外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第10話 キハッ☆

   ◆◆◆


「なに? 魔弾とタナトが接触した?」


「……ん……芸術の都で会ったと……魔弾天が言っていた……」


 鍾乳洞の奥にて、エンリからの報告を受けた黒ローブ。


 まさかここでタナトとマイヤが接触するのは予想外だった。タナトを手に入れるための策は考えていたが、その中に十極天がいるとなると話は変わってくる。


 十極天の実力はエンリを見れば分かる。エンリはチームの中でも、リーダーである黒ローブと同等の力がある。それと同じような力を持つ魔弾天のマイヤがいるのは、不安要素が拭えない。


 ここは一度策を考え直して……。






「キハッ☆ そんなに深く考えなくてもだいじょ~ぶだいじょ~ぶ☆」






 そう考えていると、鍾乳洞の奥から明るい笑い声を奏でる少女が姿を現した。


 見た目年齢は十三歳ほどだろうか。ギラギラと不自然に輝く大きな瞳に、耳まで裂けてるのではないかと思わせるほどの残虐性を秘めた笑み。


まるで頭から血を被ったような髪色をした少女が、歌うように二人の話に割り込む。


「キハッ☆ キハハッ☆ 相手は普通の男の子に~、マイヤって子も普通の女の子なんでしょ?☆ なら簡単だよ~☆ 私の催眠の前には男も、女も、大人も、子供も、赤ちゃんも、人間も、魔族も、亜人も☆ 皆等しく玩具なんだからサ☆」


「……催眠の。貴様の力は信用しているが、我らの目的は魔王イヴァロン様の復活だ。その為にはエリオラを手に入れる必要がある。分かっているな?」


「もちのろんだよ☆ エリオラはタナトちゃんにぞっこんラブリーキュンキュンなんでしょ?☆ エリオラを手に入れるためにはタナトちゃんを手に入れる☆ 間違ってないよね?☆」


「ああ、その通りだ」


「じゃ、後は私におっまかせー☆ キハッ☆」


 少女――レスオンは鍾乳洞の出口に向かいながら、にちゃあという音と共に口を開く。そしてどこを見ているのか分からない虚ろな目で、虚空を見つめた。


「楽しみだなぁ☆ 楽しみだなぁ☆ 可愛い男の子の顔が歪む顔の、楽しみだなぁ☆ どんな風に歪めようかなぁ?☆ 絶望?☆ 脅迫?☆ 憎悪?☆ 懐疑?☆ 嫉妬?☆ 憤怒?☆ 殺意?☆ そ、れ、と、もぉ……キハッ☆ キハハッ☆ キハハハハハハハハハハハハハハハハハッ☆」


 その狂気の笑い声はどこまでも続き、レスオンはいつの間にか鍾乳洞から消えていた。


   ◆◆◆


「ぶえっきゅしょーい!」


 おおっ、いつになくデカいくしゃみだ……。


「あれ、タナト風邪? ゆず湯作ろうか?」


「んー……いや、今の感じは誰かが俺の噂をしているときの感じだ」


「いや、何でそんなこと分かんのよ……」


「直感?」


「根拠ゼロじゃない! 全くもう、直ぐ作るから待ってなさい」


 流石ミケママ。何だかんだ言いながらもちゃんと俺達の体調を管理してくれてる。


 キッチンでテキパキと準備をするミケを横目に、今度は魔境の先にいるマイヤに目を向けた。


「マイヤ、今のところなんともないか?」


「ええ。危険の出どころを探るため、言われた通りに街を歩いていますが……特にこれと言った変化はありませんね」


「そうか……」


 話によると、マイヤは既に十回連続で同じ夢を見ているそうだ。流石にここまで連続して同じ夢を見ると偶然なんて言葉じゃ説明が付かない。必ずその元凶があるはずなんだ。


 だが……こうして無意味に散歩だけしてても埒が明かないしな。


 どうしようかと考えていると、ゆず湯を作ってきてくれたミケが、思い出したかのように口を開いた。


「あっ。そうだタナト。ちょっと外に出てもいいかしら? この都市で作られてるアートベジタブルって野菜を買いに行きたいんだけど」


「お? いいけど、一人で大丈夫か?」


「平気よ。そもそも芸術の都は治安はいいし、もし悪党がいたとしても私なら余裕よ」


 ……ま、ミケに喧嘩を売るような馬鹿はそうそういない、か。


「ん、分かった。気を付けてな」


「ええ。じゃあ行ってきます」


 外界に通じる穴を空けると、ミケは足取り軽やかに外に出て行った。あれだけ楽しそうに出かけるミケ、久々に見た気がする。


 アートベジタブルは知っている。その名の通り、まるで芸術作品のような野菜のことだ。


 花のような形のカボチャ。網目状に育った大根。渦を巻いているナス。完全正方形のトマトと、面白い形が数多い。


 今日の夜は野菜たっぷりメニューかなぁ。今から楽しみだなぁ。


「……あ、そうだ。マイヤも今日はこっちで飯食おうぜ。せっかく知り合えたんだし、皆で飯食った方が美味いだろ?」


「え……嬉しいですけど、いいのですか?」


「ああ。うちの奴らは、俺が言ったことには大体同意してくれるしな。問題ない」


「なるほど。それでエッチなことも無理やり同意させて……」


「まだそのネタ言うか」


   ◆◆◆


 タナトに繋げてもらった芸術の都の商店街は、王都並かそれ以上に活気に満ちていた。


 やはり観光客も多いみたいで、そのお目当ては当然アートベジタブルみたい。甘みや美味みも深いし、絶対タナトに食べて欲しい。


「おじさん。アートトマトを一袋。あとアートポテトを一袋頂戴」


「あいよ! おっ、おねーさん美人だね! オマケでアートパンプキンも付けておくぜ!」


「もう、美人だなんて……ありがとうございます、おじ様」


「くぅっ! おじ様なんて呼ばれたの初めてだ! アート大根もおまけだ! 持ってけおねーさん!」


 やった! ふふ、狙い通りね。


 おじさんから受け取った紙袋を片手に、今度は別のお店に向かう。


 芸術の都クレセンドは、野菜以外の肉、魚、加工食品も芸術品のように作られている。


 ……タナト、気に入ってくれると嬉しいな……。


 キュッ、と紙袋を抱き締める。


「……喜んで、くれるよね」


 ……早く買って帰ろ。それで腕によりをかけた料理を──。






「こんにちは!」






 ……え? ……何?


 振り返ると、私のすぐ目の前にまだ幼い女の子がいた。


 その子が私を見上げて、天真爛漫な笑みを浮かべている。


「こんにちは!」


「こ、こんにちは……?」


 誰だろう、この子……迷子?


 でも、周りを見渡しても誰も探しているようには見えない。この近くにはちないのかしら。


 ……何だろう、この違和感。周りの人の動きが……どことなく、変だ。さっきまで楽しそうに賑わってたのに……今は少し、虚ろというか……。


「ねーねー、おねーさん」


「あっ……え、えっと、どうしたのかな? 迷子?」


「んーん、おねーさんにお話があるの」


「私に?」


「うんっ」


 女の子は手を後ろに組んで、クルッと回る。


 そして一回回った女の子の顔には──狂気を孕んだような、気持ちの悪い笑みが貼り付けられていた。






「キハッ☆」

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