も重い気がする。体力は今回復させたから、恐らく精神的なものかもな。


「おいアリナ! 俺にキュアの魔法を掛けろ!」


「う、うんっ」


 アリナが言われた通り、俺にキュアを掛ける。が……。


「……おいさっさと回復させろ、ちっとも効いてないじゃねーか!」


「そ、そんなっ……もし効いてないんだとしたら、レイガさんに何も異常がないからで……」


「そんな訳ねーだろ! もういい、この役立たずめ!」


 くっそイライラするぜ。何なんだいったいよ……!


 イライラをぶつけるように、ジャイアントベアーの死体を思い切り蹴りあげる。だが少し浮いただけで、思ったように粉々には出来なかった。


 …………。


「がああああああああああああ!? あああああああああああ!!!!!」


 剣で斬る、斬る、斬りまくる。


 そしてようやくジャイアントベアーの死体を粉々にすることが出来た。


「テメェらモタモタしてんじゃねぇ! 行くぞゴルァ!」


「ま、待ってくれリーダー! まだ全員完全に回復しきってません! あと三〇分、いや二〇分待って欲しい!」


「じゃあ今怪我してる雑魚は置いてけ! 俺らは最強の【白虎】だぞ! この程度で疲れ切ってる奴ァ仲間でもなんでもねぇんだよ!」


 そうだ、俺達は最強だ。レーゼン王国最強のパーティーだ。王国で俺達に指図できる奴なんざいねーし、全員俺達に……いや、この俺に従うべきなんだよッ!


 俺が先にすすむと、ギリギリ回復した奴も含め五十三人が付いてきた。


 残された二十四人が何か喚いてたが、そんなのは知らん。雑魚で無能な自分の力を呪うんだな。


「レイガさん、今日イライラし過ぎだぜ?」


「うるせぇ」


 ガレオンに言わずとも分かってる。


 何なんだこの言いようのないイライラは……!


 がんがん前に進んでいくと、いつの間に俺の隣に立つアリナが立っていた。


「ねぇ、レイガさん。ちょっと良いかな。気のせいだとは思うけど……」


「あ? 何だよ」


「っ……うん。気のせいだとは思うけど、もしかしたら……私達、パワーダウンしてるかもしれない……」


 ……は? 何だと?


「わ、私も最初は違和感でしか無かったけど、ジオウさんが抜けてから、何となく気だるいと言うか、パワーが出ないと言うか……」


「んな訳ねーだろ! 自分のステータス値を確認してみろ! 何も変わってねーだろ! 寝ぼけたこと言ってるとテメェも解雇すんぞ!」


「っ……ご、ごめんなさい。勘違いだったかも……」


「ったりめーだバーカ!」


 あの雑魚が消えて、俺達が弱くなるだと? そんなふざけた話があるか!


 ああああクソッタレが! むしゃくしゃしやがる!






  レーゼン王国を出発して二週間後、俺達はようやく雷竜の住む鳴神峠までやって来た。


 今いるメンバーは三十二人。元々七十七人いたが、ここに来るまでに四十五人……半数以上を途中で置いて来ていた。


 これは仕方ない事だ。力のない雑魚の方が悪い。魔物が突然強くなった程度で死にかける奴は、【白虎】にはいらねぇ。


 鳴神峠から、峠の先を見ると、雷竜がとぐろを巻いて寝ていた。纏っている雷が、鱗の表面を流れるようにして伝っているのが見える。


「あいつが雷竜か……上等だぜ」


「り、リーダー。マジでやる気? 流石にちょっと休んで、万全の状態で挑んだ方が……」


「うるせぇ。リリ、お前いつからそんなビビりになったんだよ。俺とお前とガレオンはうちの特攻隊長だろうが。今回も期待してるぜ」


「う……うん……」


 よし……。


「行くぞっ!」


 掛け声と共に、俺、リリ、ガレオンが飛び出す。


 その気配を察知したのか、雷竜が目を開けてゆっくりと起きた。


「っ! 気付かれたぜ、レイガさん!」


「分かってる、止まるな!」


 剣に魔力を流し、斬れ味を増加させる。


 水竜の鱗も斬り裂いた刃だ! こいつで……!


『……木っ端の雑魚が……我の眠りを邪魔するな』


 ……えっ、しゃべ──。


 瞬間、視界が全て白くなり、耳をつんざく轟音が響き渡る。


 な、ん、だ……!?


 暫くして音が止む。が……お、音と光のせいで目眩が……!


「っ……お、お前らっ、行く……ぞ……?」


 後ろを振り返る。


 が、そこには……九人を除き、炭化した人型の何かがあった。


 ……何だよ、これ……何が起きた? 一体何が……?


「…………っ! ガレオン、リーダーを連れて来て! アリナちゃん、戻り玉!」


「お、おう!」


「分かりました!」


 戻り玉……戻り玉……? 確か、決めた場所に戻れる、便利道具……俺達には必要のない……ぇ……?


「ま、待て! 勝手な行動は許さねぇぞ!」


「ここまでやられてそんな事言ってられないでしょ!?」


 ガレオンに担がれ、雷竜から離れていく。


「はなっ、離せっ! 離せェェエエエエ!!!」


 後ろに戻った瞬間、雷竜の姿が歪む──。


『……ふん、雑魚が』


 その言葉を聞いた瞬間、俺達は鳴神峠からレーゼン王国門前へと移動していた……。

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