パーティーを追放された俺は、隠しスキル《縁下》で世界最強のギルドを作る

赤金武蔵

第1話 追放されたから村へ行こう

「ジオウ。約束通り、今日をもってお前を解雇する。今までご苦労だった」


 冒険者ギルドのSランクパーティー【白虎】のリーダーであるレイガが、ニヤニヤした表情で言った。


 その後ろにいるパーティーメンバーも、一様にニヤニヤしている。


「……世話になったな」


 これは、一か月前から決められていたことだ。仕方がない。


「俺達【白虎】に、愚鈍なお前はいらない。分かってくれるな?」


「……ああ、分かっている」


 Sランクパーティー【白虎】は、冒険者ギルドの中ではトップレベルのパーティーだ。統率力、殲滅力、機動力、守護力。どれも桁違いで、ギルドだけでなくレーゼン王国でも中核とされている。


 その中でも俺はレイガに並んで一番の古株だが……レイガの言った通り、俺はこの中で攻撃力も防御力も低い。レベルは他のやつと見劣りしないが、それだけだ。


 俺はローブの胸に付いていた【白虎】の証である金バッチを外すと、レイガに渡した。


「ジオウさーん、バイバーイ」


「これからどうするんですかー?」


「ばっかおめー、ジオウさんなら【白虎】にいたってだけで引っ張りだこだろ。まっ、文字通りいただけだけどな!」


 上から剣士のリリ。魔導師のアリナ。格闘士のガレオンが野次を飛ばし、下品な笑い声を上げる。


 それに釣られて、数十人の他のパーティーメンバーも笑い出した。


 悔しくない、と言えば嘘になる。


 だが、これが現実だと諦めるしかない。


「じゃあジオウ。あばよ」


「ああ」


 【白虎】が拠点にしている居酒屋を出る。


 中から聞こえてくる喧騒から逃げるように、俺は冒険者ギルドへ足を運んだ。


 周囲の視線が、嫌でも突き刺さる。


 俺の無能さは、既に国中に知れ渡っている。だからこんな視線、今ではそよ風と同じだ。


 歩くことしばし。冒険者ギルドに着いた俺は、ギルドカードとギルドランクAの証である金の指輪を受付に出した。


 受付嬢のミミさんは、唖然とした表情で、俺の顔と差し出されたギルドカード、指輪を交互に見る。


「……じ、ジオウさんっ、まさか冒険者ギルドすら辞めるつもりなんですか!?」


 ダンッ! とテーブルを叩くと同時に、ギルドでも有名なロケットデカパイがバルンと跳ねる。


「あ、ああ。世話になった」


「そ、そんなっ……! 確かに【白虎】では埋もれてしまったかもしれませんが、それでもジオウさんはAランク冒険者です! ギルドとしましても、貴重な戦力を手放す訳にはいきません!」


「と言われてもな……」


 俺のランクは、【白虎】ありきのものだ。それは周知の事実だし、俺自身も納得している。


 それにこの冒険者ギルドも、何故だか他のギルドより強いやつが多いんだよな。そこにソロでいたって、また蔑まれて終わるだけだ。


「とりあえず、俺はもう冒険者から足を洗うと決めたんだ。これからは地方の村で、衛兵として細々と生きていくよ」


「そ、そんな……!」


「期待させてすまなかった。それじゃあ」


 ミミさんの引き止める声を無視して、冒険者ギルドを出る。


 これで俺は【白虎】のジオウ・シューゼンでも、Aランク冒険者のジオウ・シューゼンでもない。ただのジオウ・シューゼンになったわけだな。


 肩書きが無くなるってのは、思いのほか肩の荷が降りて楽になる。どうやら、俺が思ってる以上にストレスを感じていたらしいな。スッキリとした気分だ。


 とりあえず西へ向かおう。確か、レーゼン王国から馬車で一週間行ったところに、ボナト村という村があったはずだ。当面はそこを拠点にして行こう。


 それに、ボナト村は確か、獣人族などの亜人族と、深い交流があったはずだ。上手く行けば、どこかで雇ってくれるかもしれない。


 【白虎】では役立たずだったが、その辺の魔物程度に負けるとは思っていない。家事全般は得意だし……まあ何とかなるだろう。


 当たって砕けろだ(砕けちゃダメだけど)。


 俺は【白虎】から支給された白いローブを脱ぎ捨てて安い茶色のローブを買うと、正体がバレないように深くフードを被り、馬車駅へ向かった。


「すまない。ボナト村へ行きたいのだが、どれに乗ればいい?」


「ボナト村かい? それならあの馬車だ」


「ありがとう」


 案内された馬車の御者に代金とチップを渡すと、荷台に乗り込んだ。


 荷台には既に別の客がいた。


 俺より年下(十五、六歳だろうか?)の少女だ。だが、その少女とは思えない美貌に、柄にもなく見とれてしまった。


 今まで下を向いていたが、俺に気付いたのかゆっくりと顔を上げる。その時、ツーサイドアップにしているブロンドヘアーが、僅かに揺れた。


「……何の用? あまりジロジロ見るなんて、レディに失礼じゃないかしら?」


 ……見た目の綺麗さに対して、中々ツンツンした子だな。


「あぁ、すまない。ボナト村の人かと思ってな」


「違うわよ。でも、ボナト村へ行くには変わりないわ。……あんたも?」


「ああ。移住しようかと思ってな」


「ふーん」


 ……あ、もう俺の話には興味無いと。そうすか。ちょっと寂しいぞ?


 諦めて少女の斜向かいに座り、無駄なエネルギーを使わないよう目を閉じる。


 少女のことが気にならない、と言ったら嘘になる。こんな魔物が蔓延るご時世に一人で、しかも男と同馬車に詰め込まれて旅なんて、余程の世間知らずか、それとも自分の力に自信を持っているのか……。


 ……まあ、何かあったら手助けしてやろう。いくら他人とは言え、これから一週間寝食を共にするんだ。何かあったら夢見が悪い。


 それから暫く待つと、他にお客は乗ってこず、御者がベルを鳴らして出発した。


「……いよいよか……」


 いよいよ、俺の新しい人生がスタートするんだ。気分が高揚しない訳がない。


 その高揚を押し殺し、外の景色を眺めながら、馬車に揺られて行くのだった。

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