外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第11話 催眠の魔女……?

   ◆◆◆


「ぐ、ぬ……ぬぬ……!」


 マイヤはカードを二枚持ち、それを前にイヴァロンが苦々しい顔で手を交互に動かしている。


「ふふふ。イブさん、そちらでいいのですか?」


「ううううるさいわい! 見ておれ……こっちだ! ディズニードロー!」


「あ、ババなのだわ」


「うぎゃあああああ!?」


「じゃ、こっちを引いて。はい上がり」


「うおおおおおお! また負けたーーーー!!!!」


「ぷぷぷ。ざこイブ」


「エリオラ貴様ぁ!」


 ……打ち解けたなぁ、こいつら。


 白部屋の浮遊馬車にて、マイヤはエリオラとイライザとイヴァロンと一緒にババ抜きをしている。マイヤも皆も楽しそうだ。


 だけど……。


「……ミケ、おせーな」


 もうそろそろ帰る連絡があってもいいと思うんだが……。


 何か……嫌な予感がする。


「ふむ。確かに遅いな。いつもなら直ぐに帰ってくるが、もう二時間経つぞ」


「ああ……ちょっと外行くか。皆はどうする?」


「「「行く!」」」


「あ、じゃあ私も行きます」


 ま、そうなるか。


 外界への出口を出すと、俺達はそこを潜ってどこかの建物の上に出た。眼下を眺めても、夜だと言うのに相当の賑わいだ。


「皆、ミケの気配とか辿れるか?」


「「「「あっち」」」」


 おぉ……皆同じ方向指さした……仲良しか、こいつら。


 四人の指さした方を見る。と、そこには例のアートミュージアムがあった。何であんなところに……?


「……ミケの近くに別の気配がある」


「誰かと一緒にいるのか?」


「うん。それに、そもそもミケの気配も安定していない。単一過ぎる」


 単一過ぎる……? どういうことだ……?


「……この気配……あれ……私……あれ……?」


「マイヤ、どうした?」


「……私、このミケさんの気配……覚えがある……? え、でも……こんなの知らないはずなのに……知ってる……?」


 マイヤが訳が分からない言葉を言って混乱している。


 覚えはある。知らないはずなのに知ってる。これは……前世の記憶か?


「マイヤの感覚は間違ってないのだわ」


「うむ。この気配は間違いなく奴だ」


 奴……? ……それって……。


「催眠の魔女……?」


「間違いないのだ。この胸糞悪い気配、忘れもせん」


 てことは……っ! ミケが催眠に!?


「エリオラ!」


「ん」


 エリオラが指を弾くと、俺達の周囲の景色が歪み、次の瞬間にはアートミュージアムの入口に転移していた。


「ミケはどこだ!」


「中」


 中か!


 俺は手をアートミュージアムに向けると、入口の外側に一つ、内側にもう一つの穴を作り、《虚空の釣り堀》を経由した侵入口を作った。


 ミケ、どこだ、ミケ……!


 警報はあるだろうけど、エリオラがその全てを無効化しているためアートミュージアムの中を全力で駆け抜ける。


「お兄ちゃん、この先なのだわ!」


「この先……自由空間かっ」


「私が先に行く。皆は後ろへ」


 エリオラが少し前に出ると、攻撃を想定してか防御魔法を張った。


 そして……見えてきたっ!


「ミケ!」


 自由空間にて、水晶の前に佇むミケ。だがその目には生気がなく、ボーッと目の前の水晶を見つめていた。


「ミケ……!」


「待って」


 前に出ようとすると、エリオラに止められる。他の皆も、俺を中心に警戒するように円形上になった。


「……出て来たらどう?」


 何だ……? さっき言ってた、ミケ以外のもう一人か……?






「キハッ☆」






 ゾッ──。


 な、何だっ、今の気味の悪い笑い声は……?


 身の毛のよだつような、神経を逆撫でされるような気味の悪い声。そんな声の持ち主が、ミケがの陰からゆっくりと姿を表した。


「こんにちは☆ あなたがタナトちゃん?☆」


「……そういうお前は催眠の魔女だな。レスオン・アノマリア」


「えーっ☆ 私の名前知ってるの?☆ やだもーエッチスケベストーカー☆ でもでもー、おねーさん的にはタナトちゃんはねぇ……タ、イ、プ、だ、ぞ☆」


 自身に危機が迫った生娘のように、体を捻りながら抱き締めるレスオン。その全てが胡散臭く、気持ち悪い演技を見てるみたい。


 ここまで生理的に関わりたくないと思った相手、初めてだ。


「キハッ☆ そんな怖い顔しないでよぉ☆ おねーさん悲しいなぁ☆」


「……何故ミケを攫った。ミケに何をした」


「むー、言葉のキャッチボールしてくれないと泣いちゃうぞ☆ まあ答えると、君達を誘き出すためにちょこっと催眠しただけなんだけどさ☆」


 チッ、やっぱりそう来たか……。


「レスオン……!」


「あぁん☆ エリオラひっさびさー☆ あ、動かないでね?☆ 動くと彼女の首、捩じ切るよ?☆」


「っ……」


 レスオンがミケの首に手を回して、俺達をコケにするような笑みを浮かべている。くそっ、ミケを人質に取られてたら、俺らからは動けない……!


 どうする……どうするっ……。


 エリオラも、イライザも、イヴァロンも膠着状態。マイヤは……ん?


「…………っ……はぁ……はぁっ……!」


「ま、マイヤっ。大丈夫か……!?」


 マイヤの息が荒い。それに顔色も……!


「あっっっれぇ?☆ そっちの子ってもしかして〜、お師匠さんをぶっ殺した魔族ちゃん〜?☆ キハハハッ☆ 転生したんだぁ☆ いや、出来たんだねぇ〜☆ あんな酷いことしておいて、よくあなたの魂は転生することを望んだねぇ〜☆ あのお師匠さんなんて、絶望しすぎて自ら魂を壊したのにぃ☆ 案外あなたって冷たい女の子だったのね☆ キハッ☆」


「っ! ……ぉ……お師匠……様……? あぐっ……!」


「マイヤ!」


 突然頭を押さえ込んで倒れるマイヤに、イライザが駆け寄る。


「お前……!」


「あれれぇ?☆ 何で怒ってるのかな?☆ 全部本当のことだし、事実を言っただけだよ?☆」


「ふざけんな! お前が催眠で操ってただけだろうが!」


「そうだよ?☆ だってそれが私の力……私のスキルなんだからさ☆ 操って弄んで殺す☆ それが私だよっ、キラッ☆」


 ……狂ってやがる……何でこんな奴が生まれたんだ……意味が、意味が分からない……。


「さてさて〜☆ じゃあ早速本題に入ろーかな☆」


 レスオンは口を三日月のように裂き、おぞましい笑みを浮かべると、俺に向けて手を差し伸べてきた。


「タナトちゃん☆ 彼女が大切なら、代わりにあなたがこっちに来て☆」


「……は? 俺?」


「うん☆ 私の目的は最初から、あなたよ☆」


 可憐なウィンクをするレスオン。


 しかしその目には、紛うことなき嘲笑が浮かんでいた。

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