【ジョブチェンジ】のやり方を、《無職》の俺だけが知っている

赤金武蔵

安い挑発

 ギルド特別救済措置が始まり、一週間が経った。


 最初は無謀だとか絶対もたないと思ってたが、何とかやってこれている。


 どんだけ打ちのめされても、殺されかけても、セトさんの回復があるから死ぬ心配はない。そう考えたら、むしろ恐怖心がなくなってガンガン攻められるようになってきた。


「オルルルルルルァ!」


「ほべばっ!?」


 まあぶっ飛ばされることには変わりないんですけどね!


「セト」


「…………(こくこく)」


 ぁ……体が柔らかい暖かさに包まれてる……また、セトさんの回復魔法か……。


「う、うぅ……あ、ありがとうっす、セトさん」


「…………(ぶい)」


 セトさんにお礼を言い、全身の疲労を確認する。


 ……まだ、まだ行けるな。よしっ。


 ギルド長へ向かって全力で走る。


「ほう。その心意気はよし!」


 来る……! ギルド長得意の右ストレート!


 顔面に向かって来る拳。いつも思うが、異様にでかく見える……でも!


 まだ、まだ避けない。


 ギリギリを……ギリギリを狙って──。


「ほべっ……!?」


 ぁ……や、ば……タイミング、ミスった……。


 ……ぁ……またセトさんの回復だ……痛みが、消えていく。


「ま、まだまだぁ……!」


 もう一回……!


「闇雲に向かって来ればいいってもんじゃねーぞゴルァ!」


 また右ストレート……!


 落ち着け、落ち着け、落ち着け……!


 拳が、鼻に、触れ──ここで避け……!


「おごっ……!?」


 ちょ……く、撃……!


「ふむ。ゼノアのやりたい事は何となく分かった。お前、オレの攻撃を紙一重で避けようとしてるな?」


 ギクッ。


 セトさんに回復されながら、ギルド長を見上げると、呆れたようにため息をついた。


「ゼノア、その技術は今のお前じゃ無理だ。圧倒的に経験値が足りないし、何より……」


「な、何より……?」


「──オレがそんな小手先のテクニックで避けさせるわけないだろ」


 ……あ、はは……何もかも、お見通しってわけっすね……。


「……でも、やめないっすよ」


「……何?」


「今は避けられないかもしれない。でも、これをなしえた時──あんたを超えられる」


 これは、安い挑発だ。


 この程度で超えられるなんて、微塵も思ってない。


 けど……。


「……へぇ……じゃあ、超えてみてもらおうかァ!!!!」


 ビキビキと額に血管が走るギルド長。


 そう、この殺気、このオーラ……!


 まるで鬼のような、般若のような、ドラゴンのような形相のギルド長。


 肌が粟立つ。本能が回れ右をしろと煩く叫ぶ。


 だけど、俺は強くなって……色んな人達を助けられるようになるんだ……!


 今のままじゃ、変えられないんだよ……!


「おおおおおおおおおおおお!」


 本能をねじ伏せ、強さを求めるため、俺は一歩踏み出した。


   ◆◆◆


「やり過ぎた……」


 オレの足元に転がるゼノア。セトの回復を持ってしても、もう五分も目を覚まさない。


「セト、ゼノアは大丈夫か?」


「…………(ぶい)」


 そ、そうか……よかった……。


 挑発だと分かってても、つい乗っちまった……ダメだなぁ。オレの悪い癖だ。


 ゼノアの頭の前にしゃがみこみ、顔にかかっている前髪を払う。


 ……こうして見ると、ホント女みてーな顔してんな。綺麗系ってより、可愛い系だ。


 体も中肉中背……いや、平均より若干華奢な体格だ。


 こんなナリなのに、戦闘センスも抜群で魔力コントロールのセンスもある。それに加えて、スキル持ちかぁ……。


 もしかしたら、いつかオレを超えるのは、本当にこいつなのかもな。


「……んん……負け、な……むにゃ……」


 ──トクンッ──


 ……ん? 何だ、今の胸の高鳴りは?


 ……もう収まった、か。何だったんだよ、今の……。


「…………(じーっ)」


「……あんだよ」


「…………(ニヤァ)」


 こ、こいつっ、いつも無表情のくせじゃがって……!


「セト……!」


「…………(すたこら)」


 あ、逃げやがった……! ったく……。


 再びゼノアに視線を落とす。と……目にクマが出来てやがる。毎晩毎晩、夜遅くまで魔力コントロールも頑張ってるもんな……。


 まあ、その魔力に当てられてるオレもオレだが……。


「……暫く、寝かせておいてやるか」


 オレはゼノアの横に座り込んで、何となく、気まぐれに、頭を撫で続けた。

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