外れスキル【釣り】を極限にまで極めた結果 〜《神器》も美少女も釣れるようになったけどスローライフはやめません。〜

赤金武蔵

第4話 子供がいっぱいだな

 アートミュージアムの中は、良く言えば均整のとれた、悪く言えば雑多な印象の世界観だった。


 入り口と同じように芸術品が宙に浮いたり、ガラスケースの中に展示されていたりととにかく数が多い。俺とミケ以外殆ど客がいない中、俺達はゆっくりと展示品を見て歩いていった。


 因みにエリオラ達は同じ場所にはいない。ミケの気配探知ではアートミュージアムの中にいるらしいから、特に心配する必要は無いな。


 薄暗い中歩いていると、俺達の目の前に一枚の絵画がどこからともなく飛んできた。一人の女性に、複数の天使がまとわりつくような絵画にミケは感嘆の声を漏らす。


「わぁ……綺麗な絵ね……」


「お、おぅ、そうだな……」


 キュッ……。俺の腕に抱きつくミケの力がほんの少し強くなる。


 俺とミケの身長差はそこまで大きくない。そのせいでミケから漂ってくる花のような香りが鼻腔をくすぐるわ腕に当たる慎ましくも柔らかな感触がなんとも言えないわというか顔近いまつ毛長いあわわわわわ。


「タナト……? どうしたのよ、私の顔ばかり見て。私の顔に何か付いてる?」


「えっ、あ、いや……」


 や、ヤバい。前からミケは絶世の美女だとは思ってたけど、これは想像以上にヤバい。




 エリオラのような儚げな美しさとは違う。
 イライザのような意志の強い美しさとも違う。
 イヴァロンのような人懐っこい美しさとも違う。
 エミュールのような天真爛漫な美しさとも違う。
 シャウナのような可憐な美しさとも違う。




 全く異質。傍にいるだけで安心させてくれるような、頼りたくなるような感じ。


 それだけじゃない。ミケなら俺が何をしても許してくれるというか、「しょうがないわねぇ」とか言って慈愛の目で見ててくれるというか……端的に言えば、甘えたくなる。そんな感じだ。


「? ふふ、変なタナト」


 くっ……! 笑顔可愛いかよ……!


 なるべく、腕に当たる感覚を意識しないように展示品に集中する。


「そう言えばタナトって、装備やアイテムは釣れるけど、こう言った芸術品は釣れないの?」


「え? ……どうだろ、考えたこともなかったな」


 へい、《釣り神様》。そこんとこどうなの?


『解。芸術は歴史的財産であるため、現状の能力では不可能』


 あ、やっぱダメなのね。


「……うん、俺の【釣り】スキルでは無理そうだな」


「そうなの……残念ね。もし出来たなら、浮遊馬車にいくつか絵を置きたかったのに」


 残念そうに眉を下げるミケ。いやまあ、俺のスキルも万能って訳じゃないからなぁ。その辺のことは、エリオラの方が可能性あるんじゃないかな。あとでエリオラに聞いてみよ。


『別解。現状では不可能。しかし条件を満たせば可能』


 いや出来るんかい。


 因みにその条件って?


『解。条件を満たしていないため解答不能』


 ケチ。


 だけど、今の状態でも条件を満たしてないって……一体どんな条件なんだ……?


《虚空の釣り堀》の延長線上なら、条件を満たしている。と言うことは、俺の持ってる能力とは違う能力なのだろうか。


 ……ダメだ、分からん。タナトさん考えるのは苦手なのよ。


 モヤモヤしたままアートミュージアムの中を歩くと、今度は別の部屋に来た。


 暗い空間の中央に、水晶玉が一つだけ浮いている。その水晶玉に、天井からライトが浴びせられていた。


「何だ、ここ……?」


「ここは自由空間よ。あの水晶に触ると、その人が望む光景が映し出されるの。人の心は芸術品ってことね。やってみる?」


「おお、なんか楽しそうだな」


 俺の望む光景ってどんなんなんだろ。


 ワクワクしながら水晶に触れる。


 虹色の光が水晶に集中すると、それが螺旋を描くように動き回り、次の瞬間には部屋一面へと弾けた。


 そこに現れたのは、二つの光景。


 俺から見て右側。


 湖のほとりで釣りをしている俺。その右横に座り、体を預けるミケ。左横にはエリオラ。俺の膝の上に座るイヴァロン。背中に抱きついているイライザ。


 皆、楽しそうに笑っている。本当に楽しそうだ。


 そして左側。


 ……子供だ。子供がいる。


 しかも一人や二人じゃない。十人、二十人と増えていく。


 そしてその子供達の後ろに現れたのは……エリオラ、イライザ、イヴァロン、ミケ、エミュール、シャウナだ。


 うーん……? 何を表してるんだこれは? これが俺の望んでる光景なのか? 孤児院でも開きたいのだろうか、俺は。


「…………」


「ん? ミケ、どうしたんだよそんなに顔を赤くして」


 まるで魚みたいに口もパクパクさせてるぞ。どうしたのホント。


「たっ、たっ、たなっ、たっ……!? こここここここれっ……!」


「ああ、子供がいっぱいだな」


「ほ、ホントに……こ、これ、タナトが望んでる、の……?」


「え? そうなんじゃないの?」


 だって俺の望んでる光景を映し出すんだろ? だったら俺が望んでるんじゃないのか?


「ぇぅ……ぁぅ……っ」


 さっきからミケの様子がおかしい。どうしたのだろうか。


「も、もういいわっ。は、は、早く行きましょっ」


「え、ミケはやらないのか?」


「私のはぜっっっっったいダメ!」


 えっ、そんな拒否する?


「ミケの望む光景……気になるんだけど……」


「だって私のはタナトと……なっ、なななな何でもないっ、何でもないから……! さ、さあ行くわよっ、どんどんじゃんじゃん行きましょう!」


「え。お、おう?」


 うん……? 何をそんなに急いでるんだろうか。そんなに俺に見られたくないことなのだろうか。なら、俺が強要するのは間違ってるな。


 そう考え、ミケが引っ張るのに身を任せて俺達は部屋を後にしたのだった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品