【ジョブチェンジ】のやり方を、《無職》の俺だけが知っている

赤金武蔵

昇級試験 クレア①

 三日後。俺とクレアは、揃ってギルドの訓練場にやって来ていた。


 まあ、来てるのはいいが……。


「ブツブツブツブツブツブツ……」


 俺氏ぶっ壊れ中(パート2)。


 あ、やべっ。覚えたことが頭から漏れる。零れ落ちちゃう。


「……クレア嬢。あいつどうしたんだ?」


「まあ、色々とありまして……」


「ほーん」


 魔法陣には平面と多重と立体があり、最高難度はブツブツ……。


「よっ」


 スパーーーーンッッッ!!!!


「いっだぁぁああああ!?」


 あ、頭取れるぅ! ……あ。


「つ、詰め込んだ内容忘れたぁ!?」


 せっかく必死になって覚えてたのにぃ!?


「お、戻って来たな」


 戻って来たなって……俺にビンタしたのギルド長か!? 何やってんのこの人!?


「ああああああんたっ! 俺がこの三日間必死になって覚えた知識をおおおおお!?」


「んだようるせーな……魔法なんてものはな、その場のノリと直感だ。知識だけ持ってても意味ねーぞ。実践あるのみだ」


 いやその知識を今ポロッと忘れちゃったんだよ!


 ギルド長に掴み掛かろうとすると、クレアに羽交い締めにされて止められた。


「ま、待ちなさいゼノアっ。どうどう、落ち着いて……!」


「ガルルルルルッ……!」


「犬かあんたは!」


 クレアを振りほどこうと暴れるが、流石に物理ステータスがクレアの方が高く、ビクともしない。


「……ゴリラ(ボソッ)」


「!? 何ですってぇぇぇぇえええ!?」


 ギリギリギリッ……!


「ぐえっ!? ぎぶっ、ギブッ……!」


「て、撤回しなさいっ! このアルフレッド家の儚く可憐な淑女に対してゴリラって何よぉ!」


「ずっ、ずびばぜんでじだっ! 儚くて可憐なクレアざま……!」


「そう、それでいいのよ」


 ぐへっ。はぁっ、はぁっ……肩の関節を外されるかと思った。……クレアを怒らせるのはよそう。殺される……。


「茶番は終わったか?」


 ギルド長……誰のせいだと……!?


「はい。お待たせしました」


「よし。なら、直ぐに昇級審査を始める。まずはクレア嬢からだ」


 ギルド長が指を弾く。すると、反対側の重厚な門が開き、一体のモンスターが現れた。


 緑色で巨大な体。二足歩行で人間に近い体付きをしているが、そのでかさは……俺の倍、いや、数倍はあるように見える。


 右手には巨大な鉈。左手には巨大な丸型の盾。局部が見えないように腰に布を巻いているが、それだけの装備だ。


「と、トロール!? そんなっ、ゴールドプレートですよ、あれ!?」


「いや、その情報は古い。つい数日前にランク改定がされて、あいつはシルバープレート扱いになった。ワイバーンと同じか、少し弱いくらいだ」


「だ、だからって……!」


 ……クレアが慌ててるな。そんなにやばいのか?


「クレア、あいつがどうしたんだよ」


「……端的に言えば、女の敵ってところね。場合によっては、可愛い男の子も食い散らかすド変態モンスターよ」


「女の敵? 男も食い散らかす? どういうことだ?」


「…………後でレインに教えてもらって」


 えぇ……レインさん、知識と実践でスパルタだから嫌なんだけど……。


 クレアはレヴァイブを抜き、トロールへ近付いていく。


 トロールもクレアに気付き、鼻息を荒くして鉈を振り回す。


「これより、クレア嬢のシルバープレート昇級試験を行う。トロールを倒せれば合格。敗北、またはオレが危険と判断した場合、失格とする。いいな?」


「はいっ!」


「では……始めィ!」


 ギルド長の合図で、クレアはトロールを中心に円を描くように走る。


 速い。まず間違いなく、素の俺では対応しきれないくらいだ。


「ゴオオオオオオオオオッ!」


 ぐっ……遠くにいるのに、一瞬怯んでしまう程の咆哮……! これが、ワイバーンと同等の力を持つモンスター……!


「うるさいわ!」


 だがクレアは怯まず、レヴァイブを構えてトロールへ肉薄し、頭上付近まで飛び上がる。


「メガスラッシュ!」


 まるでレヴァイブを叩き付けるような攻撃。それをトロールは鉈で受け、轟音と共に火花が散った。


 あの身長差で、トロールと同じパワー……。


「やっぱゴリラじゃん……」


「ゼノア! あんた覚えてなさいよ!」


 げっ、聞こえてた。


「それは違うぞ、ゼノア。あれは武技によるものだ」


「ブギ?」


「ああ。オレ達、《魔術師》は魔法を使うことが出来る。それに対して、《剣士》なんかは武技と呼ばれる、一種のスキルを使うことが出来るんだ」


 へぇ……そう言えばモンスタースポットの時も何か叫んでた気がする。あれは、ブギってやつを発動させるためのものだったのか。……カッコつけてる、イタイ奴なのかと思ってた。


「だが、やはりトロールと同じパワーか。ゴールドプレートには届かないが、シルバープレートでは十分やって行ける実力だな」


 ギルド長がニヤニヤ顔で解説してくる。


「だが──」


 え、だが?


「ゴアアアアアアアアアッ!!!!」


「ぐっ……!?」


 っ、クレア!


 鉈ではなく、盾によるタックル攻撃。それをまともに食らったクレアは、少し吹き飛ばされた。


「実戦経験不足だな。前衛職は、実戦で養われる直感も大切な武器になる。まだクレア嬢は、そこが浅い」


「クレア……!」


 頑張れ……頑張れ、クレア……!

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