【ジョブチェンジ】のやり方を、《無職》の俺だけが知っている
ギルド特別救済措置
「……またこの天井か……」
目を覚ましたら見慣れた天井。間違いなく、ここはギルドの医務室だ。
そうか……俺、魔力切れで気絶したんだな。エーテルの便利さに慣れて、最後まで残す魔力の量を計算し切れなかったか。
あー、まだ頭がガンガンする……魔力切れなんて、レインさんの勉強の時に一回なったけど、どうしても慣れないな……。
……あ……。
「そ、そうだっ、昇級試験……!」
どうなったんだ……!?
周りに誰もいないから、聞くに聞けないぞ……。
何とか体を起こし、周りを見渡す。
俺の服は、ベッド横の机に畳まれて置かれていた。今は動きやすい水色の服を着せられている。
……誰が着替えさせたとか、俺の全裸見られたとか、ちょっと気にならないことはないが……今はどうでもいい。
急いで自分の服に着替える。と……一枚の紙が、床に落ちた。
「『起きたらギルド長室に来い』……字、汚ぇな」
間違いなくギルド長の字だろうけど……あぁ、なんか緊張するな……。
医務室を出て、ギルド長室に向かって歩く。
勝手知ったるギルド長室への廊下。だけど、いつもよりヤケに暗く感じる。
そして……着いてしまった。
「……すー……はぁー……よしっ」
軽くノックすると、中から粗暴な声が聞こえて来た。
「入れ」
「し、失礼しまっす……!」
若干声が裏返った。でも察して欲しい、俺のこの緊張を。
中に入ると、奥のテーブルにはギルド長が。手前のソファーには、クレアが座り、その後ろにレインさんが控えている。
俺が入ると、クレアが真っ先に近付いてきた。
「ゼノア! もう大丈夫なの?」
「ああ、クレア。もう大丈夫だ。心配かけたみたいだな」
「し、心配なんてしてないわよっ。まあ、いきなりぶっ倒れてビックリしたけど……」
いや心配してんじゃん。
苦笑いを浮かべると、クレアはふんっとそっぽを向いてしまった。素直じゃないな、全く。
「ゼノア様、申し訳ございませんでした。私もムキになってしまい……」
「あ、いや。俺の方こそすみません。せっかく教えてくれてたのに、魔力量の調整を上手く出来なくて……」
レインさんの指導を受けてても、実戦じゃ上手く行かないもんだな……。
俺とレインさんが互いにペコペコしてると、ギルド長が苛立ったようにテーブルを指で叩いた。
「クレア嬢、レイン。その話はまた後でやってくれ。ゼノア、こっち来い」
「っ……はい」
もう、覚悟は出来ている。
どんな結果でも受け入れよう。
ギルド長の前に立ち、背筋を伸ばしてギルド長の次の言葉を待つ。
「…………」
「…………」
……空気が、重い。
頼むからこの空気を早く終わらせてくれ……。
「……ゼノア」
「は、はいっ」
「これより合否を伝える」
っ、来た……!
「……試験前、オレは言ったな。レインを倒せれば合格、負ければ不合格だと。結果はお前がよく分かってるだろうし、この言葉は覆さない」
「……はい……」
やっぱり……。
「ゼノア。シルバープレート昇級試験、不合格だ」
……そ、うだよな……。
レインさんを倒せなかった時点で、俺は不合格は決まっていた。
分かってはいたけど、きついなぁ……。
「だが、この試験の結果に、異議を唱えた奴がいる」
「……え? それって……誰っすか?」
「レインだ」
え、レインさんが? 何で?
「最後の攻防。お前が魔力切れで倒れなければ、レインは《ファイアーボール》をまともに食らっていたと自白した。確かにオレの目から見ても、それは間違いないだろう」
……そう言えば、最後の最後でもう一歩だった気もするけど……。
「魔力切れで試験には落ちたが、レインをあと一歩まで追い詰めたことも事実。よって、ゼノアにはギルド特別救済措置を執行することにした」
「……ギルド特別救済措置?」
何それ、知らないんだけど?
