【ジョブチェンジ】のやり方を、《無職》の俺だけが知っている

赤金武蔵

大貴族

「うおっっっほぉんっ! あー、大変失礼した」


「あ、いえお気になさらず」


 俺の前で顔面を腫らし、正座して縮こまるクレアのお父さんとお兄さん。その横で拳を握り締めているクレア。なんとも面白い絵面だ。


「全く……兄さんから話が行ったんじゃないの? ゼノアは私の恩人よ」


「く、クレア、私は父上にちゃんと言ったぞ」


「う、うむ。でも先に警備長から、怪しい男が連れていたと聞いたから……」


「デモもストもないの! 大体、兄さんもお父さんも、勘違いと過保護が過ぎるわよ! 私もハンターとして外で生活することも増えてるんだから!」


 ガミガミガミガミ。父と兄をガチ叱りするクレア。やっぱり面白い絵面だな。


「なーんだぁ。あなた、クレアちゃんの彼氏じゃないのね、ざぁーんねん」


 と、少し離れた位置にいたクレアのお母さんが俺に近付いてきた。


「娘さんが心配じゃなかったんですか?」


「結果よければ全てよしが、私のモットーよ。クレアちゃんは無事帰って来れて、こんな可愛い男の子も連れてきた。それでいいじゃない」


 ……何だろう。どことなくだけど、クレアと同じ残念感を感じる。この親にしてこの子ありってやつか。


「全く、うちの男共ときたら……」


「あ、クレア」


 説教が終わったのか、クレアがこっちに来た。


 その後ろを見ると、アランさんとクレアのお父さんは正座をしたまま動かない。どうしたんだろうか。


「我っ、脚……痺れ……!」


「わ、私も……!!」


「まあ……まあまあまあっ」


 え? お母さん?


 クレアのお母さんが目を輝かせて、二人の背後に回り込む。


「は、母上? やめてくださいよ、絶対やめてくださいよ……!?」


「後生だ……後生だレシェル……!」


「えいっ♡」


 ツンツンッ。


「「ッッッ!?!? 〜〜〜〜……!!!!」」


「あはっ♪ えい、えいっ♡♡」


「「おっ、ほっ……!? …………ッ!!」」


 わあぁ……サディスティックな笑顔。


「ゼノア、行くわよ」


「あれ、いいのか?」


「ああなったお母さんは、飽きるまで終わらないから。お客さんであるゼノアを、こんな庭先で待たせる方が失礼だからね」


「……なんかクレアがまともに見えた」


「私はまともでしょ!? 全くもう……!」


 ぷりぷり怒るクレアの後について行き、家の中に入る。


 いや、これはもはや家と言うより、お屋敷と言った方がいい。とにかくデカい。この玄関だけで、俺の住んでいたボロ屋が丸々入りそうなくらいだ。


 クレアはくるりと回ると、自慢げに両手を広げて満面の笑みを見せた。


「ようこそゼノア! 大貴族が一つ、公爵家アルフレッドへ! アルフレッド家は、あなたのことを心から歓迎するわ!」


 ……おい、マジか。


「庭先で正座してる大の大人二人も、恍惚な笑みを浮かべて弄り倒してる大人も?」


「……はい」


 おい目を背けるな、こっちを見ろ。


 マジかよ……まさかとは思ったが、クレアってすげー家の出だったんだな。


「敬語にした方がいい?」


「そんな、今更いいわよ。むしろ、ゼノアとは対等な関係でいたいわ。敬称も敬語も不要よ」


「まあ、今更お前(みたいなアホな奴)に敬語とかちょっと無理だしな」


「そうそ……ん? ちょっと待ちなさい。今何かしら含みのある言い方しなかった?」


「気のせい気のせい」


 クレアの案内の元、俺は応接室に通された。ソファー、座卓、暖炉、シャンデリア、高そうな絵画に、飾られている食器。絵本で見た貴族の応接室そのまんまだ。


「多分もうそろそろ来ると思うわ。それまで、ゆっくりお茶でも飲んでましょ」


 ソファーに座って伸び伸びと脚を伸ばすクレア。


「お嬢様、殿方の前ですよ」


 側にいたメイドさんが、ため息を付きながら窘めた。


「まあまあ、いいじゃないレイン。私とゼノアの間には、そんな些細なことどうでもいいのよ。私のエロ可愛い体に欲情しないような奴だもの」


「まあ……」


 まあ、じゃねーよまあ、じゃ!


「おいクレア、俺を不能扱いするんじゃねぇ! 健康的な一般男性十五歳舐めんなよ!」


「ほら、舐めるなって言ってるじゃない」


「なるほど、男性の方が好みなのですか。ご馳走様です」


「お前らに付いてる耳は飾りか!?」


 あとご馳走様ですって何が!?


「冗談よ冗談。冗談くらい受け流しなさいよっ」


「ったく……」


 何か無駄に疲れたぞ……。


「え? 冗談なのですか?」


「「…………」」


 レインさんの呟きに戦慄する俺ら。何だろう、攻撃されるとか、死ぬとかとは別の意味で身の危険を感じる。

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