外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第8話 ……俺、可愛くない?

 その日は朝から体調が悪かった。
 熱もないし咳も出てない。頭や喉の痛みもない。
 ただ、体が怠くて重い。
 こんな状態が、既に三時間も経っていた。


「タナト、やっぱり横になった方がいいんじゃないかしら……?」


「んー……大丈夫、大丈夫」


「でも、顔色悪いわよ。ほら」


 ミケが手鏡を見せてくる。
 なるほど、確かに血色が悪い。
 青白い……いや、土気色と言うべきか。


「むむむ……っ」


「うーん、これでもないのだわ……」


「ここも正常、ここも正常……ぐぬぬ……」


 エリオラ、イライザ、イヴァロンが俺のあちこちを触って異常を確かめている。
 だけど、これといって異常はないみたいだ。


「とにかく寝た方がいいわよ。釣りなんていつでも出来るじゃない」


「知らないのかミケ」


「何がよ」










「釣りは、今はまだ病気には効かないが、そのうち効くようになる」
「今じゃないと意味ないじゃない」


 食い気味に否定された。
 確かにそうですね、てへ。
 だけど、本当に体が怠重いだけだからなぁ。
 昨日から変なことと言えば……釣りをして、見たことがない魚を釣ったくらい……か?
 なんだっけ、あの魚。食ったら変なことが起きるらしいけど……。


 へい、《釣り神様》。


『解。ランダムフィッシュ。食した数時間後、エネルギーが吸収し終えると同時に食した本人がランダムに変身する』


 あ、そうだそうだ。
 で、あとどのくらい?


『解。三秒』


 え。


「っ!? お、お兄ちゃん! 光ってる、光ってるのだわ!?」


「なになになに!? 何なのこれ!?」


「くぅっ、間に合わない……!」


「タナト、しっかりするのだタナト!」


 た、確かに光ってるけど、どこもおかしく……うぐっ!?
 か、体がっ、熱い……!
 これが変身……!?


『告。変身完了まで、五、四、三、二、一』


「っ!?!?!?!?」


『──変身完了』


 ……熱、が……引いていく……。
 俺を包んでいた光も……消えた。
 何だ? 特に体に変化はないが。
 どうなってる、俺は。何に変身したんだ?


「お、おい。俺、どうなってる?」


「「「「『……………………は?』」」」」


 え、何その反応。
 手を握る。首を動かす。足を曲げる。
 ……うん、人型だ。どうやら、変な獣や魚に変身した訳じゃなさそうだな。
 てことは、人型の何か。
 ……見た感じ、人間。
 肌もちゃんとしてる。顔を触っても、口、鼻、目、耳がある。間違いない。


 ったく、驚かせやがって。
 安心し、無造作に髪を掻き上げる。


 サラッ──。


 ………………ん? ……髪の毛、長くね?
 俺の髪の色は黒だ。その黒いまま、艶やかで腰まで長くなっている。
 ……そういえば、腕や脚も短い。手も小さい。
 ……え、まさか。
 ドクン、ドクン、ドクン……。
 胸……いざ。
 もにゅん。


「────」


 もにゅん、たゆん。


「……え、そんな……え……」


 ……そう言えば、心做しか声も高い。


「……タナト……よね?」


「お、おう。俺だ……」


「…………」


 ミケが無言で手鏡を見せる。
 ──ああ、なるほど。どうやらマジらしい。










 俺、女になりました。


   ◆◆◆


 リビングに緊急集合。
 ソファーに座る俺。
 その対面には、エリオラ、ミケ、イライザ、イヴァロンの順で並んでいる。
 外には、レニーが目を丸くして俺の方を見ていた。
 ……そんなにマジマジと見られると恥ずかしいんだが。


「なるほど……タナトは昨日釣ったランダムフィッシュとやらを食い、女になったというわけだな?」


「おう」


「おう、じゃないわ戯け!」


 って言われてもなぁ。
 ソファーの隣に置かれた姿見を見る。


 艶のある黒髪ロング。
 アーモンドアイの大きな目。
 胸は中々……恐らくEからF。
 背も、エリオラより高いがミケより低い。多分、百六十センチくらいか。
 そして何より、顔。


「……俺、可愛くない?」


「くぅっ! 認めたくないのだわ……!」


「なんと言う正統派美少女……! 余、負けた気分……!」


「私、女タナトでもよゆーでイける」


「くっ、私も可愛い方だけど、このタナトには勝てる気がしない……!」


『ウチ、多分人型だったら襲ってるのじゃ』


 そ、そんなにか……?
 流石にこのメンバーから見ると見劣りするというか地味な感じはするが……。
 つか髪邪魔。後ろで結ぶか。
 ミケに貰ったゴムで一つ結びにする。髪が長いから手こずるが、何とか結べた。


「は? タナト誘ってる? エッチしたい?」


「待てエリオラ。何故そうなる」


「タナトがエロいことしてるから」


「してねーよ!?」


 ただ髪を一つ結びにしただけだろ!


「まあまあエリオラちゃん抑えて。それでタナト。その状態はどれくらい続くの?」


「ん? ちょっと待っててくれ」


《釣り神様》、そこんとこどうなの?


『解。ランダムフィッシュは効果時間もランダム』


 で、今回は?


『──二週間』


「二週間!?」


「「「「『えっ!?』」」」」


 はっ? えっ? 二週間このまま!?
 たちあがると、ズボンとパンツはずり落ち、ティーシャツはだぼだぼ。ティーシャツワンピースみたいだ。
 うーん、このまま二週間かぁ。


《釣り神様》、魔法とかで元に戻せないのか?


『解。魔法や呪いの類いではなく、生体情報の書き換えによる変身のため不可能』


 あー、治せないか。


「……治せないみたいだし、とりあえず二週間このままってことで。よろしく」


「「「「『……オゥ……』」」」」


「ヒヒン……」


 という訳で、俺の二週間女の子生活が幕を開けたのだった。

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