振り返ると、クレアも首を傾げ、レインさんはコクリと頷いた。
「ギルド特別救済措置は、私も過去に受けたものです。間違いなく、ゼノア様の為になるものですよ」
レインさんも受けた……? どんなものか、気になる……。
「あの、内容とかって……」
「それは受けると言質を取ったら伝える。因みにこれは、ギルド内でも超機密事項だ。これを聞いたゼノア、並びにクレア嬢は、ギルド特別救済措置について内外へ漏洩した瞬間、俺が殺す」
「「ひっ……!?」」
ど、どんな救済措置だよ、それ……。
「……因みに、受けなかった場合は……?」
「今後、二度とギルド特別救済措置を受けることは出来ず、更に昇級試験も一年後でないと再受験出来なくなる」
一年!? ブロンズのまま!?
そ、それはまずいっ。俺、早く強くなりたいんだよ……!
「……分かりました。受けるっす……!」
「よく言った!」
ギルド長が席から立ち上がり、まるで超肉食獣のような、獰猛な笑みを浮かべた。
「これより、ギルド特別救済措置を発令する。期間は一ヶ月。内容は至ってシンプル。一ヶ月、オレと寝食を共にし、俺の知る戦闘ノウハウの全てをテメェに叩き込む。更に、一ヶ月後に昇級試験の再試験を行う。拒否権はない。以上!」
…………。
ああ、なるほど……あと一ヶ月が、俺の寿命な訳だ。
そんなことを考え、俺の意思とは関係なく……脳が、考えるのを止めた。
「ぷぷっ……! ぜ、ゼノアっ、ファイト……!」
クレアてめぇ笑ってんじゃねーよ。
「クレア様。クレア様も、一ヶ月後のゼノア様に見合う実力を付けて頂くために、私も今まで以上に厳しく行きますので、そのおつもりで」
「!?」
ざまぁ。
ギルド長はテーブルを乗り越えると、軽々と俺を脇に抱えた。
「さ、今からスタートだ。クレア嬢、レイン。一ヶ月後を楽しみにしてな。こいつを色んな意味で男にして帰してやるよ」
「はい」
色んな意味でって何!? 何のこと!? 俺の防衛本能がビンビンなんだけど!?
「待ってレイン……わ、私はやらなくていいんじゃないかしら? ね、ねぇ? ……ねぇ無視しないで!?」
「ご覚悟を」
「いやだああああああああーーー!!!!」
……一ヶ月後、生きてたらまた会おうな、クレア……。
脇に抱えられながらギルド長室を出た俺は、クレアに向かって敬礼。
あぁ……短い人生だった……。
目を覚ましたら見慣れた天井。間違いなく、ここはギルドの医務室だ。
そうか……俺、魔力切れで気絶したんだな。エーテルの便利さに慣れて、最後まで残す魔力の量を計算し切れなかったか。
あー、まだ頭がガンガンする……魔力切れなんて、レインさんの勉強の時に一回なったけど、どうしても慣れないな……。
……あ……。
「そ、そうだっ、昇級試験……!」
どうなったんだ……!?
周りに誰もいないから、聞くに聞けないぞ……。
何とか体を起こし、周りを見渡す。
俺の服は、ベッド横の机に畳まれて置かれていた。今は動きやすい水色の服を着せられている。
……誰が着替えさせたとか、俺の全裸見られたとか、ちょっと気にならないことはないが……今はどうでもいい。
急いで自分の服に着替える。と……一枚の紙が、床に落ちた。
「『起きたらギルド長室に来い』……字、汚ぇな」
間違いなくギルド長の字だろうけど……あぁ、なんか緊張するな……。
医務室を出て、ギルド長室に向かって歩く。
勝手知ったるギルド長室への廊下。だけど、いつもよりヤケに暗く感じる。
そして……着いてしまった。
「……すー……はぁー……よしっ」
軽くノックすると、中から粗暴な声が聞こえて来た。
「入れ」
「し、失礼しまっす……!」
若干声が裏返った。でも察して欲しい、俺のこの緊張を。
中に入ると、奥のテーブルにはギルド長が。手前のソファーには、クレアが座り、その後ろにレインさんが控えている。
俺が入ると、クレアが真っ先に近付いてきた。
「ゼノア! もう大丈夫なの?」
「ああ、クレア。もう大丈夫だ。心配かけたみたいだな」
「し、心配なんてしてないわよっ。まあ、いきなりぶっ倒れてビックリしたけど……」
いや心配してんじゃん。
苦笑いを浮かべると、クレアはふんっとそっぽを向いてしまった。素直じゃないな、全く。
「ゼノア様、申し訳ございませんでした。私もムキになってしまい……」
「あ、いや。俺の方こそすみません。せっかく教えてくれてたのに、魔力量の調整を上手く出来なくて……」
レインさんの指導を受けてても、実戦じゃ上手く行かないもんだな……。
俺とレインさんが互いにペコペコしてると、ギルド長が苛立ったようにテーブルを指で叩いた。
「クレア嬢、レイン。その話はまた後でやってくれ。ゼノア、こっち来い」
「っ……はい」
もう、覚悟は出来ている。
どんな結果でも受け入れよう。
ギルド長の前に立ち、背筋を伸ばしてギルド長の次の言葉を待つ。
「…………」
「…………」
……空気が、重い。
頼むからこの空気を早く終わらせてくれ……。
「……ゼノア」
「は、はいっ」
「これより合否を伝える」
っ、来た……!
