外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第2話 今の余はイブちゃんなのだ!

 部屋を出ると、既に俺達以外の皆は起きてリビングに集まっていた。マイヤもスッキリした顔で、皆と座卓を囲んでいる。


 ゆったりモードなのか、皆とろけてるなぁ。


「あ、タナト。おはよう」


「ああエリオラ、おはよう」


 俺も定位置であるソファに座る。すると、エリオラが俺の隣に座って背中を摩ってきた。……なにごと?


「タナト、背骨大丈夫?」


「……背骨って何のことだ?」


「……覚えてない?」


 ……覚えてない、とは? 俺の背骨に何があったんだろうか?


「え、エリオラちゃんっ。しーっ、しーっ」


 ん? ミケも何を慌ててるんだ?


「……覚えてないのならいい。世の中には知らない方がいいこともある」


「お兄ちゃん、気にしちゃ負けなのだわ」


「あれは見事だったな」


 怖い怖い怖いっ。その含みのある言い方怖いっ。何で皆してそんな遠い目をしてるのさ!


 ……うん。皆の言う通り、気にしないようにしよう。気にすれば気にするほど背筋が凍る……。


「あっ、それよりミケ! 余は腹が減ったのだ!」


「あ、はいはい。今作っちゃうわね」


「ハンバーグ! 旗も刺してくれ!」


「ふふ、分かったわ。じゃ、旗は用意してくれる? 道具は用意するから、好きな旗を描いてね」


「あーい!」


 お前完全にお子様じゃねーか。


 ミケとイヴァロンが並んでキッチンへ向かうのを見届けると、マイヤが神妙な面持ちで口を開いた。


「あの、タナトさん。この度はご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」


「ん? ああ気にするな。俺達も、あんたも、あの屑女の被害者なんだ。共闘してぶっ潰すのは当たり前だろ?」


「……はい。本当によかった……これで、お師匠様も浮かばれます」


 遠くを見つめ、薄らと目に涙を浮かべるマイヤ。


 確かあの屑女は、マイヤの生前の師匠は転生せずに魂が崩壊したと言っていた。つまり、今この世界には師匠の転生体はいないということ……なんて声を掛けたらいいか……。


「マイヤちゃん、これからどうするのだわ?」


「……少し、落ち着く時間を作ろうと思います。勿論十極天としての仕事も真面目にやります。炎極天のこともありますし、信頼出来る人の元に相談に行こうかと」


「信頼出来る人?」


「聖王天です」


 ……は? 聖王天? あのヤンキーのことか?


 俺とエリオラが顔をしかめていると、マイヤは苦笑いをして口を開いた。


「彼、あんな見た目だし、あんな口調だから勘違いされがちですが……本当はとても優しい方なんです。戦場において誰一人死なせないために体術を極め、【治癒】のスキルを極めた故に死後五分以内なら蘇生させることも出来る。そのため、与えられた称号は治癒天ではなく聖王天。彼の高潔な魂を称えられて付けられた称号なんです」


 ほっほー。あいつそんな奴だったのか。俺からしたら、国王にも噛み付く狂犬ってイメージだったけど。


「そっか。じゃあ気を付けて行けよ。念の為に通信用魔石を渡しておくから、いつでも連絡くれ」


「ぁ……ありがとう、ございます」


 マイヤに魔石付きのネックレスを渡すと、少しだけフワッと笑った。やっぱり美人なだけあり、笑顔が映えるな。


「……ふふ。それにしても、まさか今生で天雷の魔女と紫電の魔女と知り合えるとは思ってもみませんでした。前世では、遠い雲の上の存在だと思っていましたから」


「私達を知ってる?」


「はい。前世の記憶を思い出したときに、お二人のことも思い出しました」


 と、マイヤはポケットに手を入れると、使い古された手帳のようなものを取り出した。


「今は俄然ミケさん推しですが、昔はこれでもエリオラさんとイライザさんの姉妹推し。お二人の強さに憧れて大分無茶をしたのも覚えています。あ、サインください」


 ってその手帳、もしかしてサイン手帳かよ。


「サイン? 書いたことない」


「私もないのだわ」


「お名前を書いてくださるだけで大丈夫です。あ、マイヤちゃんへと書いてください」


 ミーハーかこいつ。


 エリオラとイライザはペンを借り。


『えりおらより まいやちゃんへ』
『イライザより マイヤちゃんへ』


 と、すげー適当な感じでサインした。いや、ちょっと可哀想だろ……。


「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます! これは姉妹推しからしたら全財産を叩いても買いたい逸品ものですよ!!!!」


 ワォ、超ハイテンション。


 二人のサインを見てキラキラと目を輝かせるマイヤ。エリオラとイライザも、どことなく恥ずかしそうだ。


 そんな皆をほっこりした気持ちで見ていると、ミケがお盆に皿を乗せて運んできた。


「皆ー。ご飯出来たから、用意手伝って」


「手伝うのだわ!」


「ハンバーグ♪」


「なら、私も手伝います」


「あ、じゃあ俺も……」


「タナトは待ってて。あと余り動かないで。ちょっと……ね?」


 背骨か!? やっぱり背骨なのか!? ほんとに俺の体に何が起こったんだ!?


 ちょっと愕然としていると、皆が準備をしているときにイヴァロンがこっちに駆け寄ってきた。


「タナト、タナト! 見てくれ、これ余が作ったのだ!」


「ん? どれどれ」


 イヴァロンの手に持っている旗を受け取る。爪楊枝の持ち手に糊で貼り付けられてる旗は、黒地に赤い紋様が描かれていた。ちょっとかっこいいじゃねーか。


「何の旗だ?」


「余の旗だ!」


 余の旗、て……これ魔王軍の旗か!? マイヤがいるのにバカかこいつ!?


「おま、自分の立場ちゃんと分かってるか?」


「うむ! 今の余はイブちゃんなのだ!」


 本当に分かってるのだろうか……。


「イブさん、楽しそうですね」


「おおマイヤ、見てくれこれ! 余が作ったのだ!」


 やっぱ分かってねーじゃん!?


「へぇ、とてもかっこいいですね」


「だろ!? 一生懸命作ったのだ!」


 ……あ、あれ? 何も言われない? ……魔王軍の旗ってのは気付かれてない、か?


 ……ま、気付かれてないならそれでいいか……。

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