【ジョブチェンジ】のやり方を、《無職》の俺だけが知っている

赤金武蔵

邂逅

 古井戸を出て三日。意気揚々と町へ向かおうとしていた俺は……今だに森の中を彷徨っていた。


「うーん……俺ってあの村から出たことなかったから、方向感覚も何も分からないんだけど……こんなに森の中で足止めを食らうなんて、思ってもみなかったな……」


 幸い森の中だから、水も食料も豊富だ。生き延びるには問題ないが……別の町に行くのを目的にしてたから、ここでの足止めは結構辛い。


 ビーストボアの丸焼きが美味そうな匂いを漂わせる。ついさっき仕留めたイノシシ型のモンスターで、こいつの肉は野生とは思えないほどジューシーで柔らかい。ここ最近ずっと食べてるけど、今のところ飽きはこないな。


 それに、こいつのおかげで俺のステータスは順調に上がっている。






 ステータス
 名前:ゼノア・レセンブル
 レベル:10
 職業:《魔術師》
 職業レベル:2
 物理攻撃力:560
 物理防御力:420
 魔法攻撃力:830(+500)
 魔法防御力:780(+500)
 スピード:250
 魔力:1100(+500)/1100
 スキル:<魔法攻撃力向上>






 素のレベルはかなり上がってる。だけど目的の職業レベルが中々上がりづらい。初めて上がったときは、ビーストボアを丁度10体倒したときだ。それ以降多く倒しても、別のモンスターを倒しても、一向に職業レベルは上がらない。


 素のレベルの方は、モンスターを狩れば狩るほど上がるんだろうけど……職業レベルってのは、どうしたら上がるんだ?


「三日で一レベル。先は長そうだな……」


 というか、この調子だと三〇レベルなんて相当先の話になるぞ。どうにかして、効率のいい方法を探さないと。


 ビーストボアの肉をかじりながら、次は今までのドロップアイテムを確認する。


「インベントリ」


 そう言葉にすると、ステータスの時と同じように、目の前にウィンドウ画面が浮かび上がった。だけど内容はステータス値ではなく、保管しているドロップアイテムを、一覧として確認出来るのだ。


 理屈や構造は不明。今も、世界中の高名な人達が調べてる途中らしい。






 インベントリ
 ・八五〇〇ゴールド
 ・ゴブリンの耳×89
 ・ビーストボアの牙×25
 ・ビーストボアの毛皮×14
 ・ポイズンワームの毒袋×4






《魔術師》チュートリアルで倒したゴブリンと、彷徨ってる間に倒したビーストボア、ポイズンワームのドロップアイテムが入っている。


 このドロップアイテムってこの先何に使うのかは分からないけど、念の為捨てずに集めている。将来的に、道具屋とかで売れるかもしれないし。


「はぁ……アイテムを集めても、町に行かなきゃ意味ないんだよなぁ……」


 誰かに道を聞こうにも、こんな場所じゃ人なんていないだろうし……参った! 正直お手上げ!


 せめて空を飛んだり出来れば、楽に進めると思うんだけど……《魔術師》のでは無理なのか、それともレベルの問題なのか、空を飛ぶことは出来ないんだよな。多分、SRにランクを上げれば、出来るとは思うんだけど……。


 今は、自分の出来るだけの力で乗り切るしかない、か……。


「……んっ? くんくん。うわ、汗臭……!」


 そういえば、ここ最近満足に水浴びもしてなかったな。ローブはまだ汚れは目立たないけど、シャツとズボンくらいは水で洗おう。


 ビーストボアの残りの肉をインベントリにしまうと、服を脱いで近くの川辺に向かう。


「冷たっ……!」


 まだ春先だから、水が大分冷たい……!


 だけどまあ、真冬に冷水を浴びせられてたあの時に比べたら、比較的暖かい方だ。今は近くに焚き火もある。問題は無い。


「ふぅ……気持ちいい……」


 全身の汚れを洗い流す。顔の痛みも、もうほとんどない。こんなにスッキリ水浴び出来たのは、一体どれくらいぶりだろう。


「♪〜〜♪〜〜♪〜〜」


 ガサッ──。


 ……がさ?


 音がした方を振り返る。と……。


「……女の、人……?」


 誰だろう。見たことない女の人だ。少なくとも、村の人ではないだろう。小さな村だったから、こんな綺麗な人がいれば間違いなく知ってるはずだし。


 森の中を走ってきたからか、女の人の綺麗な金髪には木の葉や蜘蛛の巣が絡んでいる。息は乱れ、蒼い瞳はまるで怯えてるかのような目をしていた。


「……っ! あ、あんた! 私を助けなさい!」


 は? 助け……?


 何を言ってるのか分からないけど、次の瞬間にはどういう意味なのか分かった。


 女の人の後ろから、汚らしい怒号が聞こえて来る。それに、松明の灯りもチラチラと見える。誰かに追われてるみたいだ。


「私追われてるの! あいつらに捕まったら、嬲られて犯されて、一生おもちゃにされちゃうわ!」


 なぶ……? おか……? どういう意味だろう。それにおもちゃって何? 遊ばれるってこと……?


「……身の危険だから、あいつらをどうにかして欲しいって意味か?」


「そう!」


 何だ。そうならそうと言ってくれればいいのに。


《魔術師》の腕輪の付いている右腕を前に突き出すと、魔力を集中する。


「あんた、何を……?」


「《ライト・ファイアーボール》」


 手の平サイズで威力は弱めの《ライト・ファイアーボール》を四つ放つ。女の人の真横を通り過ぎると、追手の手前で閃光と派手な音を鳴らして豪快に爆発した。


 光の魔法の《ライト》と、《ファイアーボール》を組み合わせた威嚇用の魔法だ。


「これでいいか?」


「…………」


 ……おい、何惚けてるんだ?


「あ、あんた……もしかして《魔術師》!?」


「おう。新米《魔術師》、ゼノア・レセンブルだ。よろしく」


「…………」


 ……無視しないで? 挨拶したんだから、挨拶を返せよ。寂しいだろ。


「……見つけた……やっ、と……」


「お、おい!」


 い、いきなり倒れたぞ!?


 川から出て急いで近寄る。……よかった、息はあるな。疲れて眠っただけみたいだ。


 ……この子、どうすりゃいいんだろ?

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