「……試験前、オレは言ったな。レインを倒せれば合格、負ければ不合格だと。結果はお前がよく分かってるだろうし、この言葉は覆さない」
「……はい……」
やっぱり……。
「ゼノア。シルバープレート昇級試験、不合格だ」
……そ、うだよな……。
レインさんを倒せなかった時点で、俺は不合格は決まっていた。
分かってはいたけど、きついなぁ……。
「だが、この試験の結果に、異議を唱えた奴がいる」
「……え? それって……誰っすか?」
「レインだ」
え、レインさんが? 何で?
「最後の攻防。お前が魔力切れで倒れなければ、レインは《ファイアーボール》をまともに食らっていたと自白した。確かにオレの目から見ても、それは間違いないだろう」
……そう言えば、最後の最後でもう一歩だった気もするけど……。
「魔力切れで試験には落ちたが、レインをあと一歩まで追い詰めたことも事実。よって、ゼノアにはギルド特別救済措置を執行することにした」
「……ギルド特別救済措置?」
何それ、知らないんだけど?
振り返ると、クレアも首を傾げ、レインさんはコクリと頷いた。
「ギルド特別救済措置は、私も過去に受けたものです。間違いなく、ゼノア様の為になるものですよ」
レインさんも受けた……? どんなものか、気になる……。
「あの、内容とかって……」
「それは受けると言質を取ったら伝える。因みにこれは、ギルド内でも超機密事項だ。これを聞いたゼノア、並びにクレア嬢は、ギルド特別救済措置について内外へ漏洩した瞬間、俺が殺す」
「「ひっ……!?」」
ど、どんな救済措置だよ、それ……。
「……因みに、受けなかった場合は……?」
「今後、二度とギルド特別救済措置を受けることは出来ず、更に昇級試験も一年後でないと再受験出来なくなる」
一年!? ブロンズのまま!?
そ、それはまずいっ。俺、早く強くなりたいんだよ……!
「……分かりました。受けるっす……!」
「よく言った!」
ギルド長が席から立ち上がり、まるで超肉食獣のような、獰猛な笑みを浮かべた。
「これより、ギルド特別救済措置を発令する。期間は一ヶ月。内容は至ってシンプル。一ヶ月、オレと寝食を共にし、俺の知る戦闘ノウハウの全てをテメェに叩き込む。更に、一ヶ月後に昇級試験の再試験を行う。拒否権はない。以上!」
…………。
ああ、なるほど……あと一ヶ月が、俺の寿命な訳だ。
そんなことを考え、俺の意思とは関係なく……脳が、考えるのを止めた。
「ぷぷっ……! ぜ、ゼノアっ、ファイト……!」
クレアてめぇ笑ってんじゃねーよ。
「クレア様。クレア様も、一ヶ月後のゼノア様に見合う実力を付けて頂くために、私も今まで以上に厳しく行きますので、そのおつもりで」
「!?」
ざまぁ。
ギルド長はテーブルを乗り越えると、軽々と俺を脇に抱えた。
「さ、今からスタートだ。クレア嬢、レイン。一ヶ月後を楽しみにしてな。こいつを色んな意味で男にして帰してやるよ」
「はい」
色んな意味でって何!? 何のこと!? 俺の防衛本能がビンビンなんだけど!?
「待ってレイン……わ、私はやらなくていいんじゃないかしら? ね、ねぇ? ……ねぇ無視しないで!?」
「ご覚悟を」
「いやだああああああああーーー!!!!」
……一ヶ月後、生きてたらまた会おうな、クレア……。
脇に抱えられながらギルド長室を出た俺は、クレアに向かって敬礼。
あぁ……短い人生だった……。
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