世界の真実を知るためには生贄が必要と言われ、問答無用で殺された俺と聖女 〜実はこっちが真の道!? 荷物運びと馬鹿にされた【空間魔法】で真の最強へ至る〜

赤金武蔵

第1話 邂逅

「──ッ!? あぐっ……!」


 の、喉がッ……あれ?


 ……傷が、ない……? それどころか、血も出てないぞ……?


 ぐっ……まだ喉に剣の冷たい感覚が残ってる……!


「ぁっ……がっ……!」


 こ、声が出ない……いや、そもそも僕はあの時殺されたはず……? 何で意識が……。


 喉を擦りながら周囲を見渡す。


 白く、何も無い空間。どこなんだここは……?


 ……ん? あれは……っ、リオ!


 白い空間で、気絶するように眠っているリオのもとに走る。


「り……ぉ……!」


 くそっ、声が……!


 リオの肩に手を置いて揺さぶる。頼む、起きてくれ……!


「……ん……?」


 ほっ……よかった、起きて──。


「っ! キャアアアアアアーーーーーー!? ひっ、ひぁぁぁぁああああああああああああああああああっ!?!?!?」


 り、リオ……!? どうしたの、リオ!


 リオは髪を掻き毟り、全身がガタガタと震えている。これはまずい……!


 リオを優しく抱き寄せ、頬に手を添えて頭を撫でた。


「り……おっ……!」


 頼むリオ、こっちを見て……!


「ああああああああぁぁぁ……ぁ……? ……アッシュ、さん……?」


 ほっ……よかった。少しだけ正気に戻ってくれた……。


 声が出せない分、頭を大きく振って頷く。


「……ぁ……ぁぁ……アッシュさん……アッシュさん、アッシュさん……う、うええぇぇぇぇんっ!」


 っ……リオ……。


 僕の腕の中で大粒の涙を流すリオ。


 あの時、何があったのかは聞かない。多分僕と同じ目にあったか……レッセンに、もっと酷い目に合わされたか……。


 でも、一つだけ分かる。


 この白い空間には、僕とリオしかいない。






 ということは──僕達はアイツらに、殺されたんだ。


   ◆◆◆


「ぐすっ……ごめんなさい、アッシュさん……服を汚してしまって」


 いや、大丈夫。僕の服くらいでリオが泣き止むなら安いもんだ。


 なんて、声も出ないからジェスチャーで表現するしかないんだけど。


「……? アッシュさん、声が出ないんですか……?」


 そうそう。


「……喉に、剣の傷跡が出来ています……痛そう……」


 そっと僕の喉に触れるリオ。僕からは見えないけど……そうか、傷が出来てるんだ……ということは、リオの体にも……。


 ……いや、今は考えるのはよそう。


 そもそも、ここはどこなんだろう?


「ここがどこか、ですか? ……分かりません。ただ、聖なる空気が充満しているとしか……」


 聖なる空気?


「古代エルフの集落が、ここと同じような空気が漂っていました。でもここの方が圧倒的に密度が濃いですね……」


 ……空気の密度が濃い……? どういう意味だろう。


 リオと同じように、僕も周りを見渡す。


 ……あれ? 何だろう、あれは……?


「アッシュさん、どうしました?」


 あれ……。


 僕の指さした先をリオも見る。


 そこにあったのは……僕の身長の半分しかない、小さな木だった。


「何でしょう……?」


 さあ……?


 とりあえずリオとはぐれないように手を繋いで木に歩いていく。


「……小さい……」


 リオの呟きに、僕もそっと頷いた。


 何で、こんな所に……。


 優しく、傷めないように木に触れる。


 ──と。






『──あぁ、無惨にも殺された、可哀想な人の子達よ……!』






 だ、誰!?


 白い空間に響き渡る女性のような声。でも、リオの声じゃない……。


 ……誰もいない……今ここには、僕とリオの二人だけだ……。


『──ここ、ここですよ。アッシュ・グレイマン、リオ・ミスラン』


「……ぁ。まさか……この木、なのでしょうか……?」


 え、この木……?


 見ると……確かに、僅かに木が光ってるような……?


『──はい。私が話しかけています』


 ……本当に、この木が……。


『──聞きたいことは山のようにあるかと思われます。ですが、まずは私の話しを聞いてください』


 ……確かに、まずは話しを聞かないと何も解決しない。


 僕とリオは頷き合い、木の前に座った。


『──ありがとう、人の子達』


 っ! き、木が黄金色に光って……。っ!? ひ、光りが、人の形に……!?


 僕達の前で、見たことも聞いたこともない超常現象が起きる。


 光りの帯が編まれ、人の形となり、それが明確に女性として現れた。


 シルクのように美しい金髪。


 まつ毛が長く、閉じられたままの目。


 光りの帯が体を隠しているけど、隠しきれないほどの艶めかしさを醸し出している。


 この人外の美しさ……間違いない。


 この人は、人間じゃない……。






『──初めまして、仲間に殺された哀れな人の子達。……私の名はユグドラシル。神樹の精霊、ユグドラシルと申します』

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品