外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第9話 ここまでテンプレ

「タナト、服を買いに行くわよ」


 突然ミケがそんなことを言い出した。


「服? 着てるだろ」


「それ男タナトの服じゃない。だぼだぼすぎ。下も着なさい。あと脚を広げるんじゃないわよ」


 ええ、めんどい……。
 別に服なんて着れれば何でもいいし、男の俺の服があればいいだろ。
 皆の服は、何だかんだで俺には合わない。
 エリオラ、イライザ、イヴァロンはそもそもの大きさだったり、ミケは胸のサイズだったり。


「あんた今失礼なこと考えなかった?」


「オホホホホ、ナンノコトヤラ」


「わざとらし過ぎるわ……」


 つってもなぁ。二週間で元に戻るなら、わざわざ買う必要が無いというか。


「買うのって女物だろ?」


「当たり前じゃない」


「俺男なんだけど……」


「今は女の子でしょ」


 そうだけどなぁ……。
 渋っていると、エリオラが縦に首を振る。


「可愛いタナトが女の子の服着た姿、見てみたい」


「全面賛成なのだわ!」


「ボーイッシュも似合うのではないか?」


『ウチ的には、深窓の令嬢的な服もいいと思うのじゃ』


 やいのやいの。女の子だけめっちゃ盛り上がってる。
 いや……うん、でもなぁ……。


「別に着飾んなくてもいいだろ」


 ビシィッ。
 空気が固まった。
 え、何この空気。何で皆、そんな怖い目で見てくるの。


「今の俺、着飾る必要がないっていうか……それに男物の服とか着てると、ずぼら女子って感じでそれはそれで良くないか? そもそも着飾って誰に見せる訳でもないし」


「「「「『…………』」」」」


 …………。
 おい、何で黙るんだよ。


「タナト……どうやら、わからせる必要があるみたいね……」


「えっ」


 わ、わからせ……て、何が……?
 よ、四人の圧が怖い……!
 かくなる上は、逃げるしか──。


 ガシィッ。


「逃げられると思ってる?」 


「ひぇっ」


 こっっっわっ! ミケ力強! 何これ逃げられない……!


「覚悟しなさいタナト」


「今のあなたは単なるメスガキ」


「メスガキ初心者なのだわ」


「わからせがいのあるメスガキなのだ」


「ふぇ……」


 怖い怖い怖い怖いっ!
 あとメスガキってなんだよこの野郎! 俺は男だぞ!


「さあタナト、外への穴を開けなさい」


「い、嫌だ!」


「拒否するなら今から全員であんたを犯すわよ」


「!?」


 な、なんてこと言いやがるこの女……!?
 あっちを見ても、こっちを見ても目をギラつかせている女ばかり。
 俺の味方は皆無。
 くそっ……今だけは従うしかないのか……!


「か、体は自由に出来ても、心まで自由に出来ると思うなよ……!」


「タナト、ここまでテンプレ」


「雌落ちする未来が見えるのだわ」


「そのうちくっ殺とか言いそうなのだ」


「イヴァちゃん、それは騎士である私の前では禁句だから」


 ちくせう……。


「……どこに開ければいい」


「やっぱり王都ね。あそこなら世界中のファッションも揃ってるし。芸術の都でもいいけど、とんがり過ぎてるから」


「分かった」


 言われた通りに外への穴を開ける。


「さあ、キビキビ行くわよ!」


「「「『おー!』」」」


 はぁ……本当、どうしてこんなことに……。


   ◆◆◆


 王都の裏路地から表通りに出る。
 いつもなら、この時点で可愛い女の子を複数連れた平凡な俺に嫉妬の視線が突き刺さる。
 だが、今日に限ってはそんな視線もなかった。
 その代わり……男共から突き刺さるのは、欲望の視線。
 それが俺を頭から足先まで、舐め回すように注がれる。


 ゾワゾワゾワゾワァ……!


「み、ミケっ。ミケ壁になってくれ……!」


「……それは私の体のことを言ってるのかしら。ぶん殴るわよ」


「違う違うっ、マジだから、ネタじゃないから……!」


「目がガチ過ぎる……あーもう、後ろに隠れてなさい」


「うん……」


 男の視線怖い……。
 俺がミケの後ろに隠れ、服の裾を摘む。
 そのお陰で幾分か視線は和らいだ。


「……俺、これから女の子にはもっと誠実に接するようにするよ……」


「タナトよ、いきなりどうしたのだ?」


「男の視線怖い……視線が既にエロい……欲望の塊……」


 素直な感想を言うと、皆は「あぁ〜」って感じで苦笑いを浮かべた。


「私達は元が女だから慣れてるけど……」


「確かに、美少女なりたてのお兄ちゃんにはキツイのだわ」


「だ、大丈夫よタナト。直ぐに慣れるわ」


「うむ、そうだぞ。せっかく美少女になったのだ。今を存分に楽しんだ方がよいぞ」


 無理、楽しめない。男怖い。


「と、とにかく、まずは下着買いに行きましょ。何するにしても、下着が無いのはまずいわ」


「お願いします……」


 とにかく、何でもいいから視線を妨げる場所に行きたい。
 世の女の子達、ごめんよ。これからは俺、真っ当に生きるから……。

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