【ジョブチェンジ】のやり方を、《無職》の俺だけが知っている

赤金武蔵

一次試験

 ギルド長の案内で、建物の中を歩く。


 ピッグみたいな荒くれ者がいるからか、どこもかしこも傷付き、ヤニの跡や焦げが目立つ。等間隔に掛けられているランタンも、所々火が消えて薄暗く感じた。


「ゼノア、これを飲んでおけ」


「……なんすか、この緑色の液体?」


 しかも、瓶もなんか小汚いし。え、やだ飲みたくない。


「エーテルと呼ばれる、魔力回復薬だ。デブに魔法を使って、魔力が減ってるだろ。回復しとけ」


 よく見てらっしゃる。


 だけど……これ、飲むの?


「因みに体に害は……」


「ないが、ものっっっっっすごい不味い。だが、オレ達魔術師系ジョブには必要不可欠なものだ、今慣れろ」


 見た目通りのスパルタン!


 くそぅ……これ、飲まなかったらキレられそうだし……こうなりゃやけだ!


 コルクを取り、一思いに!


 ぐいっ。


「れろろろろろろろろろろろ!」


「うわ汚っ!? ゼノア汚っ!?」


「アッハッハッハッハッ!」


 いやっ、えっ、まっっっっず!? 何これ、え、ゲロを煮詰めたような不味さだぞ!?


「ひーっ、ひーっ! 期待通りのリアクションだな、ゼノア! オレも最初師匠に飲まされた時は、同じリアクションをしたもんだぜ。だが、効果は間違いねーよ。ステータスを確認してみな」


「……ステータス」






 ステータス
 名前:ゼノア・レセンブル
 レベル:15
 職業:《魔術師》
 職業レベル:4
 物理攻撃力:650
 物理防御力:540
 魔法攻撃力:1190(+500)
 魔法防御力:1020(+500)
 スピード:430
 魔力:1900(+500)/1900
 スキル:<魔法攻撃力向上>






 いやまあ、確かに魔力は回復してるけどさ……この不味さはどうにかならんのか?


「ゼノア、大丈夫?」


「ああ、なんとか……」


「エーテルは魔術師にとっての生命線だ。日頃から飲んで、慣れておけ」


 いやこれ慣れるもんなの?


「因みにこれ以外に回復手段は……」


「食って寝て起きれば回復するが、戦闘中はそうもいかんからな。因みにオレん時は、空になるまで魔法を撃ち、師匠に無理やり飲まされてた。今じゃこれがクセになってんだ」


 これをクセになるくらい飲まされるって……その師匠の顔が見てみたい……。


 しばらく廊下を歩くと、角を曲がったところでいきなり視界が明るくなった。薄暗い中を歩いてきたから、少し目がやられたが……ここは……外?


 円形状の広場に、天井はなく青空が広がっている。整備されてないのか地面は凸凹で歩きづらいが、長年それがデフォだったからか特に違和感を感じない。


「ハンターギルドに所属するハンター用の訓練場だ。普段は誰も使ってない無駄な場所だが、こういう時には役に立つ」


 ギルド長はくるりと振り返ると、獰猛な笑みを更に凶暴にした。


「オレの試験は二つある。一次試験は、お前の撃てる魔法の中で、最も強いものをオレに撃て。少しでも満足出来る出来なら、一次試験は合格。二次試験は、オレの魔法を防御魔法で防いでもらう。立ってたら合格、ギルドに入れてやる。倒れたら不合格、帰れ。シンプルだろ?」


 シンプルっつーか雑っつーか……この人らしいっちゃ、この人らしい試験だ。


 だけど、俺が知ってる中で最も強い魔法か……レインさんに教えてもらったけど、使えるかどうかは分からないんだよな……。


「オレの方はいつでもいいぜ。好きなときに撃て」


 え、ええ……撃てって……。


「いいんすか?」


「ああ。テメェの魔法程度では、このオレに傷一つ付けられねーからな」


 かちーん。そう言われると、俺もちょっとやる気が出たぞ。


「……じゃあ、行きます」


 両手をギルド長へ向け、魔力を集中する。


 レインさんの言っていたことを思い出せ。


 魔法は理論とイメージ。発動理論と発動イメージを両立することで、魔力量は変わらず威力も規模も桁違いになる。


 自分が今まで遭遇してきたものの中で、最も威力があり、最も規模の大きな──災害。


 魔力量、二〇〇〇・・・・。中級水属性魔法!


「《大激流》!」


 直後、目の前に放たれる超規模の水。<魔法攻撃力向上>で威力の上がったそれが、暴れ、荒れ狂いながらギルド長へ迫る……!


「へぇ……!」


 まるで、新しいおもちゃを買ってもらった子供のように無邪気な、凶悪純粋な笑み。


 ギルド長はこの水を前に……避けも、防御魔法も使わず、真正面から受けた。


「えっ!? お、おい!」


「落ち着きなさい、ゼノア」


「いや落ち着けって……あんなのに巻き込まれたんだぞ!? 死ぬだろ!?」


「安心しなさい。確かに、あれをまともな人間が喰らえば、間違いなく死ぬわ。……でも、あの人はまともじゃない」


 ……え?


 暫くして、《大激流》の魔法が切れる。


 そしてそこには……。


「ハッハーーー! イイネェ、イイネェ! 最ッッッ高だぜ、ゼノア! 興奮してきたァーーー!!!!」


 高揚しているのか、頬を染め、目をギラギラとさせているギルド長がいた。


 ……元いた場所から、一歩も動かず・・・・・・


「…………」


 え、あ……え?


「その唖然とする気持ち、分かるわ。あの人、防御を一切しないの。武器の攻撃も、素手の攻撃も、魔法の攻撃も、真正面から全て受けきり、傷一つ負わない」


 え……えぇ……。


「はあぁんっッ……! まさかハンターですらないこんな餓鬼に、こんなに濡らされるなんて……ゾクゾクしてきたァ……!」


 自分の体を抱き締めるように腕を回し、体を震わせながら舌なめずりをするギルド長。


 何この人、怖……。


「ゼノアァ……一次試験は合格だ……連続で二次試験、行くぜェ!」

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