外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第2話 そんな生き方、辛くないか?

「イーラ、落ち着いたか?」
「う、うん。ありがとうなのだわ、お兄ちゃん……」




 俺の服を摘んで、人から隠れるようにしているイライザ。
 知らない人からあんなに詰め寄られたら、怖がるのも無理はない。




「イーラたん、今日は休む?」
「無理する必要ないわよ。また後日でも……」
「……んーん。せっかくここまで来たんだもの。皆で見て回りたいのだわ」




 ……そっか。なら、楽しまなきゃ損だな。
 そっとイライザの手を握ると、頬を朱に染めて握り返してきた。




「じゃ、見て回ろうか」




 受付で人数分の金を払い、中に入る。


 どうやら記念館の中は、イライザに縁があるものを、年代別に分けて展示しているみたいだ。
 今いる一階には、イライザの幼少期に使っていたものなどが展示してある。




「イライザの遊んでいたおもちゃ。……パズルか?」




 木の球体が。複雑な形に切られている。
 多分、一度崩したら二度と元に戻せそうにない。それくらい複雑なものだ。


 説明にも、パズルとして使われていたと書かれてるな。
 世界中の高名な研究者が、数十年の歳月をかけてやっと完成させたものらしい。


 と、それを見たイライザが目を輝かせた。




「あっ、これ覚えてるのだわ!」
「これも展示してあったんだ……懐かしい」
「エリオラちゃんも知ってるの?」
「ん。これ、私が作った」




 エリオラが作った? この難解なパズルを?




「これ、組み合わせが千通りある」
「五歳の時に九百八十二通りまで出来たけど、あと作れなくて泣いちゃった覚えがあるのだわ」


「「「…………」」」




 俺達唖然。あのイヴァロンも唖然。
 そんな小さい頃からぶっ壊れスペックですか。とんでもない姉妹だな、この二人。




「ま、待って二人共。これ、三千年以上前に作ったものよね? 劣化どころか、傷一つ付いてないんだけど……」
「世界樹ユグドラシルで作った。絶対加工出来ない植物。傷も付かないし、劣化もしない」
「え……でもこうして加工されて……」
「私に不可能はない」
「…………」




 久々に、エリオラのハイパースペックの片鱗を見た気がする。


 記念館の中を、時計回りに見ていく。
 イライザの使ってた茶碗。
 イライザの使ってた寝具。
 イライザの作ったアイテム。
 イライザの壊した城壁の欠片。
 更にイライザの幼少期の肖像画(超リアル)。




「え、これ肖像画か? 写真で撮ったみたいにリアルだぞ」
「私が念写した。イライザの可愛さを後世に残すために」
「恥ずか死にそうなのだわ……」




 ぷしゅ〜。イライザの頭から湯気が出てる。
 ただ……こうして見るとイライザに縁のある品々と言うより、エリオラとイライザの生活の記憶と言った方がいいな。


 二人がどんな風に生活して、どんな風に生きてきたのか……それを見ることが出来るようだ。


 登りに登って十三階。
 ここからは少し殺風景というか……展示品が少ないな。




「あー……ここから、私とお姉ちゃんが別の派閥に行ったのだわ」
「余がイライザに会ったのもこの時だったな」




 なるほど。だから展示品も少ないのか。
 雰囲気も、どことなく禍々しい感じもする。


 ここからは展示品より、イライザが何をしてきたかが事細かに書かれていた。


 特に衝撃的だったのが、深淵の悪魔を召喚したけど態度が気に入らなくてぶん殴った一幕。




「これマジ?」
「だってあいつウザかったんだもん! 召喚してあげたのに、対価を寄越せとか矮小な魔族とか雑魚とか罵ってきたんだもん! 泣いて土下座するまで殴ったのだわ!」




 お、オゥ……。
 イライザ、そこ胸を張るところじゃないぞ。


 イライザの実体験という名の補足を聞きながら見学することしばし。




「あら? イーラちゃん、あれ何かしら?」
「え?」




 ミケが指さした先にあったのは……棒?
 細く、長い木の棒が、ガラスケースに入れられずに展示されている。
 かなり劣化してるし、説明もない。


 それなのに……異様な存在感を醸し出しているな……。




「うーん……見たことあるような、ないような……?」
「でも展示されてるってことは、お前の縁のあるものなんだろ?」
「多分……?」




 ここに来るまで、イライザは事細かに補足説明をしてくれてた。
 そんなに記憶力のいいイライザが、これを覚えてないってのは、どういうことだ……?


 それな……何故か俺も、この木の棒に凄く惹かれる。




「……触ってみていいかな?」
「ダメに決まってるでしょ。何言ってんのよ」




 あんたバカァ?とでも言いたそうな顔。
 いや、でも……うーん。気になるんだよなぁ。
 それにこの細さ、長さ。凄く馴染があると言うか……。








「いいのだわ。だってそれ、お兄ちゃんのでしょ?」








 ……は?




「……イライザ、何言って……?」




 思わず、偽名で呼ぶことすら忘れてしまった。
 当の本人も、ポカーンと口を開けている。




「え、あれ……? 何で私、これをお兄ちゃんのものって言ったのだわ?」
「いや、知らんけど……」


 これが俺の?
 いやいや、そんなわけないだろ。何千年前のものだと思ってるわけ。俺ちんそんな長生きじゃないよ。


 全く、何を言って──。










『そんな生き方、辛くないか?』










 …………んん?
 ……何で、そんなセリフが浮かんだんだ?


 イライザと顔を見合せ、同時に首を傾げる。
 ……何か、奇妙な感覚だ。
 何だろう、これ。




「……なあエリオラ。俺って人間だよな?」
「うん。体も魂も、人間そのもの」


 だよなぁ……?


 更に首を傾げる。
 ……ま、ここで悩んでたって仕方ない。
 ここを見て回れば、何かしら──。




「──ぅッ……!?」




 な、何だっ? 木の棒が、光って……!




「タナト──!」
「どうし──のよ、タナト──!」
「おに──ちゃ──!」
「──ナト! おい──ト──!」




 皆の声が遠くに聞こえる。


 そして、俺の意識は暗転した。

コメント

  • ノベルバユーザー385074

    続きがとても気になる

    0
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