【ジョブチェンジ】のやり方を、《無職》の俺だけが知っている

赤金武蔵

報告

「し、シルバープレート!? 私達が、ですか!?」


「おう。クレア嬢は、ビーストボアだけでなく、レッドウルフも狩れたんだ。本当ならゴールドプレートへの昇級試験を受けてもらいたいところだが、ゴールドプレートになるには別の条件があるからな……悪ぃが、今はシルバープレートで我慢してくれ」


 ……驚いた。まさか、こんなに早くシルバープレートに上がることが出来るなんて……ん?


「あの、ギルド長。俺アイアンプレートっすけど、次はブロンズじゃないんっすか?」


「ああ、飛び級だ。ワイバーンを三体仕留めたんだ。今更ブロンズなんて無意味だろ」


 まあ、確かに……俺も早くに昇級したかったし、別にいいんだが……実感がわかないな。


 ギルド長に貰った紙を見る。


 試験内容は至ってシンプルみたいだ。シルバープレートのハンターと一対一で戦い、力を示せればいいらしい。


「試験は三日後。それまでは休んでてもいいし、特訓しててもいい。自由にしてくれ。以上、解散!」






 その日の夜。アルフレッド家に戻った俺達は、揃ってシルバープレートへの昇級試験を受けることを報告した。


 その結果……。


「すっっっっっばーーーーーるるるるるるるるるるるるぁぁぁぁしぃぃぃぃいいいいい!!!!」


 うっさ!? レアスさんうっさ!?


「うむうむ。私は何も心配していなかったぞ、本当だぞ。ソワソワしすぎて加勢に行くとか考えてないからな、本当だからな」


「シルバープレート? シルバープレート? まあまあまあまあ、今日の夜はお祝いね! レインさん、今日は魔ダイのフルコースでお願いします!」


「畏まりました、奥様」


 ……喜んでもらえて、俺達も嬉しいが……ここまで喜ばれると、置いてけぼり感が凄まじいな。


「クレア、ゼノア君。今日はお祝いだ。何でも好きな物を強請ってくれたまえ!」


「いいの!? じゃあねぇ、じゃあねぇ……!」


 え、えぇ……何この子当たり前のように貰おうとしてるの……? 確かにクレアを助けた時は貰ったけど、今回は別に褒美を貰うようなことしてないじゃん……。


「いや悪いっすよ、それは。別に褒めて欲しくて強くなったんじゃないんで。それに、皆が喜んでくれるだけで、俺は嬉しいっすから」


「「「「っ!?!?!?」」」」


 ……え、何? 何で四人して固まってるの?


「ま、まさか……アルフレッド家の……公爵家の我が、何でも好きな物を強請れと言って……断る者がおるとは……!?」


「なんて出来たお方なんだ、ゼノア殿……!」


「まあまあまあまあ……!」


 ……そんなに驚かれるようなことか……?


「え、待ってゼノア。あんたがそんなこと言ったら、私貰いにくいんだけど……!?」


「貰わなきゃいいだろ」


「そんなっ!? 私だって欲しい装備とか、欲しいアイテムとか、服とかアクセサリーとか色々あるのに!?」


「シルバープレートになったら報酬も上がる。そういうのは自分で稼いで、自分で買おうぜ」


「うえぇ……ゼノアが厳しい……」


 当たり前のことだ。


「という事なので、今は何もいらないっす。美味い飯だけ食べさせてもらえれば」


「うむ、うむ。そういう事であれば、仕方ないな。ならば最高級の宴をしようではないか! アルフレッド家従者一同、アルフレッド家の名に恥じぬおもてなしをするのだ!」


「「「「はい、ご主人様!!!!」」」」


 いや、あの、張り切り過ぎだと思うが……まあ、何回も断るのは逆に失礼だからな……有難く頂こう。


   ◆◆◆


「げぷ……もう食えん……」


 約一週間ぶりのまともな飯……しかも全部が全部美味くて、つい食い過ぎた……。


 自室のソファーで寛いでいると、レインさんが紅茶をテーブルの上に置いた。


「ゼノア様、お紅茶が入りました」


「あ、うん。ありがとう、レインさん」


 紅茶に口を付ける。うん、相変わらず美味しい。


「……ああ、そうだレインさん。レインさんにお礼を言おうと思ってたんだ」


「お礼、でございますか?」


「うん。レインさんに魔法を教えて貰ったおかげでハンターにもなれたし、モンスタースポットも生き延びることが出来た。ありがとう」


「勿体ないお言葉でございます。ですが、全てゼノア様の努力の賜物です。私はそのお手伝いをしただけです」


「それでも、俺がお礼を言いたいんだ」


 もし俺が、《ファイアーボール》、《ウォーターボール》、《ライト》、《ガード》しか使えなかったら、ハンターにもなれなかっただろうから……感謝してもし切れない。


「……ありがとうございます、ゼノア様。そのお言葉を胸に、私も精進して参ります。そして、ゼノア様を立派なハンターに育て上げてみせます」


「…うん、これからもよろしく、レインさん」


「はい、よろしくお願い致します。……それでは差し当って、前回の続きからお勉強を再開致しましょう」


 …………へ?


「あ、の……きょ、今日は休みたいんですが……」


「ゼノア様。魔法というのは奥深く、尽きることの無い叡智と技術の集合体です。強くなるためには、日々の努力が欠かせません。不肖このレイン、ゼノア様を立派なハンターにすると心に誓いました。さあ……立派なハンター目指して、ファイトです」


 いや今日だけはホント許してえええええええええええええ!?!?!?


   ◆◆◆


 場所は変わって、ギルド内留置所。


 憔悴しているピッグ・デブーを囲む、白衣を着た三人の男女がいた。


「うーむ……ピッグ・デブーから検出される薬物は、どれも幻覚作用の出るものでは無いな」


「ですな。次は各薬物同士の反応を調べてみましょう」


「ええ。では、もう一度血液を採取します」


 白衣の女性が、ピッグの腕からかなりの量の血を抜く。


「ぅ……ぐっ……」


「採取完了。……抜きすぎましたかね?」


「いや構わん。検査の結果、被検体が接種している薬物の数は十を超えている。薬物禁止のトネルでここまでやらかしたら、いずれにしろ死刑は確定だ」


 死刑。


 その言葉に、意識を失いかけていたピッグは気合いで目を覚ました。


「く……そが……! この俺が、死刑だとォ……!」


「……驚くほどのタフネスだな、君は。黙らせろ」


「了解」


 女性がピッグの頭に手をかざすと、ほのかに白い光が灯った。


「《安楽睡眠》」


「っ……な、ん……ぁ……」


 ピッグの目から怒りが消え、瞼が徐々に落ちていく。


「彼女は《催眠術師》、SRランクの【ジョブ】だ。ゆっくり眠りなさい。次起きた時が──の、最後──」


 男の声を最後まで聞くことなく、ピッグの意識は闇に落ちた。

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